魁利/透真

2018_ルパパト,[!],[R18]

 目が覚めたら、頭がすっきりしていた。
 寝る前は誰かが横にいてくれたような気がするが、部屋には自分一人だった。ただベッドの横にある椅子が、看病してくれた人間の存在を示している。
 明かりがついている階下に下りていく。日も暮れてとっくに店じまいしている時間だが、二人はまだ部屋に戻ってはいないらしい。
 覗いてみると、カウンターの前で二人が顔を寄せて話しているところだった。カウンターにはワイングラスが置いてある。
「あ、お酒!」
 思わず声を上げたが、身を起こしてこちらを振り返った魁利は唇を舐めながら愉快そうに笑っただけだった。
「透真しか飲んでねーよ」
「ただの味見だ」
 椅子に腰かけている透真は、笑みこそないがすました顔でグラスをかたむける。確かにグラスは透真が持っているぶんも合わせれば三つもあって、少ししか入っていないようだ。魁利はと見れば、炭酸水の瓶を持っていた。
 ほっと息をつき、初美花は二人に歩み寄った。
「ホントにぃ?」
 心配ないとわかっているからこそ、こんなことも言える。
「ま、香りだけで酔ってるかもな」
 魁利はにやっと笑って透真の背に寄りかかった。言い慣れた気障な言い回しも仮面なしではわざとらしいだけだ。
「ぜんっぜん似合ってないし」
「うっさい」
 寄りかかられた透真も邪険に振り払ったりはしない。目も合わせないほど険悪だった時期があったと思えば、ずいぶん仲良くなったものだ。同じ部屋で寝起きしていればいやでもそうなるのかもしれない。
「もう起きてもいいのか」
 透真がグラスを片づけながら尋ねてきた。
「うん、平気っぽい。いろいろごめんね……お店ずっと休んでたの?」
「魁利だけで店が回るわけないだろ」
「そうそう」
 戦力外と言われた魁利は怒るどころかしたり顔でうなずいている。
「もう……ちょっとはがんばってよ。風邪もひけないじゃない」
「その代わり、コレクションゲットしてきたぜ。さくっと奪って、さくっとコグレさんに返したった」
 Vサインを出してみせる魁利の言うことがどうにも信用できなくて、透真のほうを窺うと「嘘じゃないぞ」と笑っている。自分が寝ているあいだに依頼が来ていたとは気づかなかった。
「すごい、二人で?」
 そう言ってから、はっと気づく。
「二人だけで、できちゃったんだ……」
 自分がいなくてもいいのかもしれないと思うと少し胸が痛くなったが、すぐに魁利が「二度とやりたくない」と大きく手を振る。
「いやもうヤバかったわ。透真ぜんぜん使えねえの……」
「うるさい、人を囮に使っておいて」
 詳しい経緯は聞き出せなかったものの、魁利のせいで透真が敵に捕まったり、金庫に近づくまでに手こずったり、実際は「さくっと」ではなかったらしい。よく見れば透真は顔の片側に絆創膏を貼っていて、それだけでも苦戦をうかがわせる。
「なんだぁ、結局あたしがいないとダメダメじゃん」
 腕組みしてみせながらそう言ってやると、透真がくすりと笑った。
「まあな」
 まさか肯定されるとは思わなくて驚く。
「いやダメダメなのは透真だけだし、オレは一人でも余裕だし」
「なに言ってんの」
 強がる魁利を小突いてから、おなかすいたと大げさに訴えた。透真は待ちかまえていたように厨房へ向かい、魁利もそのあとを追う。
「そこ座ってろよ、今ドリンク出してやっから」
「うん、ありがと」

 いつのまにか「見ず知らずの男二人」は少しも怖くなくて、いちばん安心できる存在になっている。
 この三人でなら、きっと全員で願いを叶えられると思えた。

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