【ワンライ】シン・ゴジラ
矢口と赤坂
972字
2人でじゃれったー
『照れながら 指切り。』
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ソファにもたれた赤坂は、テレビの中の矢口を眺める。
彼は女児と目線を合わせ、にこやかに話を聞いていた。小学校を訪問し、子供たちと意見交流をするという「企画」だ。
『やくそく、してくれますか』
『ええ、もちろんです』
こまっしゃくれた、と赤坂の目には映る少女が小指を突き出すと、彼は少し驚いた顔を見せたが、すぐにはにかんだ笑みを浮かべて長い指を差し出す。
議員と少女の「約束」の瞬間を、多くのメディアが捉える耳障りな音と光。
ニュースの話題が切り替わり、赤坂も視線を画面から自分の真横へと切り替えた。
「大したパフォーマンスだ」
視線の先には当の本人が、グラスを片手にナッツをかじっている。ネクタイなどとっくの昔にどこかへいっていて、赤坂の肩を背もたれにしつつ油のついた指を舐めるさまは、今の今までテレビに映っていた男と同一人物には見えない。
だがその声だけは、メディアの前で理想を語るときと変わらなかった。
「彼女は本気だった。私も大人たちではなく彼女とその同輩たちに向けてアピールをしました」
パフォーマンスであることは認めているのだ。その相手をすり替えることで、彼の正義が保てるというのならばそれでいい。
赤坂も笑ってグラスに口をつけた。
「未来の大事な票だからな」
子供のいない矢口にとって、福祉や教育方面の政策アピールは支持基盤を広げるために不可欠なのだろう。
「約束は守りますよ。守れる立場に押し上げてくれるならね」
「担ぎ上げられたときには、別の約束のためにその他の約束を反故にしなきゃならなくなる」
「ではひとまず先着順にしましょう。そうなると、あの子の優先度は高いな……」
そんなことを言っていられるのも、まだ身軽だからだ。今や少しも身軽ではなく、反故にした約束のほうが多くなっていた赤坂は、歯がゆさと羨望を飲み込んで苦笑する。そのうちいやでも現実を知るだろうから。
テーブルにグラスを置いてから、ふと自分の小指を眺めた。
「約束……は、有権者とだけか?」
身を起こした矢口が、その指を見つめる。
「……守れる約束なら、だれとでも」
照れながら少女と交わした小指が、赤坂の指に絡められた。目の前で見るとさらにほっそりして長い。
「じゃあやめておこう」
言いながら、五本の指を彼のそれに絡ませる。自然の流れとして手を組み合った二人は、どちらからともなく相手を引き寄せて唇を重ねた。
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「照れながら」と「指切り」を切り離す戦略(苦肉の策)。
ゴジラが出ないと、ただの政治家BLっていうかスーツBLになるのが難点ですね。