【SS】バンバとマスターブラック2

バンマスとマスバン。つまりリバーシブル。
NGの方はスルーしていただければ。

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寝室に入ってきた彼と、目が合った。
交わす言葉はない。
二つあるベッドの片方に、弟以外がくつろいでいるのがまだ慣れないのだろうか。そう思っていると部屋の明かりが消え、本を読んでいた身としては思わず抗議の声を上げる。
「おい!」
自分のベッドに入るのだと思っていた弟子は、靴も脱がずにこちらのベッドにひざを乗せる。
なにか言ってやろうと思った刹那、唇をふさがれた。
それは一度では終わらず、彼は師の頭を抱えて何度も唇を押しつけてくる。
どうした、と尋ねようとしたが、ついばむような口づけはやまない。疑問はどうでもよくなって、体の重みをあずけてくるバンバを抱き返す。どこまで読んだかわからなくなった本は、枕元に投げ出された。
鼻がぶつかるのもかまわずに、むしろ押しつけるようにして、バンバは顔をすり寄せてくる。そのくせこちらから口づけを深くしようとしても応えない。焦れったくなって頭を押さえ込み、その仏頂面を引き寄せた。
眉間同士が当たり、逸らせない視線が焦点の合わないままにぶつかる。バンバは一瞬動きを止めたが、目を伏せると顔の角度を変えて口元に噛みついてきた。
誘い込んだ舌が濡れた音を立てて絡みつく。快楽など悪だとばかりに気を張っている青年に、そのやり方を教えたのは遠い遠い昔の話。すっかり馴れた様子で挑んでくるのがこちらとしては可笑しいが、気を抜くとねじ伏せられそうになる。少しばかり目を離していたあいだに、ずいぶんと経験を積んだらしい。
肩から胸へと無骨な手がすべり下りた。思いのほか器用な指が、シャツのボタンを外そうとするのを感じながら、こちらも相手のベルトに手をかける。
しかしその手は邪険に掴まれてシーツに押しつけられた。

