【SS】由利と等々力「残暑」
夏ですね! 暑いですね!! 涼しい部屋でセッ(ryですね!!
今回はゆりとどです。とど受けのほうが楽っぽいな、なんでだろうな。
前に書いたゆりとどの続きを星崎さんに書いていただいたお話の、さらに後という設定で。もうリレー小説なんじゃないかコレ。
あと由利先生とどのこと好きすぎじゃないかおかしくないか。
「残暑」
風呂から上がった等々力は、浴衣の袖をまくって縁側でくつろいでいる。
中庭に夜風はほとんど入らず、さほど涼しくもないだろうにとは思ったが好きにさせておいた。こちらも浴衣姿だが、部屋の中に入れば袖をまくる必要もない。
「ああ、暑い暑い」
団扇をばたつかせながら冷房の効いた部屋に戻ってきた彼は、気持ちよさそうに布団へ転がる。部屋の明かりは行灯を模したルームライトだけで、そのまま寝入ってもかまわない程度の明るさだ。だが等々力は眼鏡も外さずに天井を見上げたまま、ぼんやりと呟いた。
「久しぶりだなあ……」
その言葉に込められた意味はひとつではない。慌ただしい日々の中で等々力が由利を訪ねてくることはそう多くなく、顔を合わせるとしても現場に呼び出されたときか、あるいは府警の庁舎で気の滅入る検証をするときくらい。さらにこうして泊まっていくなど、今年に入って初めてだと記憶している。酒を酌み交わすのも、互いの前でくつろぐのも、本当に「久しぶり」だった。
いつのまにか残暑と呼ばれる季節になったが、京都の夏はまだまだ熱帯夜つづきだ。
畳の上に投げ捨てられた団扇を拾い上げ、手持ち無沙汰に仰ぐ。それを目で追った等々力と、眼鏡越しの視線がぶつかった。
互いの意思を確認するのは、それだけで事足りた。
起き上がろうとする等々力を布団に押しつけて、乾いた唇をまだ水気の残る唇に重ねる。無論、障壁の眼鏡を外すのは忘れずに。
長い口づけのあとに息をついた彼の顔を覗き込むと、瞬きした次の刹那には媚を含んだ表情に変わっていた。どうしようもなく身が疼き、誘われていると感じる。抱くも抱かれるも互いの気分しだいだが、不思議と要求がかち合ったことはない。彼が、こちらの劣情を敏感に悟り応じているとも思えないのだけれど。
いつになく気が急いて浴衣の裾を割り、内股に手をすべらせた。すると彼はあわてたように由利の腕を掴む。
「待て、ゴム……」
いきなり突き入れるほど無粋ではないと反論する代わりに、すました顔で帯のあいだから避妊具を取り出してみせた。
「なんだよ、このすけべ」
破顔した等々力は由利を押しのけ、布団に肘をつく。俯せになろうとしているのだと気づき、肩を押さえて引き止めた。
「もう、その体勢は必要ないと言っただろう」
等々力が受け入れるときには必ず背後からという「決まり」は、長年の誤解がとけて無効になったはずだ。
「……そうだったか」
頭を掻きながらとぼけた声で呟く彼は、ほんとうに忘れていたのか、忘れたふりをしているのか。
自分は些細なことでも記憶に残ってしまう性分で、相手は重要なことがあっさり頭から抜け落ちても平然としているほうだから、こうした行き違いはよくあることだが……。
「しかしなあ、おまえさんに乗られると重いんだよ」
無駄な筋肉つけやがって、と言いがかりにも近い文句をこぼすので、それならと自分が仰向けに寝転がって彼を引き寄せた。
胸の上へ引きずり上げられた格好の等々力は、戸惑ったのか眉間にない眼鏡を押し上げようとする。
「これならいいか」
「……もう、好きにしてくれ」
その言葉も初めてではないことを、彼はきっと覚えていないだろう。何度でも同じやりとりをして、飽きることはないのだ。
「そうさせてもらう」
体の上に乗せた相手を抱きかかえるようにして、裾を押しのけ後ろへ指を這わせた。等々力が気まずそうに顔を背ける。そういえばこうして向き合いながらというのは覚えがない。彼はいつも突っ伏して顔を隠し、されるがままになっていたから。
指をねじ込むと、こちらの襟を掴む手に力が入った。
「あぁう……っ!」
いつも声だけは派手だが、今日はそれが間近で聞こえるという事態に由利のほうが狼狽えた。
「やっ、あっ……ぁあっ!」
縋りつく先がシーツではなく由利になったおかげで、今まで行くあてもなく泳いでいた手は由利の肌に爪を立て、飲み込みきれずにこぼれる唾液と嬌声は由利の胸元を濡らし、くすぐることとなった。たまらずに上向かせて唇を求めると、切れ切れの喘ぎとともについばむような接吻が降ってくる。
後ろに指二本を受け入れて、彼の忍耐に限界が訪れた。
「由利、もう……」
いつもの懇願に、彼を抱いていた腕を離す。二人で体を起こして、それから顔を見合わせつい苦笑していた。二人とも帯こそ解けていないが、着ているとは言いがたい状態になっている。
「さて、どうしようか」
ぶつかり合う中心は意図せずとも互いを昂らせ、その気にさせていた。由利のそれはすでに上を向いていて、等々力が怯んだように喉を鳴らす。受け入れる直前のそれを彼が目にすることは、思い返せば機会がなかったのだ。
「力は入るか?」
「現役警官ナメるなよ……」
どうにも場違いな捨て台詞を吐いて、ひざを立てた彼はこわごわと自分の後ろへ猛った先端を押し当てた。こちらも腰を抱いて支えてやる。
「んっ……」
掴まれた腕に食い込む指が痛いほどだが、それ以上に狭い入口へ押し込められようとしている屹立への刺激が強くて息が止まる。それでなくとも、息のかかる距離で等々力が身をよじり喘いでいるのだ。熱はさらに硬さと大きさを増し、彼の内側を圧迫していく。
「ぁあっ、あっ……」
上ずった嬌声をこぼしながらもなんとか根元まで身の内に飲み込んだ等々力は、一休みといった様子で由利の胸板にもたれかかってきた。
「これは……まさか、俺が動くのか?」
息も絶え絶えといった口ぶりに、つい笑い出しそうになる。結局、相手の体重を感じるか自重を感じるかのちがいでしかない。それにやっと本人も気づいたようだ。
「俺が動いてもいいのか?」
「いや……うん、わかった」
体力で上回る由利に好き勝手されるよりはましだと判断したのか、彼はのっそりと頭を上げて由利の肩に手を置いた。着物はとっくに肩から落ちていて、掴むものは相手の体しかない。
ぐいと腰を上げた等々力の、声にならない声が喉の奥でかすかな音を立てる。
「!」
逸らされた喉が眼前に晒され、衝動的に噛みついていた。夏でもスーツを着込んでいる体は日焼けもしておらず、たやすく情事の痕跡が残る。せめて他人からは見えないようにとは気をつかうが、それでも白い膚に紅い痕を刻み込む快感はそう抑えられるものではない。
「あぁ……っ」
由利の硬い腹に自身の熱を擦り上げるようにして、等々力はゆっくりと、しかし力を込めて腰を揺らす。抜けるほど高くは上がらないものの、自分の意志ではどうにもならない、予想のつかない抽送に、由利も知らず喘ぎを洩らしていた。
不規則で、浅くなったかと思えば全体重がのしかかり、容赦なく締めつけられる。長い腕は由利の頭を抱え込み、愛おしげに頬をすり寄せては耳元に甘い嬌声を送り込んでくる。自分が抱かれているときにはどこか冷静に相手を見つめる瞬間もあるが、今に限っては観察など気が回らない。
狭い内側に精を絞り取られるような錯覚を覚え、つい彼の腿を押さえ込んでいた。そのまま激しく揺すり上げなかったのは最後の理性だった。
「は、ぁっ!」
深く貫かれたままで動きを縛られた等々力は、愕然とした顔でこちらを見下ろす。なぜ、と問う瞳に答える言葉は持ち合わせず、ただ息を荒くして見返すより他なかった。
「おまえ……」
なにかを言いかけた等々力は、しかしそれ以上はなにも言わず、重い前髪をかき上げる。
そして、由利を見下ろしながら不敵な笑みを見せた。
「!」
凄みすら感じる艶めいた表情に、思わず身震いする。同時に、強く締めつけられて吐精し
ていた。こらえる余裕すらなかった。
自身も体をこわばらせて果てた等々力は、大きく息をついてからまた先ほどの笑みを浮かべる。唾液で濡れた唇を舐めるさまが、舌舐めずりに見えた。
「その顔……見るのが好きなんだよ」
「……!」
由利が快感に悶え、絶頂に達するまでの表情を、抱く側の等々力はいつも見つめていたのだ。立場が逆転しても、彼はこの自分の痴態に欲情し、乱れる姿を求めている。
そんなことさえ知らずに、長いあいだ体「だけ」を繋いできたのか。彼自身も忘れていた些細な言動に拘泥して、さまざまな機会を逸してきたのだと今さら思い知る。彼のように拘らない、忘却を恐れない性分であったなら、この関係も今とはちがっていたかもしれない。
まとまらない思考に、息を整えるのも忘れて飢えた犬のように口を開け、ただ相手を見上げる。そんな自分に、等々力はどこかうれしそうな笑みをよこして口づけてきた。
「なあ、今度はおまえが動いてくれよ。重いなんて言わねえからさ……」
受け身の等々力からねだってくることはほとんどない。由利が一方的に貪り愛し尽くすのが当然だと二人ともが思っていた。だが決まりなどはじめからなかったのだ。
「久しぶり」の逢瀬を楽しむことに、そして「初めて」の繋がりを深めることに、異論のあろうはずがなかった。
外気温は下がっていないが、風が出てきたようだ。
決してぬるくはない湿った風を受けながら、由利は縁側で団扇を揺らしていた。外から見えない中庭に向いているのをいいことに、片肌を脱ぎ風を通す。
もともと蒸し暑い京都の夏も、年々その苛烈さを増して去年と同じ夏にはなりえない。自分たちも歳を重ね、去年と全く同じ日々を過ごすというわけにはいかなくなっている。
だが、変わっていくというのも存外悪くないものだ。これだけ長いつき合いでも、相手の体をくまなく知っているつもりでも、まだ伝えていない、理解していないことはある。
次の夏には、また今日とはちがった夜を過ごしているかもしれない。
「ああ、暑い暑い」
今は涼しい室内で眠りについている男の真似をして呟き、由利はひとり笑った。
何も言わなくても受け攻めを察するというのは、ル=グウィンSF的だなあと思ったんですが、いわゆる「今日はチャーハンの口になっている」のほうが近いかもしれない。
なんだろうこの落差。