蒼太/鳥羽
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蒼龍の夜
ベッドに倒れ込んだまま、ぼんやりと窓の外に広がる夜景を眺める。
ずいぶん待たされてだんだん眠くなってきた。女なら支度が長くても許せるが……
目を閉じて意識が遠のきかけたころ、ようやくドアが開いた。
「鳥羽さぁん」
「お……」
隣室から現れた相棒を見た鳥羽は、弾けるように笑い出していた。
「……最高! おまえ最高!! あはははは……」
涙まで浮かべて笑い転げる先輩を、蒼太は満足げに眺める。
ふと、夜景が美しい窓に目をやると、そこには世にもふしぎな出で立ちをした自分が映っていた。
「似合う似合う!! ひー……」
まだ笑っている。
蒼太の身を包んでいるのは、鮮やかなブルーのドレスだった。金糸で大胆に描かれた龍の模様が美しい、チャイナドレスだ。
有り体に言ってしまえば、女装である。もちろんメイクも完璧。濃いめのアイシャドウにチーク、グロッシーなルージュまで引いて、本格的に決めている。
といっても、女に化けようとしているわけではない。あくまで「女装」なのだ。これから二人が潜入しようとしているのは、そういう趣旨で開かれるパーティだった。女としてではなく、女装した男として美しく。そして可笑しく。そんな悪趣味ギリギリのクィアなパーティに、二人が求める情報提供者がまぎれ込んでいるのだった。
蒼太が適任だ、と断言した鳥羽の見立ては、その反応を見るかぎりではどうやらまちがっていなかったらしい。
「ちょっと、笑いすぎですよ」
蒼太はしなを作って短い髪をかき上げながら、ベッドに突っ伏して痙攣している相棒に歩み寄った。こういう格好をしていると、自然と歩き方も変わってくるものらしく、それがまた鳥羽の笑いを誘発する。
「鳥羽さん……ぼくにエスコートなしで行けっていうんですか?」
「ごめんごめん……」
彼は頬を引きつらせながら身を起こして、立ち上がった。
「それでは小姐、お手をどうぞ」
「多謝」
蒼太が毒々しいほどきらびやかなネイルで飾られた手を差し伸べれば、鳥羽はその手に口づけてそのまま引き寄せる。
シルクドレスのなめらかな生地を楽しむように腰を抱き寄せてから、鳥羽の眉が寄った。
「……ハイヒールはどうかと思うな。チャイナドレスならフラットな靴のほうがいいんじゃないか?」
「ええ? ぼくはなかなかいい気分ですけど」
今、蒼太は普段より7センチも高い目線から相手を見下ろしていた。
二人の背丈は同じくらいだから、片方が底上げすればこうなるのは仕方がない。
「背の高い女性も好きだって言ってたじゃないですか。ハイヒールはそそるって」
「女は女。おまえだとなんかムカつくんだよ」
そう言いながらも、その腕はしっかり細い腰をつかまえていて、離す気はないようだった。そうやって蒼太の身体を捕らえたまま……
「あ、ちょっ……」
鳥羽は後ろに倒れ込む。二人は自分たちを受け止めてくれたベッドの上で跳ねた。
「……もう、ヒールってバランス崩しやすいんですよ?」
抗議する蒼太を見上げ、鳥羽はにやりと笑う。
「……横になれば、身長なんか関係ないよな?」
子どもっぽい対抗意識を燃やす先輩の顔を真上から見下ろし、蒼太は肩をすくめた。
「それにしても、よく化けたよ。脚もそこらの女よりきれいだ」
鳥羽の指が、黒いタイツをなぞるように動き、悪戯っぽくガーターベルトを引っぱった。
「せっかくなんだから、銃のひとつも仕込まないと」
「わかってるでしょ? 女の人とちがって、男にそんなスペースないんですよ」
そう囁かれた鳥羽は、噴き出しそうな顔で蒼太の内股を撫で上げる。
「最初から入ってるって?」
悪戯な指先にレースが触れた。その中に男性器が押し込められているのかと思うだけでおかしくなって、先端を生地ごと指でこすり上げた。
