マーベラス/ジョー
休息所
ふらりと部屋に現れた船長は、いつもと変わらない様子だった。人のベッドにブーツのままの足を投げ出して寝転がり、にやけた顔で抗議を封じる。
ジョーは嘆息を押し殺して、彼に身をかがめた。触れるだけの口づけを、マーベラスは素直に受け入れる。
普段なら「やめろ」の一言か、ひざ蹴りでもよこす場面だ。ジョーが好む接触はマーベラスにとってはもどかしいか焦れったいらしく、払いのけられることもめずらしくはない。そのままベッドに引き倒されてなし崩しに、というのが定番でもある。
ジョーはマーベラスの顔を正面から覗き込む。
いつもどおりの、不敵な笑顔。だがぎらついた情欲は、今日に限っては見えなかった。
どうした、とは訊かない。相手が答えられない質問をするのはフェアではない。それにきっと彼も、ジョーの傷について尋ねないようにしているだろうから。
憎い男に仲間を傷つけられて平穏なはずはないのに、彼はもう終わったことだとすべての憤懣と屈辱を飲み込んだ。船長としてふるまおうとしている彼に対して、安い心配など必要ない。
自分もベッドに上がると、マーベラスが当然の顔をしてじゃれついてくる。大きな犬のように、遠慮はしないが噛みつきもしない。
抱きしめても、普段のように動けないなどという文句は出ない。
代わりに、小さく名を呼ばれる。
「ジョー……」
「うん?」
間を置かない返事に戸惑ったのか、マーベラスはジョーの腕の中で身じろぎした。
「いや……」
なんでもねえよ、とふてくされたように呟く彼に苦笑して、ジョーは彼が言えないセリフを、代わりに囁いた。
「もう少し、こうしててもいいか?」
「……好きにしろよ」
うれしそうに吐き捨てるマーベラスを、もう一度強く抱きすくめる。
沈んでいる彼を上向かせることができるのは、彼自身以外にはいないのだけれど。再び歩き出す前に少し休みたいというのなら、いくらでもその心を抱きとめよう。
「マーベラス」
「ああ?」
微動だにせず、宙を眺めたまま答える横顔に、唇を寄せる。
「……………」
安堵の色を含んだ、小さなため息が洩れた。
今日は静かだなってハカセも思ってますよ、きっと。
逆に不安で眠れなかったりして……受難ボーイ!
★★★
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