タムドク/コ・ウチュン

2008_太王四神記,[R18]

太王四神記::タムドク/コ・ウチュン


闖入者

空が黒く塗りつぶされたような、月も星もない闇夜。
夜の見回りを最後に私室へともどり、近衛隊長の一日は終わる。
鎧に手をかけたとき、窓の外に人の気配がした。部下たちもすでに自室へ帰っている刻限だ。
「何者だ」
置いたばかりの刀に手を伸ばしながら誰何する。
音も立てずに外から窓が開き……見慣れた涼しげな顔が覗いた。
「なに、ただの怪しい者ですよ」
「陛下……!」
とっくに寝所でやすんでいるはずの王が、窓枠に足をかけ入ってこようとしている。思わず駆け寄って手を貸していた。
「御用でしたら、わたくしがまいりましたものを、なにもこのような……」
身軽に床へ降り立った彼は、屈託なく「ありがとう」と笑った。
「用というほどのことじゃありませんよ。眠れないから話し相手がほしかっただけです」
「それでもです」
どれほど急ぎの用でも、窓から入り込む理由などない。兵舎の正面からやってきて、見張りの者に取り次がせればよいのだ。この城で彼の思い通りにならないことなどひとつとしてない……あってはならないのだから。
だが彼は変装のつもりなのか一兵卒の姿に身をやつし、そのくせ態度だけは尊大な王そのままに、さっさと寝台に腰かけようとする。あわてて椅子を勧めると、いつもの笑顔で制された。
「その重い鎧を脱ぐといい。息が詰まるでしょう」
「しかし……」
寝台には、王が足を組んで悠然と座っている。その目の前で着替えるなど……
その迷いに気づかないはずもない青年は、上着の中から酒瓶まで取り出している。栓を開けて口をつけ……それから、初めて気づいたようにこちらを見上げた。
「私がここにいると、なにか不都合でも?」
「……………」
不都合だらけだ。
だが、一度こうと決めたら動かない。それが、かの若き王の性なのだとだれよりもよくわかっていたから、小さく肩を落とす。
「脱いでください。……命令ですよ」
酒瓶の口を舐めながら、王は優しく微笑んだ。

「将軍……」
低い囁きと、甘い酒の香。
感覚をくすぐってくる青年の名が、譫言のように唇からこぼれ落ちた。くすりと笑うのが聞こえ、耳朶を甘く噛まれる。頭を痺れさせているのが酔いなのか悦楽なのか、自身にもわからない。
「ぅ……っ」
衣の中へ這い込んでいる悪戯な手は、何者にも屈しない頑健な兵士の肌をまさぐり、いともたやすく弱点を探し当ててくる。奥の秘所でさえ、すでに彼のものだった。若者は、己の存在を顕示するように所有の証として楔を打ち込む。
「痛い、ですか……?」
「ぃえ……」
歯を食いしばって様々な感情や感覚に流されないよう耐える。それが相手には楽しいのかそれとも不満なのか、煽るように睦言を囁いては指先で倦むほどに嬲るのだ。どう応えるべきなのかいつもさんざん迷い、結局は声を殺す……そのくり返しだった。
下女も、女兵士も、その気になれば少年兵もいるというのに、青年王は親子ほども年の離れた近衛隊長だけを夜伽の相手に選ぶ。育て方をまちがったと嘆くには、彼はあまりにも優秀すぎた。理由を尋ねても「面倒がないから」と例の微笑みを返されるだけだ。たしかに、子を孕むこともなければ寵愛に溺れ驕ることもないが……
「ぁ……将軍……」
囁いてくる声の色合いが変わった。息づかいも荒くなる。抱きすくめる腕に力が込められ、鍛え上げられた戦士の肌に長い指が食い込む。
苦しいと感じるより先に、愛おしい、と思った。
すました顔の仮面をかなぐり捨て、戦うより他に能のない身を求めてくる姿は言うまでもなく。
「タムドクさま……」
舌に乗せるその名すらもが愛おしい。
彼をわずかでも慰められるなら、どのように使われてもいい。それで彼の役に立てるのならば。
「…………っ!」
ほとんど声らしい声も上げずに達した青年は、まだ昂奮の波が引かないのか、震えながらしがみついてくる。
「陛下……」
「もう少し……このままで……」
熱く濡れた息づかいと、締めつけてくる腕のたくましさを感じながら、目を閉じた。
「陛下の……お望みのままに……」

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