【SS】魁利と透真(ルパパト)
SSマラソン②、ワードパレット1本。不穏なやつ、だけ。
※11/3、1本追加。長めのやつ。
魁利と透真。いつもどおり。
11.【運まかせ】「リセットボタン」「愛想笑い」「リボルバー」
*
魁利が唇を舐めながら呟いた。
「人生のリセットボタン押せるとしたら、どこまでリセットしたい?」
「……生まれる前だな」
眉ひとつ動かさず答える透真に「それもそうだ」と応じて、口の中にたまった血を吐き出す。
敵に囲まれ、武器は取り上げられ、いわゆる絶体絶命の状況だ。コレクションを奪った初美花が逃げられたことだけが、幸いという他なかった。
「無駄口叩くんじゃねえ」
両手を挙げさせられた二人の前に掲げられたのは、異世界の犯罪者が手にするにはあまりにも小ぶりな、ただの拳銃。
「リセットボタンはねえが……最後のチャンスをやろう」
一発だけ実弾を装填したシリンダーが回されるのを、快盗たちは息を飲んで見つめる。
「ギャングラーのくせに、楽しい遊び知ってんじゃん」
魁利が煽るような口調で言うが、空元気なのは丸わかりだった。
敵はリボルバーを二人の足下へ投げる。
「お互いを撃て。五回切り抜けたら逃してやる」
「なに……」
自分が犠牲になることはすでに覚悟していた。だが魁利を撃つとなると、思いどおりにはいかない。
「くだらん。自分の運命は自分で決める」
凄んでみせるが敵が動じないのはわかりきっている。ここは、少しでも時間を稼いで……。
「いいぜ。その賭け、乗ってやるよ」
「!」
なんの躊躇もなく、魁利はその銃を拾い上げた。
「命知らずか、ルパンレッド」
一発だけでは複数の敵を倒すことはできないし、人間の命は奪えてもギャングラーにはかすり傷程度しか負わせられない武器だ。しかも、自分たちから取り上げたVSチェンジャーを抱えている戦闘員までいる。
「クソが、めっちゃ怖ぇわ。こーなるってわかってたら、死ぬ前に……」
声こそ笑っているが、銃を握りなおす手は震えている。それを見た相手は耳障りな笑い声を上げた。勝利を確信している様子だ。
「なんだ、最後の一服くらいは許してやらねえことも……」
「残念、俺タバコやめたんだよな」
そう答えるのは、店の客に愛想笑いを向けているときの顔だった。腹の底ではなにを考えているか想像もつかない、危険な表情だと透真は知っていた。
「どっちか死ぬ前に、別れのキスってやつさせてくれよ」
ぐいと透真の胸ぐらを掴んで引き寄せる魁利に、周囲から嘲笑を含んだ歓声が上がる。
「楽しませてくれるなあ、快盗?」
不敵な笑みを浮かべた魁利はもう一度唇を舐め、呆然とする透真の口に噛みついた。
「んぅ……」
敵に見せつけるように唇を押し開け、音を立てて舌を絡めてくる。血の味に眉をひそめながらも、挑んでくる彼に負けないよう応えた。四方から見られているという羞恥を踏みつけて。
気持ちの昂ぶるままに抱きついてきた手が背筋を撫で下ろし、こちらも思わず彼の腰にしがみついた。邪魔なジャケットの下に手を回して、細い腰を抱き寄せる。
「愛してるぜ……」
わずかに離れた唇がそう囁いた、それが合図だった。
魁利と透真、それぞれの手元から飛んだ強靱なワイヤーが、ぐるりと囲んだ敵の手から武器を跳ね飛ばす。
「貴様ら……っ」
VSチェンジャーが宙に浮いた。
一瞬の動揺の隙を突いて武器を取り戻した快盗は、そのまま戦闘員を掃射した。
「さっきのゲーム……自分で試してみるか?」
手にしたリボルバーのシリンダーを回し、魁利は一人残った敵に銃口を突きつける。
「笑わせるな、そんなもので俺を倒せるとでも……」
「ばぁん」
魁利が空砲を撃つと同時に、透真の銃が敵を貫いた。
腰の後ろにワイヤーのケースをねじ込みながら、二人は一瞥で互いの無事を確認する。魁利が透真の服からケースを抜き出し、作戦を理解した透真も魁利のそれを使う……目さえ合わせることなく、そんな動きができるようになっていた。
「……リセットボタン、あっても押さねーわ」
リボルバーを投げ捨てて魁利は呟く。
この戦いの前には、どう足掻いても戻れない。コレクションを揃えることが全てのリセットにならないことは、すでに理解していた。
「……それもそうだ」
透真は深く息を吐き出し、白手袋の指先で口元を拭う。
舌の上にはまだ血の味が残っていた。
*
ノエルはまだいない時期です。