【SS】ラッキーとスティンガー
文字書きワードパレット
2.牡牛座
「従う」「白昼夢」「奥底」
キュウレンジャー/ラキステ
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大きな手が、首の後ろから背骨へとゆっくり撫で下ろしていくのを感じた。
蠍の長い尾が収められている背中の外骨格は、尾のないラッキーからしてみると奇妙に思えるらしく、肌を重ねるたびに彼は飽きもせずその動作を繰り返す。
気に障るほど不快でもなかったから、スティンガーも拒むことなく、相手の体を抱き寄せた。
ところがラッキーの手は背骨を上下になぞるばかりで、どこか上の空のようにも見える。いつもなら、心の奥底からこの時間を楽しんでいるという態度を隠さないのだが。
「どうした」
「……なにが?」
きょとんとこちらを見返した彼は、しばらくスティンガーの瞳を見つめてから気がついたのか、困ったように眉を寄せた。
「あのさ、王さまって、なにすんのかな……」
それが彼自身のことだと理解するのに暫しかかった。
まさかそんなことを考えていたとは思わず、見つめ合っているのが難しくなって、相手の肩に頬を押しつける。
「あっ、笑うなよ」
真剣なんだから、と憤慨するのがまたおかしくて噴き出してしまう。抗議のつもりか、ラッキーはスティンガーの髪を両手でぐしゃぐしゃとかきまわした。
結局二人とも笑い出して、ベッドに倒れ込む。船室の狭い簡易ベッドだから、長身が並んで横たわることはできない。相手の体に腕を回したままだ。
「母星の統治はしなくてもいいことになったんだろう」
「うん、オレ難しいことわかんねえし。でもたまに顔出せって」
そんな言い方はされていないが、自由と解放の象徴として、彼という存在が人々に必要なのは事実だ。
ラッキーにはそのあたりがまだ完全には飲み込めていないのかもしれない。それも時が来れば、ショウかツルギが説明するだろう。
「いっそふんぞり返って、好きなだけ贅沢すればいい。なにがしたい?」
そう言ってやると、彼は目を丸くした。狭苦しい寝床の中でする会話としては、あまりにも侘しいけれど。
「えーと……毎日スパーダがメシ作ってくれる?」
「今と変わらないな」
口をとがらせて考えていたラッキーは、ぐいとスティンガーを抱き寄せた。
「じゃあ、スティンガーがどこにも行かない!」
「それは……」
無理だ、とは口に出せなかった。
リベリオンに従うのが自分の義務であり、それはラッキーの行く先と必ずしも一致しない。
「それは……贅沢だな」
抱きしめる腕に力が込められる。
縋るように脚を絡んできて、応えてスティンガーも彼の脚に尾を巻きつけた。
「どうした、相棒」
雄々しい声に呼ばれ、はっと我に返る。
前を歩いていたはずのチャンプがいつの間にか横にいた。
「いや……なんでもない」
船を離れて、少し感傷的になっているようだ。ここには自分と、相棒のアンドロイド、そして遂行すべき任務だけ。
「ただの白昼夢だ」
そう答えながらも、肌に残る指の感触を辿って、首の後ろに手をやっていた。
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「牡牛座」なんで、チャンプも呼んでみました。
リアルタイムで書いたラキステが総計27000字ほどありましてね…なのにぜんっぜん勘が戻らなくてびっくりしたw