【ワンライ】ゴーカイジャー

アイムとルカ
1153字
二人の世界を彩るお題
「月の光が照らす道」「人魚」「また明日」


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見張り台から遠くを眺める。今いる場所は夜。この星の月は少し小さくて、それでも今日は欠けることなく輝いてあたりを照らしていた。
アイムは手すりから身を乗り出して少し考えていたが、やがて一人微笑み、手すりを乗り越えて飛び出した。
帆に落ちて跳ね上がった体は、そのまま船の舳先へ。弾みをつけて一気に駆け上がる。
辿りついた先は、ガレオンの先頭部分。
「まあ……」
翻ったスカートを押さえ、眼下に広がる景色を見渡す。
遙か下に広がる黒い海に、月の光が白い道を作っていた。中空へ突き出した舳先の上に立つと、まるで夜の中に浮いているような気さえする。宇宙空間の無重力ともまたちがう、重力があるからこその浮遊感。
このまま水の中に飛び込んだら、また異なる浮遊感を味わえるだろうか。お伽噺の人魚にでもなった気分で。
しかし、この星の人魚は悲しい存在らしい。愛する人の傍らに在ることと引き換えに、声を失ってしまうのだとか。
もしそんな悲しい存在に出会ったら……
「そんなところでなにやってんの!」
見つかった、とアイムは肩をすくめる。甲板を見下ろすと、ルカが腕組みをして立っていた。
「マーベラスに知られたらうるさいわよぉ」
たしかに、ここは船長の特等席で、乗組員はもちろん、よほどのゲストでも上ることは許されていない。
しかしこの時間、船長は外へは出ない。船に乗ってそれなりの期間を過ごしているから、仲間たちの行動パターンはだいたい把握している。
しかし、ルカにこれ以上気を揉ませるわけにもいかない。
「そうですわね……」
長い髪をかき上げ、くるりとふり向く。それから、急な角度の傾斜を躊躇いもせず駆け下りていった。
「わっ、バカっ……」
下であわてるルカが、それでも腕を広げてくれたことを確認し、その腕の中に飛び込む。彼女は衝撃で数歩後ずさったが、倒れずにアイムの体を受け止めた。
「……バァカ!」
本気の罵声がなんだかうれしくて、アイムはルカを抱きしめたままくすくすと笑い出す。
「なにやってたのよ!」
「人魚を……探していましたの」
声を失って愛を伝えられない人魚を。
「はぁあ?」
案の定、ルカは怒ったように眉を上げてアイムを睨みつけた。
「そんなもんいたら、あたしが捕まえて売り飛ばしてやるわよ!」
人魚もルカのような気性なら、声を失っても苦しむことはなかっただろう。いやそもそも、声を失ったりはしなかった……
彼女のようなら、なにも失わずに済むのだろうか。
アイムはゆっくりと彼女から離れ、裾のめくれたスカートを払って直した。
「ではまた明日。おやすみなさい」
「ちょっと……」
まだなにか問いたげなルカを微笑みで振り切って、船内に戻る。
ただ傍らにいるだけなら、悲しい人魚と変わらない。声はあっても、愛を伝えられるとは限らない……
アイムは船室の窓から、黒い海と白い月を眺めた。
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すみませんオラオラ船長にふさわしいお題が出なくて逃げました…
一次の練習だと思うことにします。

特撮【SS】

Posted by nickel