【SS】由利と等々力「理由」
ゆりとど、R18注意。
最初はとどゆりと言ってたんですが、先にゆりとどを書いてしまったので、なんとなくそっちに情が移った感じになりました。とどゆりエロも書いてみたいなあ。
理由
長い指がなめらかなシーツの上を所在なく動き、引っかからない爪をなんとか立てようとする。
その動きを眺めながら、ひざ立ちの腰をゆっくり撫で下ろして我が身に引き寄せた。
「ぁあ……っ」
等々力の背が大きく反り返り、喉から上ずった嬌声がこぼれる。両腕は上体を支えるのを諦め、由利が押さえつけている腰だけが突き出されていた。
根元まで収めたそれを引き戻してまた深く押し込むと、彼も応えて切れ切れに喘ぎながらシーツを引っかく。
「ぁ、由利……ぃ」
堪えもせず、時には焦らすなとねだり、彼はたやすく由利を煽る。腹立たしいことには、少しも意図せずに。こちらはその痴態に喉を鳴らし、唇を噛んで再び腰を進めるしかない。
「くぅっ……」
もともと等々力は受け身に回ることをあまり好んではいなかった。その態度は今も変わらない。
しかし断固として拒むというわけでもなく、由利が望めばなんのかんの言いながら身をまかせる。乗り気でないわりにはいつも決まって身も世もなくといった風情で散々に乱れるのが、普段は素直すぎる彼の唯一素直でない部分だった。
こちらの動きに合わせて揺れる背中を見下ろす。
昔から頼りないくらいに細身ではあったが、さすがにこの歳にもなるといくらか肉がついてきた。ふとした瞬間に気づきはするものの、とくに嫌悪はない。互いが少しずつ歳を重ねるのを、こうして確かめつづけているから。
「んぁっ……!!」
身を震わせ、等々力が果てる。一際強い締めつけに、由利も呻いて後を追った。
「野獣……」
ばったりと仰向けに倒れ、等々力はかすれ声で呟く。
終わった直後は必ず腰が痛いだの喉が痛いだの、文句ばかりだ。毎度のことだが、さすがに「野獣」は罵声ではないか。今日ばかりは言い返したくなった。
元はといえば……。
「おまえが、そうしろと言ったからだ」
「俺が?」
もそもそと起き上がった等々力は、緩慢な動きでサイドテーブルの煙草に手を伸ばす。寝タバコはするなと尻を叩いてやれば、しぶしぶベッドサイドに座りなおした。
今さら口にするのも憚られるが、本人が忘れているのなら仕方がない。
「……後ろから、乱暴に犯せと」
「俺がぁ!?」
咥え煙草で床に落ちていた下着を身につけた等々力は、暫し考えてから声を上げる。
「あぁ……そういうことか」
なんのことかと視線で促すと、彼は決まり悪そうに苦笑しながら灰を灰皿に落とした。
「昔は俺にも意地ってもんがあってなあ……」
掘り起こした記憶と向き合っているのか、由利には目もくれず紫煙を追っているから、独り言にも聞こえる。
「昔っからおまえは男前で、しかも紳士ときた。そんなおまえに、いかにもって感じで丁寧にエスコートされるのが、どうにも男としてのプライドっていうのか……譲れなかったんだろう」
彼のほうもその長身と顔立ちのおかげで、女性の人気は高かったと記憶している。ただ本人があまりにも自分の外見と他人の視線に無頓着すぎて、人気があったという自覚もなかったはずだ。
そんな男だから由利の近づきがたい雰囲気など気にしなかったのだろうが、それでも二人の関係については、思うところがあったらしい。
「俺が男役ならいいんだよ、俺もおまえも男のままでいられる。でも逆だとなんかこう、な……。
だから、妙な気をつかうな、手荒なくらいがいいって言ったんじゃねえかな。まあ、おまえさんが律儀に覚えてくれてるとは思わなかったが……」
つまり等々力は、由利の前で「女」になることを恐れつづけていたということか。
屈託のない隙だらけの男が、必死に隠しすぎて忘れてしまった、ささやかな意地。それを真に受けた由利もまた、意地や矜恃に振り回される愚かな若者だった。
「今はちがうのか」
愉快そうな笑い声を聞きながら、灰皿に押しつけられる吸い殻を見つめる。先ほどシーツを泳いでいた長い指が、もう一服とばかりに箱へ伸ばされるのも。
「そりゃあ、今でもおまえは男前だよ。でも俺だって、身についた図太さと脂肪なら負けてないぜ」
とはいうものの、年の割にはまだまだ細い。片手で抱き寄せられるほどに。
そう思った由利はそのまま実行した。
「うわっ……」
いきなりベッドに押し倒された等々力が、頓狂な声を上げる。
「由利!?」
「失われた時間を取り戻そうかと思ってな」
ほつれっぱなしの髪をこれ以上ないくらいに優しく梳いてかき上げ、そのひたいにそっと唇を押し当てる。新しい煙草を取り落とした手を握って恋人よろしく指を絡めた。
そんな触れ方は互いにしたことがない。若い時分ならまだしも、今この場では滑稽なだけだ。
くすぐったそうに肩をすくめた等々力は案の定、情けなく眉を下げて笑った。
「勘弁してくれ……今のほうがきつい」