いきなりの飛賢。
いつだっけ、恒例クソ大戦映画のあとに初めてエグゼイドSS書いたんだよね……ちょっと(どころでなく)不満があるくらいが妄想し甲斐があるのかも……
という流れでスパヒロ戦記後。
*
「飛羽真?」
皆が解散してから彼の自室に連れ込まれることは、最近ではめずらしくなかったが、これほど切羽詰まった様子で文字通り「引きずり込まれる」のは初めてだった。
閉まったドアにもたれながら、抱きつくというよりはしがみついてくる相手の体に腕を回す。
ひどく目まぐるしくてとんでもなく大きな戦いのさなか、自分がいないときになにかあったのだろうとは察しがつく。体の疲労よりも、なにかひどい動揺が彼を苛んでいるようだ。
賢人は彼のハットをとってドア横のコートハンガーに手探りで引っかけた。それから、その髪をかきまわして彼の肩に頭を乗せる。
飛羽真は賢人の首元に顔を埋めたままかすかに震えている。抱き合う全身からその不安が伝わってきて、よほどのことがあったのだろうと思う。
「だいじょうぶ……おれがいる」
安心させるつもりでそう囁くと、彼はぎょっとした様子で顔を上げる。
「どうした?」
こちらを見下ろす表情があまりにも引きつっていて、そう訊かずにはいられなかった。
広い手が縋るように賢人の背中をさする。
「……おれたち三人が、幸せに暮らしてる世界があった」
三人。自分と彼と「彼女」。
たくさんの時空が入り乱れていたというから、そんな世界もあったのかもしれない。自分がかつて見てきたのは絶望の未来ばかりだったことを思うと、少し羨ましくもあった。
「夢でも、見てみたかったな……」
「でもおれはその世界を拒んだ」
賢人の言葉を遮って、噛みつくように飛羽真は呻いた。
「賢人もルナも、だれより大切に思ってるのに……二人とはいられなかった」
その理由を賢人は知っている気がした。
三人だけの幸せな時間よりも、もっと大切なものがあったから。
「世界を、救うために……」
賢人の呟きに、飛羽真はくしゃりと顔を歪めて笑う。
「そうだね……あのときの賢人の気持ちが少しわかったかも」
少し、というのは彼の気遣いだ。大志のためと称して闇に溺れかけるようなことは、彼に限ってはないはず。
「でも後悔はないんだろ?」
それは彼の行動とその結果を見れば明白だった。だが頷いた飛羽真は苦しそうに言葉を洩らす。
「『どっちの二人を選ぶのか』ってのはけっこう、キツかったよ」
それでこの状態か。なにもかも解決したはずなのに、これほど動揺していたのは。やっと納得して飛羽真の頭を抱き寄せる。
「おまえがどっちを選んでも、きっとどっちの『おれ』も満足すると思うな。飛羽真が選んだ結果なら」
だから、自分には世界を救うことはできないのだと思う。彼のように「全てをあきらめない」気概を通しきれない。
「飛羽真、おれはここにいる」
「ん……」
目の前の震える唇にそっと口づける。彼は一瞬怯んだように息を止めたが、すぐに自分から吸いついてきた。
目を閉じ、彼に翻弄される時間を味わう。
苦しい戦いの中、ルナを奪われた世界でしか成立しない関係。「幸せな世界」ではありえないだろうけれど、それでもこれが今の自分たちの繋がりだ。
「……ごめん、つきあわせた」
賢人の濡れた口元を指先で拭いながら、飛羽真は決まり悪そうに曖昧な笑みを浮かべた。
「いつでもどうぞ」
あえて軽く返し、その背を優しく叩く。
「それはそうと……おれはいつまでドアの前に立たされてればいいんだ?」
目を丸くした飛羽真は、すぐに笑い出して身を離した。
ジャケットを脱いでコートハンガーに引っかけると、賢人にも恭しく「上着を」と手を差し出してみせる。
始まったなと思い、あえて背を向ければ、器用な手が優雅にコートを肩からさらっていった。
「どちらへお連れいたしましょう」
芝居がかった口調で言うものだから、こちらも顔を上げて尊大に手を差し出してみせる。
「では、寝所へ」
手を取り合った二人は顔を見合わせて笑い、長い脚をもつれさせながらベッドへと倒れ込んでいった。
*
いろいろ言いたいことのある映画でしたが、とりあえず賢人がカーレンジャーの世界でどんな目に遭ってきたかが気になります。