案の定、蒼太は濃いメイクの顔をきれいにゆがめて、吐息を洩らす。
逆らうように身をよじるから、鳥羽もいい気になって腰を抱く腕に力を込める。それほど強くいじってもいないのに、レースの感触も手伝っているのか、そこがすぐに硬くなっていくのを感じた。
「お嬢さん、濡れるのが早すぎませんか……?」
笑みを含んだ囁きとともに下着がずらされ、それまで愛撫に身を任せていた蒼太も少しばかり焦りを見せる。
「ちょっ……汚れちゃう……高級品なんですよコレ……」
ドレスも、ランジェリーも、ガーターもハイヒールも。すべてが特注品で、替えはない。本番は明日なのに、試着で汚してしまっては元も子もない。
「汚さないようにすればいいじゃないか」
鳥羽はポケットからゴムを取り出し、いつもどおりの手際よさで装着してくれる。
すでに息が熱くなっていた蒼太は、それでも微笑んで相手を見下ろした。
「……ぼくにつけてくれたってことは、ぼくが挿れてもいいってことですよね?」
「は、なにその論理? 自分の身なりわかってるの、蒼子ちゃん?」
わかっている。
深いスリットから脚が見えるドレスに、掘りの深さを強調する大げさなメイク。女物の下着を着けて、その中で雄をいきり立たせているのだ。そんな自分の俯瞰図を想像するだけで、腰の奥が疼く。
「こういうのも、倒錯的でいいじゃないですか」
もう、途中でやめることなどできない。彼がなんと言おうと、この姿のまま彼を犯す気でいた。
息苦しいスタンドカラーを開くと、鳥羽が眩しそうに目を細める。
「見たくなかったら、後ろからでもいいですよ?」
「……たしかに、目に毒だけどな」
妖艶に微笑んだ蒼太は相手の頬に長い爪を這わせ、煌めく唇を寄せる。
鳥羽の唇までもが、化粧したようにルージュで染められていった。
しばらく口づけを楽しんだあと、蒼太は困ったように鳥羽の顔を覗きこむ。
「……鳥羽さん、自分で準備してくれませんか」
「は?」
ムードを断ち切るような直截な発言に、鳥羽のほうもぽかんと口を開けて相手を見上げた。しかし、きらめく長い爪を無言で見せられ、「ああ」と納得する。
「はずせよ。つけ爪だろ?」
「かんたんに言わないでくださいよぉ。ぼくもう我慢できません」
ねだるように腰を押しつけてくるしぐさは女性的なのに、当たっているのはまぎれもなく男性そのものだ。蒼太以上に途方に暮れた鳥羽は、あいまいな笑みを浮かべて相棒を見上げた。
「じゃあ口でしてやるから。入れないで済まそう、な?」
「やです! このカッコでしたいんです!」
鳥羽はふと窓のほうを見やる。巨大な鏡となっている窓は、チャイナドレスに押し倒されている自分を映し出していた。
「ナニに目ざめたのおまえ……」
その呟きには、蒼太も答えられなかった。
化粧が終わって鏡を覗きこんだとき、ヒールを履いて鳥羽を見下ろしたとき、なにか奇妙な快感を覚えたことは事実だ。だが、今それを分析していられるほど悠長にはなれない。
「も……早くしてください! 準備なしでしちゃいますよ!」
「待て、待てったら!」
どうしてはじめてしまったんだろう、と後悔しながら、鳥羽は自分のホックを外す。タキシードの試着などする必要はないから、ラフな格好でいたのが幸いしたといおうか……
蒼太もシャツのボタンを外そうとしているが、器用なはずの彼が爪にじゃまされて手間取っている。苛立つ爪が腹を引っかき、そのたびに鳥羽はひやりとして身体をこわばらせた。
ふと見下ろせば、ドレスに描かれた龍がこちらを睨みつけている。とがった爪と大きな瞳で押さえつけてくる蒼太こそが龍に見えた。
無言で片手を差し出すと、蒼太がその指に舌を這わせる。視線は鳥羽の顔から外さずに。お互いに笑い出してもおかしくない状況だったが、二人とも真剣な顔で相手を見つめていた。この遊びが、どこまでいくのかを見通すように。
