【SS】ルパパト「七人の戦士」

今度の本がいちおうルパパトの総集編みたいな感じなので、これもついでにここで出しておこう……
前にピクブラで言ってた透真と彩さんと魁利の話は、もうちょっと煮詰めていいですか。焦がしたら処分しますが。

てことで、最終回後に出しそこねてた、快盗と警察の話。
とくにカップリングはないです。
なんかこう、荒川的な雰囲気……(?)
サブタイトルは「みんなノエルが大好き」です(偏愛)。

終盤を見返してたらまたムラムラと語りたくなったのでこのあとテキストブロックがあるけど気にしないでください。

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改めて思うのは、ルパパトってやっぱり仮面ライダーじゃなく戦隊だったんだなあと。なにいってんだって感じですけど。
仮面ライダーは「悪と同質の忌まわしい力」で戦うけど、まず「絶対正義」の国際警察が使ってる時点で、世界観的には「正しいもの」なんだよね。
魁利・透真・初美花に渡されたVSチェンジャーは、決して「悪い力」ではないから、勝利・彩・詩穂も使うことができたんじゃないかなと(彼らが快盗になることを承諾したという意味で)。
ノエルもコグレさんも、犯罪者という十字架を背負わせてはいないんだと思う。義賊ですらなくて、あくまで「奪われたものを取り返す」ことに特化してるから。

結果的に社会的制裁を受けてしまったけど、それも警察の公権力のせいではないし、このスタイルでそれなりに楽しく生きていきます、っていうラストに悲壮感がなかったので、あれはあれでハッピーエンドなんだと受け止めました。宇宙海賊も宇宙刑事公認で暴れてるし、そういうノリで今後もいくのかなと。
でもルパンレンジャーっていう存在自体、アウトローのゴーカイジャーが「宇宙の海賊だから」「周年のお祭りだから」っていうとこに逃げた問題と真正面から向き合った感じもある。

途中までは魁利だけがどんどん堕ちていく話かと思ったら、みんなが魁利の目線まで下りてきて、「ムリして正しい世界に合わせなくてもいいんだよ」って言ってくれる話でした。魁利が自分の力で獲得した快盗の能力やセンスは、だれにも取り上げられなかった。ホントにアルセーヌの後継者になってもいいんじゃないかな。
魁利の引力がすごいのは、あの圭一郎までも揺らがせたことなんだけど、そこは魁利自身が「そっち側にいて」とやんわり拒否してくれたから、最終的なバランスが取れて、どっちの選択も否定しなくて済んだのですよね。
もう自分の仲間も彼の仲間も脇に置いて、魁利一人だけのために警察官であることを捨てようとする圭一郎に、何度でも悶える。そして圭一郎にあれだけ執着していた魁利のほうから「背中を押す」のも悶える。あのへん見てると呼吸困難になるから何度も見返せない……(用量を守りましょう)

たぶんわたし魁圭もだいぶめんどくさい原理主義なので……いつも王道推しなのに王道には手が出せないのツライ……(やっと魁透がマイナーだということを認めた)

トータルで本当にシンケンジャーくらいの「ヤバい戦隊」だと思うので、こういうのは10年に1回でいいですよ、こっちの身がもたないから(笑)。

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【七人の戦士】

グラスが七つ。
執事はそれぞれのグラスにワインを注いでいく。
待ちきれないといった様子で手を伸ばした魁利は、ふと気づいた。
「あれ、初美花たちワインじゃねーの?」
初美花と詩穂の前には、ちがう色の飲み物が用意されている。
「いいよまだ、うちらは」
「ね!」
向かい合った二人はジュースのグラスを掲げてみせ、大人たちも静かに微笑んだ。
「それでは皆さま」
ホスト席のノエルが立ち上がり、テーブルをぐるりと見わたす。
「いろいろおめでたいことはあるけど……ひとまずは、幸せな再会を祝して」
三年の時を経て、やっと相手を見つけ出した三組が、向かい合わせに座っている。それぞれが最高に幸せそうな顔で。
「乾杯!」
老執事も部屋の隅で思わず頬をほころばせた。
「さあ、今日のディナーは透真くん渾身の力作だよ。こちらのお三方は初めてかな」
「そうね、こんなに豪華なのは初めて」
彩が愉快そうに肩をすくめる。透真は決まり悪そうに笑っただけだった。
一口食べた詩穂は、初美花が平気な顔でフォークを口に運んでいるのを見て思わず声を上げる。
「すごーい、高級レストランみたい! 初美花、毎日こんなの食べてて太らなかった?」
「やだ、太ってないよ! ね!?」
魁利と透真にあわてて確かめるも、男二人はすました顔でナイフとフォークを動かしている。
「さあどうだか」
「もう……」
同居人たちがあてにならないと知った初美花は頬をふくらませ、詩穂に身を乗り出した。
「そっちこそ、今一人暮らししてるんでしょ? ちゃんと食べてるの?」
今度は詩穂が首をすくめる番で、ノエルが笑いながら助け船を出す。
「三人にはここに集まってもらうことが多かったからね。透真くんのフルコースには敵わないけれど、ちゃんとみんなで食べていたんだよ」
その言葉に詩穂は何度もうなずいていた。
「そうそう、勝利さんのごはんも美味しかった!」
「魁利くんにちゃんと栄養のあるものを食べさせなきゃって、昔からいろいろ工夫してたんだってさ。なかなかの腕前だったよ」
詩穂とノエルの言葉に、弟の視線を正面から受けた兄は気まずそうに苦笑した。
「いや、おれは庶民派だから……」
「知ってるよ。野菜めっちゃ入ってるチャーハンとかだろ」
相変わらず素直な口調ではないが、それでもどこか得意気に言う魁利へ皆が笑みを向ける。少しも似ていないけれど、たしかにこの兄弟は家族なのだと確かめるように。
和やかな晩餐で、二人しか、あるいは三人しか知らない思い出話に花が咲く。ノエルはテーブルの左右の橋渡しをしながら、普段どおりの笑顔を絶やさなかった。

