【ワンライ】オーズ
映司とアンク
1031字
2人でじゃれったー
『皆が見ている中 食べさせる。』
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忙しいランチタイムも過ぎ、店内はゆっくり時間を過ごしたい客がメインになってきた。
映司は皿を洗いながら、ふとカウンターに座っている男のことを思い出す。今日は普段より忙しくて、アンクがいつからそこにいたのか、何をしていたのか全く気にしていなかった。なにか食べ物を与えた記憶もない。
「アンク……」
手を拭きつつ声をかけにいくと、不機嫌そうに睨みつけられた。
手元のグラスが空になっている以外は、食事をした気配もない。
「ごめん、忘れてた。今用意するね」
今月は中華フェア。辛いのはあまり得意ではなさそうだから、点心を皿に盛りつける。
昼食を載せたトレイを持っていくなり、アンクの腹が鳴った。
やはり空腹だったのだなと思うが、目の前に置いても彼は手を出そうとしない。半日存在を忘れられたことに気を悪くしているのだろうか。それにしても変な意地は張らないでほしい。
「食べてくれないと、おれが比奈ちゃんに怒られちゃう」
「どうせ、どやされるのはおれだ」
かなり虫の居所が悪そうだ。目の前の食事に手を出す気はないらしい。
アンク自身が映司の世話を拒むのは一向にかまわないが、彼の肉体の健康を損ねることになるのは、問題だ。比奈にもそのあたりは強く頼まれている。
「ほら。今日も美味しいよ?」
映司は手でシュウマイを取って自分でひとつ口に放り込み、思わず顔をほころばせた。そういえば自分も空腹だった。
「やばい、おれ全部食べちゃいそう」
アンクがちらりとこちらを見た。
「味見する?」
言いながら、彼の口元に突きつける。
アンクは一瞬迷うように映司を睨みつけ、それから頭だけを動かして映司の手からシュウマイを食べた。もそもそと咀嚼している彼を見て、ほっと一息つく。
これで食べてくれればと思ったが、飲み込んだ彼は次を催促するかのように口を開ける。
まるで子供……いや雛鳥だ。
映司は笑いを噛み殺しながら、今度は熱い小籠包を半分かじり、もう半分を雛の口に持っていった。
アンクはそれを持つ指まで口に入れ、歯を立て、そして舐め取っていく。
もうひとつ。またひとつ。
映司はアンクの口元だけを見つめながら、機械的に彼の口へ運んだ。
「映司くん、アンクちゃん……」
横からオーナーに声をかけられ、はっと我に返る。知世子が困った顔で笑みを浮かべていた。
「仲がいいのはいいんだけど……」
「あ……」
多くないとはいえ、客の視線が二人に集まっている。
苦く笑って謝ろうとしたとき。
他人の目など意に介さないアンクが、肉まんを持ったままの手に噛みついた。
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10分くらいは「なに食べる?」って考えてた気がする。苦しまぎれとはいえ、中華は箸使うよね…