【ワンライ】ST赤と白の捜査ファイル
池田と黒崎
853字
二人の世界を彩るお題
「信号待ち」「サイダー」「君がいなきゃ困る」
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信号が青に変わるのをじりじりと待つ。
さすがに走り出すわけにはいかないが、横断歩道に踏み出す足はどうしても大股になった。
車が横付けできない道の路地に入っていくと、変人メンバーが顔をそろえている。赤城だけはラボに引きこもって指示出しをしているからここにはいない。
「証拠、見つけといた。もうすぐ鑑識も来るよ」
青山が地面を指さした。ぐるりとチョークで円が描かれているのは、彼女の手によるものか。
「ここから、割れた瓶の破片、こぼれたサイダーの蒸発した痕跡が見つかるはずさ」
「……ご苦労だった」
池田は彼らをぐるりと見渡し、上司としてまずその働きを評価する。しかし、それよりも到着したときから気になっていることがあった。
「それで、おまえらの手にあるのは証拠品か?」
「あら、ただのサイダーよ」
翠が手にしていた瓶を振ってみせる。他の三人も同じ瓶を持っていた。
「事件の話をしていたら、飲みたくなりまして」
山吹ものんきに言うが、曲がりなりにも事件捜査、しかも現場にいるのだ。
不謹慎だと思わないのか、緊張感がなさすぎる……と一通りの説教が喉まで出かけたのを飲み込む。結果が全てだ。池田が指示を出すより先に動き、命令は軽やかに無視する彼らとつき合っていくには、そう割り切ることが常に必要だった。
逆にいえば、結果だけ見れば彼らは非常に有能なのだ。そこに池田は介在していない。
「俺なんかいなくてもいいってことか」
「そうかもね」
ひひっと笑って青山がサイダーを飲む。
その横で、こちらをじっと見ていた黒崎が山吹に耳打ちした。その居心地の悪さにもさすがに慣れてきたところだ。
通訳係はしたり顔でうなずき、神妙にこちらへ向きなおる。
「あなたがいなければ困る、だそうです」
「……っ」
言葉を失う池田に、黒崎が笑みを浮かべながら開けていない瓶を差し出してきた。池田のぶんも用意していたということらしい。
「……他人に言わせるな!」
池田は黒崎の手からひったくったサイダーの栓をその場で開ける。
勢いよく噴き出した炭酸が、安くないシャツとスーツの袖口を濡らした。
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ほっとくと事件一本作っちゃいそうなんで、時間制限あるくらいがちょうどいいのかも。