だが明日より先のことは、だれも口にしなかった。

デザートを下げたテーブルの中央へ、コグレは封筒をそっと置いていく。
「これは……」
魁利が迷わず手にとって開けた。
「ギャングラーに奪われた、最後のコレクションだよ」
ノエルがわずかに硬い声で告げる。
「じゃあ、それゲットしたらコレクション全部揃うってこと……」
詩穂の言葉に、ノエルは首を振った。
「まだ国際警察に配備されたコレクションがある」
「警察からも、『いただかないと』いけないわけね」
彩が神妙な顔で呟くと、勝利が眉を寄せる。
「もともとルパン家のものだし、頼めば返してもらえないだろうか」
市民の味方、警察なのだから……という理屈は確かに通っていたが、ノエルは悲しげに肩をすくめただけだった。
「それはできないよ。ギャングラーの残党に対抗する手段は、今のところパトレンジャーの装備だけなんだ。ぼくも今はかなり権限が限られてしまったしね」
システムの唯一の専門家として、担当から外されるまではいかなかったが、国際警察内ではかなり微妙な立ち位置になってしまったらしい。それでも監視の目を逃れつづけて、「もうひとつのルパンレンジャー」を作り上げたのは彼なのだが。
「だとすれば、簡単な話だ」
透真が魁利の手から写真を取り上げる。
「全部まとめて、オレらがいただいちまえばいいんだろ」
「まかせて。ソッコーで片づけちゃうから」
三人は立ち上がり、心配そうに見上げる目の前の相手に笑いかける。
ノエルは笑顔をくしゃりとゆがめ、「ありがとう」と囁いた。

◆ ◆ ◆

「逃がしちゃいましたねえ」
「ああ、惜しかった」
どこか晴れ晴れとした顔で、咲也とつかさが言葉を交わしている。
快盗たちは、出口のない檻から解放されていた。
彼らが解放した人々の手によって。
願いを叶えていきいきとした様子で、それでも変わらずに遠慮なく攻撃を仕掛けてきた。もう快盗に身をやつす必要など、彼ら自身にはないのに。
圭一郎はガンホルダーから装備を引き抜いて、暫し見つめる。
「ノエルの、願いか……」
コレクションが全て揃わないかぎり、ノエルの願いだけは永遠に叶うことはない。それを成し遂げるまで、三人はあの姿で自分たちの前に現れつづけるだろう。
咲也がうーん、と首をひねる。
「ちょっとだけ、こっそり貸すことってできないんですかねえ。ノエルさんの願いを叶える、一瞬だけ」
そのあと返してもらえばいいじゃないですか、と彼は言うが、圭一郎としては素直に同意できない。
その理由を、つかさが渋い表情で説明した。
「全てそろったコレクションが、そのままの状態で返ってくるとはかぎらない。変形や変質のおそれもある。再び散逸するかも、あるいは力を失うかもしれない。そんなリスクを負ってまで国際警察の主力装備を手放すことは、現状できないだろうな」
「はあ……」
咲也が力なく肩を落とし、つかさもいたわるようにその背中を叩く。
圭一郎は拳を握りしめる。
「一刻も早くギャングラーを殲滅するしかない。……ノエルのためにも」
「はい、初美花ちゃんたちのためにも!」
「そうだな……彼ら七人を救えるのは、我々だけだ」
彼ら自身と、その向こうにいる人々の平穏な日常を。
そしてあの小生意気な青年が、陽気に話しかけてくる日々を取り戻すために。

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ノエルの願いを叶えるとルパパトの物語が完全に終わってしまうというジレンマなんですよね。でも今後何かでルパパトが登場するたび「まだなんだ…」って思ってしまいそう。もしくは永遠にルパパトキュウみたく最終回前で続けるしかない。