戦兎/石動

2017_仮面ライダービルド,[PG]

【this room】

 軽くて、抜けてて。
 やたら騒々しくて、やたらオシャレで。
 変なとこだけオッサンくさくて。
 器用なんだか不器用なんだかわからなくて。
 感覚的には年上の悪友ってところ……。
 桐生戦兎にとって、石動惣一はそういう相手だった。

 新しいボトルは手に入らないし、発明のアイデアも浮かばないし、美空は一人でゲームに没頭していて話しかけても無視されるし、おまけに外はどしゃぶりで、気晴らしに夜のツーリングというわけにもいかない。
 明かりの落とされた店を抜けて、二階の住居へ向かう。 ここには美空の部屋も戦兎の部屋もいちおう用意されているが、二人ともほとんどの時間を地下の秘密基地で過ごしているから、実質は空き部屋ばかりだ。
「ちょうどいい、風呂入れよ」
 廊下の向こうから、濡れた髪を拭きながら石動が声をかけてきた。
 そのまま自分の寝室に入っていく彼の後を追う。
「風呂はあっちだぞ」
「そのあいだに鍵かけて寝るだろ?」
 言いながら、後ろ手にドアの鍵をかける。店と直結しているからか、この家は全ての部屋に鍵がついていて、戦兎が入ったことのない部屋もあった。
 理由はさておき、この部屋から美空を締め出しておくに越したことはない。
「今朝シャワー浴びたし」
 大きなベッドに勢いよく倒れ込む。地下のベッドはそれなりに落ちつくが、寝心地からいけばこちらのほうが格段に上だ。店に客が来なさすぎてよそでアルバイトをしているわりには、ベッドも壁際のチェストもその他の家具も、安物には見えない。
 だが石動の懐事情など、戦兎は興味がなかった。今最大の関心事といえば……。
「あのボトルが、わかんねえんだよな」
「なに、この前の?」
 天井を眺めながら呟くと、ドライヤーを出そうとしている石動が応じてくる。
 戦兎はパーカーのポケットに入っていたボトルを出して明かりにかざした。
「手持ちは全部ハズレだったし……片割れをゲットできる確率も未知数なのに、最近スマッシュ出てねえし。平和なのはいいけどさ……」
 ぶつぶつ言う声は、ドライヤーの音にかき消された。
 しばらくは顔の上に掲げたボトルを眺めるでもなく目だけ向けていたが、やがて飽きて再びポケットにしまう。だがまだ少しも眠くない。
 ドライヤーの音が止まった。それから部屋の明かりも落とされ、ベッドサイドの間接照明だけになる。
「……つまり、いきづまってると」
「そっ」
 指を鳴らして彼を指すと、石動は苦笑しながらベッドサイドへやってきた。
「戦兎くん、そこはバイトで疲れ果てた俺が貴重な睡眠をとるための場所なんだけど」
「へえ」
「へえじゃなくて」
 どけと言われているのはもちろんわかるが、それではこの部屋に来た意味もない。あごを上げ、口元を指して要求する。
「めんどくさいカノジョか」
 そう言いながらも、彼はこちらへかがみこんできた。唇が触れるか触れないかのところで、首に腕をまわして引き寄せる。わざと体重をかけたが、腕やひざをついて抵抗する石動はなかなか屈しない。その一方で、戦兎が求める口づけにはしっかり応えていた。
「ぅん……」
 目を閉じてただ与えられる感覚を受け入れる。
 自分からするより、してもらうほうが「気持ちいい」ことは経験上知っていて、だから何度でも口づけをせがむ。拒まれた記憶はない。
 やがて混じり合う息が荒くなり、観念したように石動は戦兎の胸に倒れ込んできた。
「ほら、どかなくてもよくなっただろ?」
「おまえね……」
 呆れた声とともに、彼は戦兎の横に転がる。最初から二人ぶんのスペースはあって、戦兎が譲る必要など全くないのだ。
 シーツの上に投げ出された手をとって唇を押しつける。長い指に広い掌。器用なのか不器用なのか全くわからないが、優しい手であることだけはまちがいない。
「戦兎」
 心なしかなだめるような諭すような口調で呼ばれたが、かまわず指先に噛みついた。ひくりと痙攣する指の動きが官能的に感じられて、ついでに舌を這わせる。
 指をしゃぶりながら上目遣いに見やると、石動がわずかに眉を寄せて戦兎を見つめていた。
「わかった、わかった」
 目が合うなり笑顔を作った彼は、おもむろにもう片方の手を戦兎に差し出す。
「しょうがないなあ、ほれ」
 手に握らされたものを見て、戦兎も一瞬ののち笑い出す。二人ぶんのコンドームだ。
「なんだよやる気あるじゃん」
「言い出したらきかない子がいますからね」
「まあそういうことにしてやってもいいですけどね」
 にやにやと応じた戦兎は、遠慮なく彼の上に跨がった。体格は悔しいが完全に負けているから、戦兎が上に乗るのは当然といっていい。
「……風呂で準備してきた?」
「ま、いちおうな」
 乾かしたばかりの髪をかき上げて、少しばかりきまり悪そうな笑みを浮かべてみせるのは、照れ隠しだろうか。
「やっぱやる気じゃん」
「だっていつ襲われるかわかんないし……」
 きゃっなどと言いながら自分の肩を抱いて縮こまってみせるものだから、こちらとしても天井を仰ぐしかない。
「だれがいつ襲ったよ」
 渋ったりためらったりしてみせるのは単なるポーズで、それも含めて楽しんでいる自分がいる。
「じゃあご期待にお応えしないとね」
「お手柔らかにお願いしますよ」
 長い腕が伸びてきて、パーカーの裾をまくり上げる。なにを言おうと彼も自分を欲しがっているのだと思うと、一気にテンションが上がった。

 軽くて、抜けてて。
 歳の離れた友人、というには距離が近すぎるかもしれないけれど。
 そばにいると理屈抜きで居心地がいい。
 なにをするわけでもなくただじゃれあっているだけで、全ての不満も不安も意識の外に追い出される。
 桐生戦兎にとって、石動惣一はそういう相手だった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!