コニー/デミア
コニーの手からコンドームを奪い取ったデミアは、当然のように相手をベッドに押し倒す。
「……おまえがやるのか?」
「責任とれってそういうことだろ? 文句あるか?」
「少しな」
そう言いながらも、コニーはデミアを押しのけようとはしなかった。いつも憎まれ口ばかりを投げつけてくる男が、この自分を求めてくるという構図は気分の悪いものではない。
ただ、一方的に貪られるのもおもしろくなくて、湿った厚い胸を抱き寄せ爪を立てる。デミアは獣のようにうなり、コニーの膝を抱え上げた。
「う……」
一見無骨で太い指だが、不器用なわけではない。不器用で勤まる仕事でもない。しかし少し手荒で気が短いのが、その指の……デミアの欠点だった。
「ぅうん……」
お世辞にも繊細とはいえない愛撫に、コニーは抗議の呻きを上げる。内臓に近い柔な部分をぞんざいに触れられたくはない。その一方で、もっと強くダイレクトな刺激を身体は求めていた。
「デミア、デミア……」
甘くねだる……わけではなく、詰るように呼ぶ声に急かされて、デミアはコニーの中へ押し入ってくる。
「あ……っ!」
「ぁあ……!!」
同時に声が上がった。苦しげな中に、どこか満足した色を帯びる声が。
デミアが奥を突き上げれば、コニーも自ら腰を揺らし、汗ばんだ髪を乱して喘ぐ。めったなことでは悲鳴を上げない上質なスプリングが、ぎしぎしと音を立てている。
乱暴だが不器用ではない友人は、コニーの快感のポイントを探って角度を変えてくる。痛みの中に割り込んでくる快感が、コニーを悶えさせる。だが、いいように喘がされるのは悔しい。そう思い、唇を噛みしめ耐えようとしたとき。
「ぁ、コニー……」
ほとんど無意識にこの名を口にする男の姿に、糸がほどけるように強情な心が溶かされていく。目を伏せたまま、あごから汗を伝わせて、快楽の中でこの自分を呼ぶ姿に。
それすらもが悔しくて、硬い肩に縋りつきわざとらしいくらいに喘いでやった。
女とちがって男は終わりがわかりやすい。
デミアの後を追って達したコニーは、天井を眺めながらそんなことを思う。
そして、相手が男でも女でも、終わったあとは一服したくなるのだろうかと、人の煙草を勝手にくわえている友人に目を向けた。
「吸うか?」
「……まだいい」
デミアはおもしろそうに目をすがめて、空いた手をコニーの顔のほうに伸ばしてくる。反射的に身がまえたが、指先がひたいに張りついている金髪をかき上げただけだった。
「なんだよ……お姫さまは欲求不満か?」
お嬢さんの次はお姫さまか。コニーはつんとあごを上げ、その手をそっけなく払う。
「せめて女王にしろ」
「はっ」
煙を吐き出して笑い、デミアは肩をすくめた。
「女王様はなにをご所望ですかな?」
「…………」
答える代わりに微笑んでみせ、起き上がったコニーはデミアの口元から煙草を奪う。まだ長いそれを灰皿に押しつけながら、たくましい背中を後ろから抱きしめた。
「おい、マジか……」
うろたえて逃げようとする腰を抱き込み、熱い肌をゆっくり撫で下ろした。ついでに、首筋にも優しく唇を押し当てた。
「コニ……ッ」
デミアの声が上ずる。荒っぽいぶつかり合いには慣れていても、こういう接触には驚くほど初心な反応を見せるのがおかしい。
「女王の慈悲を受けるがいい」
「ふざけんな……」
罵声を吐こうとする厚い唇を、後ろから手でそっとふさいで。硬いながらも丸みを帯びた腕を、胸を、腰を、確かめるように撫でていく。
先ほど自分が押しつけられたシーツに引き倒すと、今度は上を取る。相手は完全に困惑しているようだ。膝を押し広げられても、まだ不安そうにこちらを見上げている。
「そんな目で見るな。処女を犯してる気分になる」
苦笑を噛み殺しながら言ってやると、さすがにムッとしたのか口を一文字に引き結んで、自分を犯そうとしている男の腕をつかみ引き寄せてきた。
「どっちがだよ、お嬢さん」
鼻先がぶつかりそうな距離で、不敵な笑みが交わされる。虚勢でも、演技でもいい。二人で楽しみたかった。同じ時間を、同じ気持ちで。
コニーが腰を進めるたび、デミアは後ろ手にシーツをつかんですすり泣くように喘ぐ。だが速度を落としたり加減しようとすれば、濡れた目で睨みつけ煽ろうとする。どうしていいのかはっきりとわからないまま、コニーは頑丈な腰に自身を打ちつけた。デミアは切ない喘ぎの合間から、もっと、と強請ってきた。
「コニ……」
ソファのときと同じように、目が合った。だが今度は二人とも動きを止めたりはしなかった。衝動に突き動かされるまま、コニーはデミアの頭を抱え込んで唇を重ねる。デミアはもどかしげに金の髪をつかみ、絡んでくる舌に応えた。
「……っ」
挑み合いは、それからもうしばらくつづいた。
「……またシャワーだな」
コニーが起きあがって呟くのを、横になったままのデミアは目を閉じて無視している。
むだに広いセミダブルのベッドは、それでも男二人には少し窮屈だった。仲良く並んで寝転がっているのもなんだか気持ちが悪い。かといって、ほんとうにシャワーを浴びに部屋を出ていくのもどことなく惜しいような気がする。結局、コニーはデミアに背を向け座り込んでいた。
「…………」
デミアが背後で寝返りを打つ。
その拍子に、汗と体液の匂いに混じって、なじんだ香りが鼻孔をくすぐった。
普段はほとんど意識もしないが、他人の身体から香ると奇妙な感じだ。それほどめずらしい香りでもないが、それだけにこの友人と共有するのは問題があるような気がする。
「ボディソープ……変えるかな……」
独り言を聞きつけたデミアがもそりと上体を起こして覗き込んできた。
「なんでだ? 俺は好きだぜ?」
思わず口が開いたコニーに、とってつけたような言葉が投げつけられる。
「もちろん、おまえ抜きで香りだけの話だ」
「わかってる」
そんなことはわかっている。
なのにわざわざ言うな、という腹立たしさを込め、枕をつかんで脳天気な顔に思いきり叩きつけた。デミアは受け止めた枕を抱えてベッドに転がり、けらけらと笑っていた。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます