文秀/灘

2007_新暗行御史,[R18]

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この命が尽きても。

馬牌から飛び出してくる兵士(ソルジャー)たちは、過去に戦いで命を落とした仲間たちだ。皆、将軍である自分を生かすために死んでいった。
戦って死んだ者を再び戦わせるために甦らせるというのは、まちがいなく冒涜行為だろう。しかしきれいごとなど言っていられない。彼らがいなければ自分のほうがとっくに死んでいるのだから。
仮面をつけていても、一人一人の顔と名前を見分けられる。
それでも、彼らは死人なのだ……そう言い聞かせ、だれの名を呼ぶこともしなかった。今の彼らはもう二度と死ぬこともない、幽幻兵士。共に戦うのではなく使役するだけの、孤独を癒すのではなく悪を蹴散らすためだけの、従順なる駒。
彼らの天命は尽きているのだ。生前のように笑って冗談を言い合ったりもしない。人として接しても意味がない。

だが、長い長い眠りから覚めたとき。
夢の中で笑っていた彼らを、駒としてあつかうことなど、もはやできなかった。

馬牌を掲げ、兵士を召喚する。
いちばん近くに立っている兵士を見た。
「尹真!」
呼ばれた兵士が、仮面を脱いだ。実直そうな男の顔が現れる。
「東健! 薜! 喩信……」
一人ずつ、仮面の奥の瞳を覗きこむようにしながら、名を呼んでいく。個別認識された兵士は、答える代わりに仮面を脱いで目を合わせる。呼ばれた名がまちがっていないことを示すように。
「灘!」
最後に、隻眼の兵士が仮面を脱ぐ。
その姿を認め、思わず頬がゆるんだ。最古参の、最も親しかった部下だ。
彼に向かって「暗」の護符を突きつける。陽動は兵士ではなく、幻影をつくり出すこの護符でおこなうつもりだった。
「てめえの姿、ちょっと借りるぜ」
灘と呼ばれた兵士は、生前そのままの優しく皮肉っぽい笑みを浮かべた。

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