【SS】コウとカナロ「闇の雫」
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7.百合
「まどろみ」「雫」「清楚」
リュウソウジャー/カナコウ
最近暑いので涼しめのネタを…公式で浴衣回がなかったのが未だに悔やまれます。
*
かすかな水音に、意識が呼び覚まされる。
「あれ……」
まどろみの中にいたコウは、軽く頭を振った。
ついさっきまで、仲間たちといっしょにいたはずなのに……。
初めての夏祭りに全員がはしゃいでいた。ういが揃えてくれた浴衣は、普段の服とは全くちがう軽やかな着心地で。夜店を覗き込んでは珍しさに歓声を上げていた。笑い合って……こっそり手をつないで。
「メルト……アスナ!」
こだますら聞こえない静寂と暗闇のどこかで、また水が落ちる音。
耳を澄ませて、その方角に見当をつける。
足を踏み出すと、水が跳ねた。膝下ほどの水をかきわけて進もうとするが、いつもと勝手のちがう裾が邪魔をする。
不意に、白っぽい影が目の前に現れた。なにかが水に浮いている。
「カナロ!?」
人ごみの中で手を握っていた相手が、水面を漂っていた。
「ねえカナロ、しっかりして!」
駆け寄り抱きかかえた体は、不思議と濡れていない。怪訝に思う間もなく、彼が静かに瞼を持ち上げた。
「だいじょうぶ!? いったい何が……」
カナロの手がついと持ち上げられる。触れたその手の冷たさにはっとしたときには、首を抱き寄せられていた。重ねられた唇も温度が感じられず、コウは不安に衝き動かされて彼をかき抱く。
「どうしたの……」
瞳を覗き込めば、艶然と微笑む。思わず喉を鳴らしたコウの欲を見抜いたかのように、冷たい手は空いた襟元へとすべり込んできた。
「!」
浴衣はたやすく肩から落ちて、肌が露わになる。思わず身を引いたコウを、カナロは水の中へと引き倒した。
「……っ!?」
彼とちがって、水中では息ができない。必死に手を伸ばして相手に縋りつこうとした。
だが腕は空を切り、見開いた目にはなにも映らなかった。
「コウ!」
耳慣れた声に呼ばれたかと思うと、急に騒がしい景色と音が入ってきた。
ここは祭りの夜店通り。目の前に立っているのは……。
「……カナロ?」
「どうしたんだ、ぼんやりして」
彼は心配と怪訝の入り交じった表情で、手にした団扇の風を送ってきた。清楚で凛とした浴衣姿は、あの妖しげな色気を纏ってはいない。
「カナロ、だいじょうぶ?」
「こっちの台詞だ。調子が悪いなら先に帰ろうか……」
気遣うように顔へ当てられた手は、まちがいなく温かくて、不覚にも涙が出そうになった。
「……ううん」
夢か、幻か。敵の罠か。警戒心だけは研ぎ澄ませながら、むりやり頬を持ち上げて彼の腕にしがみつく。
「なんでもない。行こう、みんなとはぐれちゃった」
だいじょうぶ、こちらが現実だから。
喧騒の向こうに聞こえた水音も、きっと気のせいだ。
木陰の闇に咲く白い花弁から、清らかな雫がこぼれ落ちた。
*