たっぷり濡らされてべとついた指を、自分で自分の後ろに入れた。べつに今さら羞恥も抵抗もないが、あまり楽しいものではない。
「ふ……」
四つん這いで覆いかぶさったかたちの蒼太が、瞳を熱っぽく潤ませ、瞬きもせずにその様子を凝視している。
「鳥羽さん、エッチ……」
「そのカッコで迫ってくるおまえほどじゃないよ……」
自分の身体だから、どこをどうすれば準備ができるのかくらいはわかる。男でも、慣れれば「濡れる」ことくらいはできるのだ。もちろん蒼太にも教えた。だが、こういう状況はさすがに想定していなかった……と鳥羽は思う。
「う……っ」
「鳥羽さん……」
濃い化粧に彩られた目が、苦しげに歪んだ。それでもグロスで輝く口元は笑みを形づくっている。
「もう、いいぞ……」
熱烈な口づけとともに蒼太が乗りかかってきて、鳥羽は一瞬息を止めた。
自分の上に乗っているのは、女……少なくとも女に見えるモノなのに、脚を広げて貫かれているのはこの自分で……呆然と、ただ相手を受け入れる。
「ふふ……」
すべてにおいて先輩で、なんでも経験済みだと思っていた鳥羽が、この状況に戸惑っているらしいということが、蒼太には痛快でたまらなかった。いつもとちがう服装だというだけなのに、自分も彼もここまで気分を変えることができるとは……楽しくて、おかしくて、彼自身から教え込まれた技術を駆使し彼を追いつめていく。
「く、ぁあっ、蒼……んっ」
「やだ……鳥羽さん、すごいエッチ……」
それなりに我慢強いはずの二人は、いつもより早く絶頂に達した。
「……コーフンしました?」
ベッドの上に座り込み、乱れた髪を長い爪先で直しながら、蒼太は鳥羽を見下ろす。
服を直すより毛布にくるまったほうが手軽だと判断した鳥羽は、Yシャツ以外をすべてベッド下に払い落として、毛布の中へ避難していた。
「……悔しいけど、ちょっとした」
ちょっと、どころではなかったことに、鳥羽は多少眩暈を覚え、枕に顔をうずめる。蒼太にも女装にも不満はないのだが、なんとなく矜持が揺らぐのだ。
「鳥羽さん?」
「立ちなおるまでそっとしといてくれ……」
蒼太は、苦笑しながらこめかみを掻こうとして、目元をかすめた自分の爪に凍りつく。
慣れるまでにはもう少し時間がかかりそうだった。
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「……機嫌なおせよ」
「……………」
鳥羽はため息をついて、ホテルの廊下を足早に歩いていく蒼太の後を追う。
片手には脱いだハイヒールをぶら下げ、もう片手に持ったハンドバッグを乱暴に振りまわしながら、彼は厚い絨毯の敷かれた廊下をすたすたと歩いている。チャイナドレスの裾がめくれようがおかまいなしだ。
タキシード姿の鳥羽は、大ぶりの扇子を広げて力なく仰ぎながら、その後ろを歩いていた。ハンドバッグから飛び出して落ちたのを、蒼太の代わりに拾ってやったのだ。肩には、同じく蒼太が落とした黒いファーがかかっている。まるでハンガーだ。
部屋に入ると、蒼太は腹立たしげにハイヒールとハンドバッグを床に叩きつける。
オートロックのドアから閉め出されそうになった鳥羽は、あわてて部屋に駆け込んだ。
「もうっ、なんなんだよあの男っ!」
ドアの真ん前に立ちつくしているから、あとから入った鳥羽も部屋に入れない。ドアに寄りかかって、扇子を閉じた。
「どうしてぼくじゃないんだよ!!」
「そりゃあおまえ、向こうのほうが胸があったからだろ」
蒼太はぎっと背後の相棒を睨みつけ、しかし返す言葉もなく黙り込む。
つまるところ、蒼太は失敗したのだ。
