アンホフ/ベンダー

2008_GSG-9,[R18]

Gute nacht kuss

心地よい気だるさに身をゆだね、傍らの裸体を抱き寄せる。
汗も熱も引いていない肌の感触は官能的で、つい掌をすべらせてたしかめたくなるのも仕方のないことだろう。
「アントン……」
文句を言いたそうな顔で睨みつけてくる目にも、いつもの威圧感はなかった。

夜が明ければこの恋人は禁欲的な制服に身を包み、ガラス張りのオフィスに立つ。そして何時間も、ときには日付を越えても、その立ち振る舞いに隙を見せることはない。事実、長い長い勤務時間を終えた後も、彼の制服が乱れていることはほとんどなかった。
その彼の下で働いていながら、自分はかっちりとした制服があまり得意ではない。自分の職務も連邦警察の権威もないがしろにするつもりはないが、仕事に没頭していると、いつのまにかネクタイもシャツも皺だらけになっている。
じゃまな袖をまくり、首を締め上げるボタンを外してネクタイをゆるめながら、上着さえ脱がないボスの横顔に目をやってはため息をついてしまう。息苦しくはないのかと。実際、同僚が同じ疑問を口にしているのを何度も聞いた。

だが皆は知らないだけなのだ。
制服を脱いだ彼の姿を。シャツの下にある未だ衰えない肉体の輪郭を。実戦用に構築された筋肉が快楽を享受するためだけにうねるのを。甘く切ない喘ぎを、快感に耐えてすすり泣くその表情を。
そして、全てが終わったあとで与えられる、この熱と感触までも。
自分だけが知っている、「厳格なボス」のもう一つの顔だった。もちろん、他のだれにも教えるつもりはない。今、彼は組織のリーダーではなく、愛しい者に抱かれている一人の男でしかないのだから。
「トーマス」
なにということもなくただ名を呼ぶと、こちらを覗き込んでいた彼はわずかに、だが優しく微笑んだ。
その顔がふっと近づいてきたかと思うと、唇を重ねられる。
「……おやすみ」
触れるだけのキスのあとにそう囁き、彼は毛布を引き寄せて寝床にもぐり込む。だがその身体は恋人の腕から強いて逃れようとはしなかった。長い腕に抱かれたまま、その肩を枕に目を閉じている。
肩に当たる髪がくすぐったい。それ以上に、その無防備な寝顔を見つめているのがくすぐったい。このくすぐったさこそが、彼を独占している証なのだと思う。
「……おやすみなさい」
呟いて、抱き寄せた彼のひたいに唇を押し当てた。

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2008_GSG-9,[R18]

Posted by nickel