【ワンライ】真田丸

景勝と兼続
708字
お題ひねり出してみた
『いつから嘘だってわかってた?』


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己の意志で足を踏み出すのさえままならぬ日々に、寝床を出たくない朝もある。
急な腹痛がと小姓に訴え、寝所への立てこもりに成功した。
起きたところで、取り立ててすべき責務もない。出ていったところで却って煙たがられるのがせいぜいだ。
それでもいちおう城主の不調となれば、放っておくわけにもいかないのだろう。周りがにわかに慌ただしくなるのを、景勝は感慨もなく眺めていた。腹がへって、それが痛いような気もする。朝餉を一度抜いたところで死にはしないが、腹痛と言いはった以上は言い出しにくい。
医者が来るかと思っていたところ、やってきたのは兼続だった。先ほども顔色を確かめにだとか火鉢を置かせにだとか、幾度か寝所を訪れてはいたのだが。
彼は己の脇へ盆を置かせると、小姓を下がらせる。
「お薬でございます」
医者もよこさずにいきなり薬か。兼続らしくない手抜きだと思いながらも、床から起き上がった。
「……うむ」
見るからに苦そうな煎じ薬を、兼続は手ずから差し出してくる。痛くない腹に薬を流し込むというのは、果たして体に悪くないのだろうか。
そんなことを考えながら景勝がためらっていると、彼は椀を傍らへ置き、常のように背筋を伸ばした。
「こうなることは、初めからおわかりだったと存じますが?」
平坦な口調の中にも挑むような語気を感じ、兼続の顔を見返した。顔色ひとつ変えず、目だけを伏せている。
「……いつからわかっておった?」
兼続は答えず、わずかに口元をゆるめた。
そうだ、この男に口先だけの嘘など通じるはずがない。景勝も笑い、薬の椀に手を伸ばす。
「叶わんな」
一息に飲み干すと、椀を取り上げられ口元についた煎じ薬を舐め取られる。
苦いはずの薬が、不思議と甘かった。
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いちゃつかせるのを忘れていて、ラスト30秒でねじ込みました……