ターゲットに近づいて気に入られたまではよかった。だがそこに長身のブロンド美人……もちろん男である……が現れ、横からターゲットをかっさらっていってしまった。
「素人に持っていかれるなんて……」
同業者相手なら、まだ作戦も立てられた、と蒼太は思う。ところが、敵はただの男娼だったのだ。たしかに、細身ながらカクテルドレスの上からでもわかる胸筋はあったし、男の気を引くテクニックにも長けていたが、それにしても気が収まらない。
「あのなあ、客引きじゃこっちが素人なんだよ。盗聴器はつけたんだろ? 位置もわかってるし、いいじゃないか」
「プライドの問題です!」
女装の色仕掛け勝負にプライドもなにも……と鳥羽は思ったが口にはしなかった。
代わりに腕を伸ばし、彼を背中から抱きしめる。靴を脱いだ彼は、いつもどおりの身長にもどっていた。
「だいじょうぶだ、おまえは今のままでも充分かわいい。あいつの見る目がなかっただけなんだ、な?」
抱きしめてその胸に手をすべらせるが、たしかに哀しいほど平べったい。男でも女でも、多少は筋肉なり脂肪なりがついていたほうが魅力は増すものだ。
「鳥羽さん……今、胸がないって思ったでしょ」
「……俺は、貧乳も好きだよ?」
フォローになっていない、と思ったのは蒼太も同様で、忌々しげに息を吐き出して完全に沈黙した。このところ部屋にこもってパソコンにかじりついている時間のほうが長かったから、なけなしの筋肉が落ちているのは自覚していたのだ。
「だいたい、おまえの仕事だろ? 腹いせに俺まで巻き込むなよ」
失敗した相棒を慰めるのにやぶさかではないが、八つ当たりは勘弁してほしい。鳥羽はため息をついて、その髪に頬を押しつけた。
「鳥羽さんは遊んでただけじゃないですか」
「だからって……」
今回の任務は準備こそ二人でやっていたが、今夜だけは蒼太任せだった。だからエスコートの役目を終えたあとは、気に入った相手を見つけてゆきずりの恋でも楽しもうとしていたのだ。初心どおり男前なタキシードと歓談していたところに、不機嫌オーラを全身から発している蒼太が現れ、そのまま引きずっていかれたのだった。
「あと一歩で連れ出せるところだったのに……」
「一人だけ楽しもうなんて許しません」
低い声でそう言いながら、指輪をいじっている。いつもはシルバーリングがはまっている指に、今は大きなサファイアが光っていた。
「……じゃあ、いっしょに楽しもうか?」
大きなイヤリングが下がっている耳に舌を這わせたが、返事はない。反応すらない。
「俺の恋路をジャマした責任は取ってくれよ……なあ?」
マスカラで飾られた瞳が、ちらりとこちらを見やる。
「目が痛いんで、化粧落としてきていいですか?」
「なんだ、せっかく慣れてきたとこなのに」
最初は悪い冗談にしか見えなかったが、薄暗いパーティルームで演じられる艶姿を見ているうち、ありだと思えてきたのだからふしぎなものだ。このままでというのも案外悪くない……と遅まきながら思っていたのだが。
未練がましく腕に力を込めた鳥羽を見やる目が、ふっと細められた。
「ドレスは鳥羽さんが脱がせていいですよ」
「あ、そう?」
あからさまに声を弾ませた鳥羽は、笑顔で蒼太を解放する。蒼太はそんな相棒に苦笑して、バスルームに向かった。
少しは機嫌がなおってきたようだ、と思いながら、鼻歌交じりでタイを引き抜き、放り投げる。上着や靴を脱いではあたりに投げ散らかし、第二のパーティ会場……ベッドへ。
「鳥羽さぁん」
最初の試着でそうしたように、チャイナドレスの美人がくねくねと歩いてくるのを眺める。
だが今度は最初から胸元がしどけなく開いていて、派手なメイクもアクセサリもないのに、艶を醸し出していた。蒼太がなにか妙なコツをつかんでしまったのか、それとも自分が慣れきっただけなのか。迷いながらも鳥羽はその手を取って、遠慮なくベッドに引き倒した。
