【SS】戦兎と石動(ビルド)
戦兎とマスター。万丈が来る前。
3.【青春の帰着】「サイダー」「海」「循環」
*
海を見たい、ついでにタンデムデートしたいとねだって、彼のバイクでビーチへやってきた。
そうは言っても、なにかと物騒な昨今では海水浴場も軒並み閉鎖されている。
「昔はここも、それなりにはしゃいだ場所だったんだけどな」
今は海の家も見張り台もなく、水着の美女も波に乗っている若者もいない。このあたりを循環していたバスも廃止され、夏の終わりだというのに人影すらない。打ち寄せられたごみが点在しているだけの、荒れた砂浜だ。
「男二人で海眺めるだけの、なにが楽しいんだか……」
石動はヘルメットをトレードマークの帽子に替えて、波打ち際のほうへ歩いていく。
「あー、もう靴に砂入った」
「そりゃ入るでしょ」
彼の無防備な丈のボトムを眺めながら、戦兎も砂浜へ足を踏み入れる。吹きつける風で砂が舞い上げられ、ハイカットのスニーカーでも防ぎきれないなと早々に理解した。
「靴脱いで追いかけっこでもする?」
戦兎の言葉に、石動は思いきり噴き出した。
「青春真っ盛りでもしたことねえよ」
親子ほども歳のちがう男の背中を、戦兎はただ見つめる。
絶対に埋められない年齢差が悔しくて、歯がゆくて、精いっぱい背伸びしてみるけれど。自分が生まれる前に青春を終えている彼との距離は縮まらない。
砂に刺さっているサイダーの瓶を、軽く蹴った。
それから、大きく息を吸って身をかがめる。
「マスター!」
「うぉっ……」
突進してきた戦兎に背後からぶつかられた石動は、砂に足を取られてひっくり返った。
「おまえな……」
砂の上だから怪我こそしないが、手をついてもすぐに起き上がれない。
「なに、本気で青春ごっこ!?」
「ってわけじゃないけど、海まで来てなんもしないのもね」
タックルした勢いでいっしょに倒れた戦兎は、真上から石動の顔を覗き込む。
「なんもしなくていいって……あーあ、全身砂だらけだ」
諦めたような、呆れたような顔で、彼は海のほうを見やった。
その顔をこちらへ向けさせ、半開きで誘い込む唇を貪る。砂混じりで、潮の味がした。
「マスターのコーヒーよりはマシな味」
「ひっでぇな」
長い腕が背中に回され、戦兎は不味いキスをもう一度堪能する機会を得た。
*
じゃりじゃりしたまま帰りました。