文秀/灘

2007_新暗行御史,[R18]

新暗行御史:文秀/灘


純情

「あー……やりにくいですねえ」
隻眼の男は、ふと動きを止めて呟いた。
「どうした?」
寝台に横たわり、覆いかぶさってくる相手の身体を抱き寄せようとしていた文秀は、眉を寄せて見上げる。
夜更けの兵舎、総司令官の私室。いつもの流れ、いつもの行為。灘がためらう理由など、なにもないはずだった。
鼻先が触れるほど寄っていた顔が離れ、暗闇の中にあった表情が、月光を受けて見えるようになる。灘が苦笑しているのが、文秀にもわかるようになる。
「なんだよ」
「好きな女とヤれないくらい純情な男とわかっちまったからには、どうもねえ」
「……………」
先日の他愛もない雑談のことだと気づき、文秀は一気に顔が熱くなるのを感じた。
「なっ……今は関係ねえだろ!」
だが灘は大仰にため息をつき、軽く頭を振る。耳から下がった大きな装飾具が、金属のぶつかる冷たい音を立てた。
「こんな遊び慣れた顔して、部下を夜な夜な性欲処理につき合わせてるような極悪非道の将軍殿がですよ。今さらそんな生娘みたいな告白されちゃあ、こっちも気が引けるってもんです」
「てめぇがそんなに繊細なタマか。だいたい性欲処理はお互いさまだろうが」
強要したわけではない。気心の知れた主従として、杯を重ねているうちにいつのまにか肌も重ねるようになった、というただそれだけのこと。年端もゆかぬ少年兵を手籠めにして小姓に仕立てるよりは、よほど気楽だと文秀は思っていた。
「安心しろよ、てめぇを代わりにしてるわけじゃねえ。俺がそんな区別もできねえような男だと思ってんのか?」
灘がただの部下ではない、特別な存在であることはたしかだ。しかしそこに、好きの嫌いのなどという気恥ずかしい感情はない。灘もそれは承知済みだと思っていたのだが……
「まあ、俺はいいんですがね」
細く硬い指が、文秀の頬を撫でる。
「まだなんかあるのか」
盛り上がっていた空気をみごとに断ち切られ、文秀は多少苛立ってきていた。
「花郎(ファラン)の坊やは、俺ほど物わかりはよくなさそうだ……と」
だから、もう一人の「特別な」部下のことを持ち出されたとたん、頭に血が上ったのもむりはなかったかもしれない。
「将軍……っ!?」
文秀は乗りかかっていた身体を突き飛ばし、今まで自分がいた寝台へと相手を押しつける。豊かな黒髪が、月光を浴びる白い布地の上に広がって跳ねた。
「気が変わった。今夜は俺がてめぇをヤる。立てねえくらいにかわいがってやるからな、覚悟しとけ!」
暫し見開かれていた右目が、やがて笑みとともに細められる。
「ご随意に」

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