コニー/デミア

2008_GSG-9,[R18]

その夜、コンスタンティン・フォン・ブレンドープは虫の居所が悪かった。
なにより、機嫌が悪くなっている自分に苛立っていた。
「なあ、コニー」
後ろから友人が声をかけてくるが、返事をするのも面倒で先を歩く。
どうしてこうなったのかといえば、やはり原因は後ろにいる男だ。だから返事をしてやる必要はない、と勝手に結論づけ、コニーはデミアを無視しつづけることにした。

仕事が終わってロッカーが隣り合っている同僚と二人で酒場へくり出した、まではよかったのだ。楽しい時間と酒に気持ちよく酔っていた。しかし少し席を外して戻ってきてみると、コニーの連れは隣のテーブルのメンバーと仲良くなっていた。
「よお、伯爵さまがお帰りだぜ!」
そんな皮肉も普段なら「口を慎め、庶民が」とすました顔でやり返せただろうが、彼を囲んでいるのが彼と同じ系統の顔立ちをした男たちとなると、あまり尊大な態度はとれない。仕方なく席の端に座り、彼らに話を合わせることになる。
場に合わせて笑顔でいられないほど幼くはないが、それでもおもしろくないものはおもしろくないのだ。
別の店で飲もうと言い出した彼らの誘いを適当な理由で断り、赤ら顔の友人を引きずって店を出たのがついさっきの話。
「コニー、聞いてんのか?」
「……聞こえてる」
追いついてきたデミアを振り返ると、さすがに半分ほど酔いの抜けた顔をしている。その顔を見てようやく、笑みを浮かべる余裕が出てきた。
「どこ行くつもりなんだよ」
「おまえの家で飲みなおす」
「はあ!?」
大きな目が見開かれた�を合図に、コニーはなんの前触れも見せずに走り出した。デミアも当然あとを追ってくる。
「おい、本気か……」
その言葉は、このまま走っていくのかという問いだろう。デミアの下宿はここからそう遠くなかった。しかし短距離コースでもない。
「ああ、本気だ!」
二人の正体を知る人間が見たら、緊急を要する大事件が起きたと思われてもおかしくないほど必死に真剣に、二人は夜の道を駆け抜けた。
抜きつ抜かれつしているうちにだんだん愉快な気分になってきて、どちらからともなく笑い出す。学生みたいだとコニーは自嘲気味に思い、デミアは心底楽しそうに「まるで学生だ」とわめいた。
ラストスパートとばかりに階段を駆け上がり、二つの右手が同時にドアを叩く。
「俺が先だ」
「いや、俺だ」
掌をドアに押し当てたまま、息を切らせながら張り合う自分たちの姿がまた滑稽で、しかめ面もそうつづかない。
結局お互いが「譲ってやる」ことに落ちついて、デミアは部屋の鍵を開けた。
ドアが閉まるか閉まらないかのところで、コニーはデミアに飛びつき壁に押しつける。
「っ、コニー!?」
黙れ、と言う代わりに、デミアの口を自分の口でふさいだ。
 �…っ」
なんとかしゃべろうとしていた舌もやがておとなしくなり、コニーの望むままに応えてくるようになる。内心で勝利を確信しながら、コニーはデミアのシャツをまくり上げた。
「……おまえ」
ふと離れた唇が、小さく囁いてきた。
「じゃまが入って拗ねてたのか?」
「……………」
鈍いなら徹底的に鈍感でいてくれればいいものを、訓練された洞察力はプライベートではときに余計だ。そこまで悟ったのなら、沈黙という最適な選択をなぜしないのか。
「自惚れるな」
ぐっとあごを上げ、前髪がひたいから流れ落ちるのを感じながら、コニーは再びデミアに噛みつく。
自尊心を傷つけられたのか、それとも単に考えるのをやめたのか、デミアもコニーのシャツを乱暴に引っぱった。皺になるとか生地が傷むとかそんな些細な不満を、コニーも黙って相手の身体へとぶつける。
薄暗い玄関で、二人の荒い息だけが混じり合い響いて。
もう、どちらも笑ってなどいなかった。

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2008_GSG-9,[R18]

Posted by nickel