暗がりに濡れた音が響く。
下肢を覆うものは全て剥ぎ取られ、露わになった脚の間には彼がうずくまっている。
「んぅ……」
欲望を咥え込んで舐めしゃぶるバンバの顔は見えない。だが想像はつく。ひどく真剣な表情で、ただ一心に相手を高めようとしている。勝手な男だ、と思う。自分は触らせもしないくせに。
「ぁ……」
長い指が後ろへ入り込み、同時に中からも性感を探り当てようとしていた。うんざりするほど丁寧にそこを解して、受け入れるのに無理がないようにと準備を怠らない。
だが、されているだけの側はおもしろくない。多少の苛立ちを込めて、相手の髪をかきまわす。
「なあ、自分のほうの準備はどうなんだ?」
応じてのそりと身を起こした男は、マスターのひざを抱え上げながら低い声で呻いた。
「心配しなくても、すぐにくれてやる」
その言葉どおり、硬くなったそれが押しつけられる。つい息を止めるほどに、いつのまにか質量を増していた欲望が。
「ぅあ……っ!」
熱い猛りに貫かれ、二人のあいだに汗が散った。
バンバはゆっくり腰を使いはじめ、こちらの快い部分を探ろうとする。もっと自分本位で責め立てられようとも受け止める覚悟はこちらにはあるのだが、まるで生娘でも気づかうように、彼は自分よりも体格のいい男を優しく抱く。
そんなところまで教えに忠実でなくともいいのに。
「……ぁ、あっ」
途切れ途切れに喘ぎをこぼしながら胸板をすり寄せてくる弟子がどこかいじらしくて、こんな時なのにこみ上げる笑いを噛み殺していた。
逞しくなった肩に背にと手をすべらせ、新しい傷跡が指先に引っかかるのを認め、うねる腰を抱き寄せる。
そのまま尻を撫で、ふと思いついてそのあいだに指を這わせた。
「おい……っ!」
抱かれているのは自分だが、相手の後ろを責めてはならないということにはならない。硬い尻の肉を掴み、入り口に指を押し当てる。
「弟子にだけがんばらせるような男だと思ったか?」
「バカか……ぁあっ……」
なにか反論しかけた彼は上ずった嬌声を洩らし、逃れようとしてか腰を前へと進める。結果として、自分も最奥を幾度も突き上げられることになったが。
自分の中にある彼自身が、限界を訴えているのがわかる。
「堪えなくてもいいんだぜ」
悔しげな目がちらりとこちらを見た。
「くぅうっ……!!」
強い締めつけと、後ろからの愛撫とで、バンバはマスターの中に全てを吐き出した。さすがに声は必死に噛み殺したものの、激しい絶頂の余韻に肩で息をしている。
「一人でお先に、なんてつれないじゃないか」
胸の上にもたれている彼の顔を覗き込むと、予想に違わない殺気に満ちた視線が返ってきた。
「……どうしてほしい」
「ここ、もっと太いやつ欲しがってるみたいだなあ?」
彼の感情を逆なでする軽い口調とともに、指をぐいと奥へねじ込んでやる。
「っ!」
「ほら、自分で動かなきゃ欲しいもんは得られないぞ」
「……欲しがってるのは、そっちだろ」
そう言いながらも、彼の体はすでに次の快楽を求めている。あきらめたように目を伏せたかと思うと、律儀に腰を浮かせ、上を向いている肉棒に自らの後ろをあてがう。
「いい子だ」
「うるさ……ぁっ」
切れ切れの悪態をつきながらも、彼は自重でそれを中へ受け入れていった。
「きっつ……」
肩から落ちた白いシャツが袖も抜かれず腕に絡みついて、汗ばんだ肌を申し訳程度に覆っている。苦しげにあごを上げ、反らした胸を大きく上下させながら、バンバはこちらを見下ろした。
闇に慣れた目は、はっきりと互いを捉えていた。
「!」
背筋にぞくりと寒気にも似た衝撃が走る。
縋るような、責めるような。全てが終わった今も、弟子は時折その表情を見せるのだ。
一度精にまみれた欲望は早くも再び首をもたげていて、見た目はどうあれこの弟子がまだずっと若いことを思い知らされる。一抹の悔しさもあって、硬い腿を掴んで押さえつけてやった。
「く……」
根元まで猛った男根を飲み込んだまま身動きがとれなくなったバンバは、むきになって腰を揺らそうとする。だがそう易々と思いどおりにはさせない。
ぎちぎちと締めつける刺激をなんとかやり過ごし、一息ついてから意地悪い表情を作ってみせる。
「今夜はいったい、どうしたっていうんだ? その気がないときは俺がいくら誘っても無視するくせに」
「……っ」
逃げることもごまかすこともできず、彼はふいとそっぽを向いた。答えたくはないが、意地を張ってもこの状態からは開放されないと悟ったのだろう。
眉根を寄せて、しまいにはぎゅっと目をつぶり、重い口を開く。
「……あんたが、ここにいるのが……ただ、うれしくて」
それだけだ、と滲んだ目の端を染めて呟き、彼は体を折り曲げてこちらの胸に頭を押しつけた。角度が変わって二人とも刺激に呻く。
「……………」
悔しいけれど、茶化してやる余裕もまぜっ返す言葉も見つからない。
なぜ生を受けたのか、なぜこの使命を負ったのかと自問自答する日々を生き抜き、互いにそれぞれの試練を乗り越えて、戦いのない世界に取り残されて。彼の弟のように光を指して進んでいけるほど若くもなくて。
そんな二人でも、相手がここにいる、それだけのことが無性に幸せで、そしてその実感を肉体に刻み込みたくなる。
この先の永遠に近い将来に対しても、絶望や不安はない。それは少し前の二人なら考えようもない現在だった。
片腕で丸くなった背中を抱え、位置を入れ替えた。
「ぅわ……っ」
ベッドが大きく軋んで、シーツに押しつけられたバンバがあわてた様子でしがみついてくる。
真上から覆いかぶさるように覗き込むと、濡れた目が睨みつけた。いつの間に、これほど素直になったのか。
「やめろよ、歳とって涙腺が弱くなってるんだ」
彼は一瞬虚をつかれた顔をして、しかしすぐに目を細め挑発的に口元を歪める。
「泣けばいいさ、いくらでも」
「こいつ……」
眉間を軽く小突いて、愛おしい男を腕の中に抱き込んだ。

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「兄さん、マスター、ただいまー! あれ、なんか変なにおいする?」
「するか? バンバ」
「いや…」
「うーん、なんていうの? こう、オスっぽい感じの」
「それは加齢臭だな! 元凶には出てってもらおう!」
「俺だけのせいか!?」
トワくんはミントの香りとかするからきっと。

バンバ兄さんは十分でかいのにマスターはそれよりでかいんだもんな、腕も長いよなって思って。
ニッチ攻めすぎてる自覚はあるので、感想などいただけたらうれしいです。