タムドク/コ・ウチュン

2008_太王四神記,[R18]

頬の下に逞しい胸が上下するのを感じながら、高句麗の王タムドクは目を閉じていた。
眠くはない。だが、起きていてはならない。彼には王が眠っていると思わせなければならない。起きていると知ったら、王の寝所に長居は無用とすぐにここを出ていってしまうことはわかりきっていた。
王の忠実なる僕であるコ・ウチュンは、王の権威を落とす行為をひどく嫌う。野育ちのタムドクには、ばかばかしく無意味に感じられることでも、彼は自分の主義を曲げない。だからこそ近衛隊などやっていられるのだが、それは同時に二人のあいだに壁を作ることを意味する。その壁を崩すという難題は、常にタムドクの悩みでもあり楽しみでもあった。
寝たふりのタムドクが努めて一定にしている呼吸に、彼の呼吸も重なってしだいにひとつになっていく。
睦み合っているあいだでさえ、彼は臣下としての慎みを忘れようとはしない。貞淑な下女のように、ただ主の求めに応じて身を差し出すだけだ。タムドクがどれほど心を砕き彼を快楽に溺れさせようと、あるいは彼から理性を剥ぎ取ろうと躍起になっても、果たせたためしがなかった。
ならば、かたちだけでもかまわない。事後の余韻に浸るあいだだけでも、ともにいてくれたら。眠れない長い夜の一部だけでも、分かち合ってくれたら。そう願った結果が、この狸寝入りだった。
身動きの取れないコ・ウチュンは、すでに退出をあきらめたのだろう。タムドクを抱きかかえてそっと背をさすっている。あやされている幼子のようで、もう立派な成人であるタムドクは、こみ上げる笑みを殺すのに苦労した。
ふと、上半身の筋肉が動く。
何事かと怪訝に思った瞬間、節くれだった武人の指が、そっとタムドクの唇に触れた。
驚いた。彼はむやみに王の身体に触れるようなことはしない。暫し考え込んだタムドクは、たどり着いた結論に今度こそ笑い出しそうになった。
コ・ウチュンとて人の子、今身体を重ねた相手を愛おしく思う心までは抑えきれなかったのだ。その忠義心を乗り越えてしまうほどに。
笑いたくなる衝動はなんとか堪えたが、うれしさと気恥ずかしさに突き動かされて、その指についこちらから口づけていた。
彼がわずかに息を止めたが、寝ぼけていると判断してくれたらしい。かすかに笑みを洩らすのがわかった。きっと、あのひどく優しい目でこちらを見つめているにちがいない。
大きな手が、再びタムドクの身体を撫ではじめる。タムドクが猫ならば喉を鳴らしていただろう。
いつのまにか二人の鼓動も呼吸も完全に同調していて、二人のあいだにあった壁は溶け合い、なくなってしまった。タムドクが求めていたのはこれだったのだ。今なら、もっと対等な心で抱き合えるだろうか。
しかし別の問題が発生しつつあることにタムドクは気づいていた。
おそらく今夜はもう叶わない。
普段は何度寝返りを打っても眠れないのに、今は眠くてしかたがないのだ。
まだ眠りたくなかった。彼との時を過ごしたい。彼がこんなにも無防備に王に触れてくれることなど、そうあるものでもないのだから。
王は必死に抗いながらも、心地よい眠りの淵へと落ちていった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!