「今夜は汚していいんだよな」
「中はダメですよ……」
かすれ気味にそう囁き、蒼太は鳥羽の首に腕を絡める。いつもの蒼太だ、と安心して、軽く唇を重ねた。
昨夜と同じようにガーターに触れると、なにか硬いものが手に当たった。レースのあいだから小さなプレートをつまみ出す。メモリーカードだ。
「ああ……こっちは成功したのか」
「当然です」
メインの情報獲得には失敗したが、別口の情報交換は成功したらしい。そういえばパーティの最初で蒼太にベタベタしていた男がいたな……と思い出す。なにかしらの取り引きだとは思っていたが、まさかこういう仕掛けとは……
「不二子ちゃんもびっくりだ」
賛辞かどうかも疑問だったが、蒼太は無邪気に微笑んだ。彼の戦果をサイドテーブルに放り投げ、またスリットへ手を差し入れる。一方で開いた胸元に顔をつっこみ、平たい胸に唇の痕をつけた。
「胸、小さくてすみませんね」
蒼太が拗ねた声で呟いた。先ほど鳥羽が口説いていた相手も、それなりの体格だったことを思い出していた。
「貧乳も好きだって言っただろ?」
「そんなの……ぁん……」
胸の突起を舌でつつけば、蒼太はわざわざ甘い声を洩らしてそれに応える。
失敗は失敗として、純粋に行為を楽しむことに決めたのだ。今夜はお互いに別の相手と過ごす予定だったが、こうして二人で抱き合っているからには、ここでしかできない馴れ合いを楽しみたい。
「鳥羽、さん……っ」
ドレスの中に入ってきた手が、レースのランジェリーを引き下ろし、そこを優しく愛撫している。相手が普段より少しだけ紳士的に見えて、蒼太は頬を上気させながら笑った。
「女の子のカッコしてると、鳥羽さんが優しい……」
「俺はいつだって優しいよ……」
いつもより長く思える前戯のあとで、鳥羽は蒼太を自分の腰の上に乗せる。部屋の照明はつけたままだったから、そうすると相手の様子がよく見えた。
「っ、……ぁっ」
下から貫かれた蒼太も、うれしそうに嬌声を上げて腰を揺らす。
女を演じているのかと思いかけ、鳥羽はすぐに打ち消した。自分が抱いている身体は男そのものだし、なによりどこから見ても蒼太だ。
蒼太自身も、抱かれるなら女になりきったほうがいいのかと一瞬考えたが、そんな必要はないとすぐに思った。これはただのシチュエーションだ。なにをして遊ぼうとも、二人が二人であることは変わらない。
身をかがめ、唇を重ねた。腰を抱きしめられ、身体の位置が逆転した。鳥羽の指が、すっと蒼太の頬を撫でる。ファンデーションはとっくに落とされ、いつもの素肌だ。
「蒼太、きれいだよ」
「知ってます」
二人は相手の首に腕をまわして、くすくすと笑った。
ワインの瓶とグラスを持って、鳥羽がベッドルームにもどってきたとき。
ベッドに身を投げ出していた蒼太が、小さな声で呟いた。
「……脱がしてくれるんじゃ、なかったんですかあ……」
襟は肩や胸が見えるほど広げられ、裾は長い脚をほとんど覆っていないが、それでも青いドレスは光沢のある皺を作りながら蒼太の身体に張りついている。迫力のドラゴンもこうなっては形なしだ。
「悪い、服着たままのほうが好きだったの、忘れてた」
肩をすくめてしれっと言えば、蒼太はもの憂げに鳥羽を見上げる。
乱れたドレスを直そうともせず、かといって脱ぎ捨てるわけでもなく、情事を終えたそのままの姿で……薄く笑った。
「くせになりそうですよ」
鳥羽もそれに応えて微笑む。
「同感だな」
蒼太の機嫌はもうなおっている。あとはお互いの気が済むまで、楽しめばいいだけだ。些細な失敗のことなど、明日の朝考えればいい。
今はただ、この時間を楽しもう。蒼い龍との、倒錯的な夜を。
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