キング/ノッさん

2013_キョウリュウジャー,[R18]

獣電戦隊キョウリュウジャー:桐生ダイゴ/有働ノブハル


『素っ裸でする話じゃないよ』

旅先の氷原でいきなり恐竜と戦わされて以来、大抵のことにはもう驚かないとは思っていたが、これはさすがに予想していなかった。
ラブホテルの浴室で、シャワーに打たれながら壁に押しつけられているなんて。
全裸なのはこの際当然だということにしよう。風呂で服を着ていたら逆におかしい。でも、年下の男が相手というのはストレートにおかしい。
「あのさあ、キング……」
「ん?」
至近距離で顔を覗き込まれ、思わず天井を仰ぐ、つまり目を逸らす。
「なんで、こうなったんだっけ……」
「ノッさんが風呂入って帰ろうって言うから」
「いや、そうなんだけど、そうじゃなくてね?」
遠出の仕事に、ダイゴがついてきてくれたのは予定外だったがとても助かった。廃屋の整理に半分解体作業までやるはめになり、仕事が終わったときには二人とも埃まみれだった。家に帰る前に、そのへんでシャワーでもしゃわーっと浴びていかない?と提案したのはたしかに自分だ。
昼間のラブホテルを選んだことに他意はない。家の風呂より断然広いし、仕事でどんなに汚れても気兼ねなく使えるという理由で、会員カードまで持っている。というより、他人と入ったことはない。
そのへんの事情は車中で全部説明してあったから、飲み込みの早いはずの彼がそういう誤解をするとは全く予想の範疇外だった。
ノブハルは相手の肩をそっと押しやる。
「事情は人それぞれだから、男同士でどうのって言うつもりはないけどさ。いちおうぼくたち、平和を守る立場だし、いろいろいっしょに動く仲間なわけだし、勢いでこういうことしちゃうのどうかなー、って思うんだけど……」
歯切れの悪い拒絶を口にするノブハルを前に、しかしダイゴは怯まなかった。
「勢いでもなきゃ、あんたずっと線引いたままだろ?」
「!」
まっすぐな目がこっちを睨みつけている。嘘やごまかしは通らない。もちろんオヤジギャグも。
「……キングはなんでもお見通し、ってことか」
大きく息を吐き出して、彼の肩の向こうを見やる。どぎつい色のタイル壁があるだけだ。
「だからって、欲しがる相手に全部あげてたら、なんにもなくなっちゃうよ」
それは精いっぱいの告白で、同時に二度目の拒絶でもあった。
この青年の眩しさに惹かれているのは事実で、しかしそれが太陽に焦がれるほどの無謀であることも承知している。隠し通してきた心が見透かされているとは思いもしなかったが、だからといって片想いが成就したと早合点するほど愚かでもない。
こんな状況になってさえ、期待など持てなかった。なにしろ相手は、太陽なのだ。
「おれはなくならねえ。ノッさんのほうが……」
ダイゴはそこで思いとどまったように言葉を切り、濡れた髪を乱暴にかき上げた。言葉が見つからないのか、眉間に皺が寄っている。だがその態度だけで充分だ。
「ほんと……キングはなんでもわかってるよね……」
ため息をついて、彼を抱き寄せる。
「でも素っ裸でする話じゃないよ」
二人を隔てるものはなにもなく、当然の結果として雄同士がぶつかる。
「そうか?」
小生意気な顔が覗き込んでくるから、なんだか悔しくなって、不意打ちのつもりで二人ぶんの陰茎を乱暴に握り込んだ。
「う……っ」
ダイゴが呻いて、ノブハルの腕に指を食い込ませる。狙いは成功したようだ。だが彼の様子を窺う余裕など、とっくに吹き飛んでいた。無造作に触れたはずが、刺激が強すぎる感覚に理性を持っていかれる。
「ぉあっ……」
一回り若い男は、こちらよりも先に欲望を硬く強ばらせる。それどころか、自分でノブハルに腰を擦りつけてきた。
「ちょっ、キング……」
