【SS】魁利と透真

文字書きワードパレット

1.牡羊座
「花びら」「救い」「握る」
ルパパト/魁透

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床に散った色とりどりの花びらに埋もれている彼を見つけたとき、息が止まった。
まるで葬送だ、と感じてしまったから。
「魁利!」
透真と初美花がこの応接間を出たときには、むせ返るほどに芳しい花々を飾りつけていた多くの花瓶や鉢植えが、戦闘で全て壊されていた。
敵は倒したらしく姿が見えず、ただ魁利だけが部屋の真ん中に倒れていた。
あたりに飛び散った花や水で足がすべりそうになる。割れた花瓶の破片も危険だ。頭では認識しながらも、まっすぐ彼の元へ駆け寄らずにはいられなかった。
魁利はあっさり目を開け、顔を歪めもせず透真を見る。
「動けないのか」
「疲れたから寝てた」
口の端を上げてそんなことを言うわりには、起き上がる気配がない。花の香りに混じって血の臭いもする。
「そんな顔すんな……余計痛くなるっつの」
どんな顔だと問いただしたかったが、今は雑談をしている余裕はなかった。赤いジャケットの襟を左右に開き、体には大きな怪我をしていないことを確認する。
「だいじょぶ……腕、かすっただけだって」
手袋まで血の滲んだ手を握ると、ある程度の力で握り返してきた。全く動かないというわけではないらしい。思わず安堵の息をつく。
「初美花は?」
「コレクションを持って警察から逃げてる。俺たちも早く引き上げるぞ」
「おう……」
怪我をしていないほうの手を差し出してくるから、引っぱって起こしてやる。よろめきながらも立ち上がったところを見ると、確かに致命傷はなさそうだった。
裾を払いながら、魁利はぶつぶつと文句を言う。
「めっちゃ濡れたし、背中チクチクするし」
生地の厚いタキシードは、そうたやすく破れたりへたったりはしない。だが床には水が流れガラスが散乱しているのだから、変身を解除した状態で無傷とはいかないだろう。
「サボって寝てるからだ」
脇に落ちていたシルクハットを拾い上げて渡すと、彼はこともなげにそれをかぶりなおす。
「でも、なんかキレイだなって思ってさ」
倒れた目線で眺める、鮮やかな花びらの絨毯が。
ぽつりとそう呟く魁利の横顔に、血の気が引く思いがした。
花に埋もれて目を閉じている魁利の姿を、自分がどんな心持ちで見つけたと思っているのか。
「ま、サボってたのはホントだけど」
「……悠長なもんだ」
彼が一人で大物を片づけたのは承知の上で、そう言い返すのが精いっぱいだった。
脱出しようと窓へ向かう魁利の体が、ぐらりと揺れる。あわてて背後から抱きとめるが、彼はにやりと笑っただけだった。
「花の匂い、きっつくてさ」
どうやらまだ彼は、花の中で眠りにつく気はないらしい。
その強い意志だけが、今は救いだった。

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さすがに「牡羊座」は入らなかった…

ちゃんと告知してない気がしたんでここで言いますけど、9月の変身でルパパト本出ます!