【SS】ルパパト「クリスマス3」

いちおうクリスマス的アピール。

ちなみに中身は塩せんべいです。和菓子屋さんの雑なクリスマスアピール嫌いじゃない。

それはそれとしてクリスマスケーキを買いにスーパーへ行ったのに、「ローストチキンいかがですかー」っていうのを聞いてああそうだシャケ買わなきゃって思わずお魚の売り場に行こうとしてしまったのでホント罪深い……来年まで覚えてたら本気で恨むわルパパト。
なんとかシャケは買わずに帰ってきて、お歳暮にいただいたお菓子でも食べようと思って袋を開けたら、思った以上にシャケでした
まさか最中にシャケが仕込まれているとは……っ!(中はちゃんとアンコでした)

ということでサーモン引きずりつつ、行き場のないSS置いていきます。圭一郎とつかさ先輩。
もうカップリングなんてどこにもない。

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区切りのいいところで仕事を切り上げて、相棒にそろそろ行くぞと声をかけたが、生返事とはいえ「すぐ行く」と言われれば、わざわざ連れ立っていく理由もない。
だが、圭一郎は来なかった。たしかに気になる案件ではあるけれど、今夜片づけなければならないわけではない。魁利にせがまれ電話をかけたときも、半分上の空で「今日は行けない」という答えが返ってきただけだった。
まったく手間のかかる同僚だ、と電話を切ってすぐ透真に持ち帰り用を取り置くよう頼んだ。そうでなければ、咲也や魁利たちが食べ尽くしてしまいそうだったから。自業自得ではあるが、クリスマスの夜くらいは甘やかしてもいいだろう。ここ数年、二人とも落ちついたクリスマスなど過ごせていなかった。
悪酔いした咲也の搬送をノエルにまかせ、つかさは一度出た職場へと向かった。

「……なにを言っているんだ?」
ドギーバッグを手にしたまま凍りつくつかさを、圭一郎は沈痛な表情で見上げる。
一人で調査をつづけていた彼は、驚愕の事実とさらに信じられない推測を伝えた。夜野魁利の兄、宵町透真の婚約者、早見初美花の同級生が、それぞれ大量失踪事件の被害者に含まれていたこと、そして……。
「いや、ありえない!」
激昂するつかさを前にしても、自分自身で衝撃を乗り越えた後だからか、圭一郎の声はひどく冷静だった。
「最初に彼らを疑ったのはおまえだ。あのときも、それなりの理由があったんだろう?」
今となってはあるともないとも言えない。背格好や全体的な雰囲気が似通っている気がした、そして自分たちの前に現れたタイミングがちょうどよすぎた、その程度だ。
「だがアリバイは証明されている! それに、あの三人がまさか……」
咲也のように感情だけで信じることはできない。だからこそ、一度自分自身がその目で確認した事実を感嘆には覆せない。
圭一郎は椅子にもたれ、開きっぱなしの画面を見やる。
夜野勝利……失踪者の一人。
さわやかな印象の写真を見つめながら、彼はぼんやりと口を開いた。
「以前……魁利くんが、めずらしく弱音を吐いたことがあった。お兄さんのことで……彼は、年上のおれに兄の面影を追っているのかもしれない」
突然、彼とのやりとりを語った圭一郎は、そこまで言ってつらそうに眉を寄せる。
「その直後に戦ったルパンレッドは、妙に精彩を欠いていた。なにかに迷っているように……おれとの戦いを避けようとするかのように」
「それだけのことで、魁利くんを疑うのか?」
思わず、鼻で笑っていた。笑うしかない。
「魁利くんが今日、どれだけおまえが来るのを楽しみにしていたか……おまえも彼の好意はわかっているはずだろう?」
失踪した兄の面影でもなんでもいい、彼は圭一郎との時間を心から楽しんでいる。それはつかさの目から見ても明らかだ。
大きく息を吐き出し、ずっと提げていたドギーバッグをデスクの上に置いた。
「これでも食べて少し落ちつけ。腹がへっているからおかしな方向に頭がいくんだ。温めてきてやろうか? ただしコーヒーは自分で……」
「透真くんか……」
その料理を作った人間もまた、圭一郎が快盗と疑う人間の一人だ。
あまり表に立たない彼とはほとんど接点がないはずだが、それでも言葉を交わしたことはあるようだった。
「彼はおれに、魁利くんの『保護者ではない』と言った。ただの仕事仲間だと。ずいぶんと冷たいと思っていたが……同じ目的のために一時的に手を組んでいるのなら、その距離感も不思議ではないのかもしれない」
「穿ちすぎだ」
失踪者の家族や関係者は他にも大勢いる。ノエルのように「大事な人を取り戻すため」だと圭一郎は言うが……。
「口ではどう言っても、透真くんはだれよりも魁利くんと初美花ちゃんを大切に思っている。わたしにも……」
そこまで言って、彼の言葉を思い出す。
「つかさ?」
二人のためを思うなら、近づくなと。まるで警告のように。
「透真くんは、我々と親しくなるのを恐れているように……見えた……」
つかさの銃をとり、迷いも狂いもなく敵を撃ち抜いた横顔を思い出す。無我夢中のまぐれ当たりだと、あとで彼は苦笑した。怖かったからよく覚えていないと。
頭から納得したわけではない。それでも、彼らを二度も疑うことはできなかった。
無愛想ながらも常に仕事仲間を見守っている青年を。不器用だけれど明るくていつも一生懸命な少女を。軽い態度と言動の裏に、さびしそうな本心を隠している若者を。
透真が言うとおり、距離を縮めすぎたのかもしれない。常連客と店員というだけの関係ではすでにない、かけがえのない友人が、自分たちを欺きつづけていたなどとは考えたくもない。
だがもし、それが真実なのだとしたら。
「圭一郎……」
彼は力なく椅子の背にもたれ、苦しげに目を閉じる。
「おれは……魁利くんの笑顔を見ていたかっただけなのに……」
弱々しく呻く言葉には、普段の力強さも、正義すらも感じられない。圭一郎にとってはだれもが、個人である前に守るべき市民だった。これまでは、例外なく。彼に出会うまでは。
「だから……早く来いと言ったんだ」
どんな真実が待ちかまえているとしても、せめてこの聖夜だけは、ただの友人として笑い合っていてほしかった。
その機会は、この先もう二度とないかもしれないというのに。

 

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はっ! せっかくの聖夜なのにノエルを咲也のタクシーに使ってしまった!
やだもったいない!

圭一郎は騒動のあいだもずっと調べ物してたので、透真のお弁当がなんでシャケ推しなのかはわかんないでしょうね。
ていうか次回も頭おかしい話っぽいんですけど、ギャグとシリアスの配分がもうすでに酸と塩素レベルなんですけど。混ぜるな危険。