手を出したのはこちらなのに、彼に翻弄される。ダイゴはノブハルの腰を抱え、腹で二人の屹立を押しつぶした。見た目よりもずっと硬くてたくましい胸が、泡の残った肌にぶつかってすべる。背後が壁で逃げ場のないノブハルは、いつのまにか彼の肩にしがみついているだけになっていた。
「うぁあっ……」
「ああ……」
シャワーの水音とともに、白濁が足を伝って流れていく。
ノブハルは余韻に身をゆだね、呆然と目の前の顔を見つめていた。彼も眉を寄せ、荒い息をつきながらこちらを睨んでいる。
「……勢いにしちゃ、やりすぎじゃない?」
「そうか? おれはようやく壁壊した気がしてるけどな」
「壁……」
そこまで見抜かれているのか。
義弟が死んだとき、妹家族のためだけに生きることを決めた。なにを捨てることも惜しくはなかった。欲しがることさえあきらめて、心の平穏を手に入れた。
欲しいという感覚も忘れかけていたところに、この男が現れたのだ。
「怖かったんだよ、きみがさ」
驚かれるかと思ったが、彼は「よく言われる」と屈託なく笑った。
ほら、今回もこっちが驚かされる。がさつなだけではない、己の性質を自覚しているのだ。そんな敏い彼だからこそ、ノブハルがさりげなく、しかし強固に作り上げた壁を、たやすく崩してしまう。
「全部渡さなくてもいいんだぜ。欲しかったら手を伸ばせよ。心はギブアンドテイクじゃねえんだ」
そう言って、長い腕で抱きしめてくる。この腕はきっと、全てのものを抱き込んで、そして逃がさないのだろう。しかも捕らえられたほうは、それになかなか気づけない。
ノブハルはぎこちなく彼を抱き返した。
「きみ、やっぱりキングだよ……」
「おう」
最大限の賛辞をさらっと受け流し、彼はノブハルの頬に顔を寄せる。
若い肌に触れているこちらはどうということはないが、ヒゲ面にほおずりして不快ではないのか。そういえば、ダイゴは三十路男の冴えない外見をいっさい問題にしていない。
そのことについて尋ねようか迷っているうちに、重なり合った裸体は再び熱を帯びはじめた。
わずかに背の高いダイゴに抱え込まれ、こちらからどう触れたらいいのか迷っているうち耳に噛みつかれる。甘く食まれて声を上げそうになると、今度は首筋に歯が当たった。背筋をなぞって尻へ向かういたずらな手を、なんとか握って制したが、そのまま指を絡め取られてこちらが手出しできなくなる。
「やっ……」
ふと、草食恐竜と肉食恐竜のシルエットが、脳裏をよぎった。
「噛みつき合体……」
思わず呟いた一言に、自分で噴き出してしまう。一瞬遅れて意味を理解したらしい彼も笑い出した。
いっそ恐竜並みの本能で生きてみるのもいいかもしれない。
指が絡み合った手を口元に引き寄せ、彼の指に軽く歯を立てる。ダイゴは声を上げて笑い、それからノブハルの唇に噛みついた。

助手席で眠り込んでいる彼を横目に、車を走らせる。
普段とあまり変わらないシチュエーションなのに、気持ちはまるでちがう。少し浮き上がっているような、それでいて地に足のついた安心感のような……
自分がにやけている気がして、ミラーで確かめてしまった。もともとしまりのない顔だからそれほど変化はなかったが。
「ホテルで火照る……うーん、使いどころがないな」
心のネタ帳にメモしかけて破り捨てた。少なくとも未成年の前ではやめておこう。至極まっとうな大人の判断をして、ハンドルを切る。
大抵のことにはもう驚かない、と思っていた。いや……きっとこの先ずっと、驚きの連続だ。そういう人間の横にいるのだから。
「キングの隣でショッキング~、なんてね……」
隣で熟睡しているダイゴが、絶妙なタイミングでふにゃりと笑った。

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