【SS】由利と等々力「不如帰」
最初の1行書いたときにはこんな重くするつもりはなかったんですが……冒頭と締めのフレーズがちょっと安直すぎて、リズムも悪くてあんまり気に入ってない。
なんだ、小説でもまだまだ伸びしろあるな自分(ポジティブ)
不如帰
俺にはおまえが声を枯らして叫んでいるように見えるんだ。
愛してくれって。
ぽつりと呟いた相手を思わず見やれば、寝入ったと思っていた等々力は天井を見上げていた。
外したカフスを置き、ベッドの端に腰を下ろす。
飲みすぎたと笑いながら由利のベッドに倒れ込んだ等々力は、首元からよれたネクタイをむしり取ってこちらに放り投げてきたかと思うと、すぐおとなしくなった。たしかに飲みすぎだ、とため息をついてベストを脱いだところだ。
そんな流れで会話などあるとは思っていなくて、なにを言い出したのかと眠たげな横顔を見つめる。黙っていれば等々力は一人で勝手に話をつづけるから。
「喉から血が出てもおかまいなしに、力の限り叫ぶのに……だれも応えてくれないのが、傍から見ていて歯がゆくてなあ」
「……夢でも見てるのか」
実際、舌足らずな口調でもそもそと口を動かしているさまは寝言にしか思えず、まともに返事をするのもばかばかしい。
だが等々力はこちらを向いてへらっと笑った。
「そうかもな」
「……………」
彼の頭がはたらいているかどうかくらいはさほど観察せずともわかる。今の等々力は仕事中と同じくらいに「醒めて」いた。寝言でなければ、彼が普段は腹の底に沈めている由利の印象ということだ。
ベッドに腰かけたまま腕をついて、相手の顔を真上から覗き込む。
「その夢想につき合うのなら、おまえには俺の叫びが聞こえているということになるな」
彼は目を細めて笑い、それからこちらの視線を遮るように目を閉じた。
「だからって『俺』じゃないことくらい、わかるさ」
なぜ、そう思う。
たったそれだけの言葉が出てこない。
問うても無意味だと自覚しているからだ。その答えは等々力ではなく由利の中にしかない。
「虚空に向かって叫んでも、返事はない」
ほつれた髪が散らばる横に投げ出された手の上に、自分の手を重ねると、等々力が驚いたように目を見開く。
「……だとすれば」
邪魔な眼鏡を鼻の上から取り上げて、顔を寄せた。苦笑が返ってくるのはわかりきっていた。
「俺で我慢してくれるって? ありがたいこった」
やはり悪酔いをしているようだ。それも、二人そろって。
「明日、声を枯らしているのはどちらだろうな」
今ひとつ力が入りきらない手首を掴み、シーツに押しつけた。
俺にも聞こえていることを、おまえは気づいているのか。
愛していると。