コニー/デミア
GSG-9 対テロ特殊部隊:コンスタンティン・フォン・ブレンドープ/デミア・アズラン
la Campanella
シャワーの音を聞きながら、コニーはビールの栓を開ける。
これが女性なら待っている時間も楽しいが、よりによって相手がデミアでは、なにをして待っていても間抜けに思えた。
居酒屋で騒ぎすぎて半分ケンカになり、二人とも盛大にビールをかぶったのが、だいたい一時間前。デミアはいつものルーズなTシャツに。コニーは糊のきいたピンストライプのシャツに。べたついて不快だ、帰ると言ったら、じゃあ俺にも風呂を貸せとやってきた。さっきまでくだらないことで言い争っていたのに、気安い関係だ。
家主の権限で先にシャワーを浴びたまではよかったが、この待ち時間はどうにも居心地が悪い。ジーンズだけを引っかけた姿でビールをあおりながら、かの男と飲みなおすか、それとも追い出すかを思案した。
「おいコニー、謎が解けたぞ!」
ばんっと乱暴にドアを開ける音と同時に、うれしそうな声が響いた。
ソファに寝そべってうたた寝していたコニーは、まぶたを押し上げて頭を振る。
「なんだ、急に」
デミアは腰にタオルを巻くのもそこそこに裸足で駆け寄ってきた。
「石鹸だ、石鹸!」
「あ?」
きちんと身体を拭いてこい、と言おうとしたコニーも、脈絡のない言葉に口を開いたまま首をかしげる。
なんの予告もなくソファにどすんと下ろされる尻から、危ういところで長い脚をよけたコニーに、デミアは勝ち誇ったような笑みを向けた。
「最近のおまえの匂いだよ。香水にしちゃ薄いと思ってたが、石鹸だったんだな!」
石鹸……少し考えて、それが有名な香水メーカーのソープだと思い当たる。職業柄、香りを残すトワレのたぐいはつけられなかったが、バスタイムくらいはリラックスできる香りに包まれてもいい。そう考えてのささやかな楽しみだった。だがそれも最近の話だ。気づいている人間がいるとは思わなかった。
デミアはコニーの裸の首筋に鼻を寄せ、やっぱりそうだと呟く。
「だからなんなんだ」
息がかかるくすぐったさに首をすくめながら問いかけると、アーモンドアイが上目遣いに睨みつけてきた。
「この前デートした、ボーイッシュなブルネットがつけてた香水と同じなんだよ。おまえと同じ匂いだと思ったら一気に萎えたんだよな。ホントは女物なのか?」
言いがかり以外のなにものでもない。そんなことで鼻を近づけられても迷惑だ。
「……男物が好きな女の子だっているだろ」
ため息をつきながら、コニーはすぐそばにあるデミアの首を引き寄せる。
「おい……っ」
たしかに、相手の身体からふわりと香るのは、近ごろの自分によく馴染んだフレグランスだった。
「今のおまえも同じ香りだぞ?」
「……っ」
囁くコニーに、返事に詰まって口を曲げたデミアは、やけくそのように大きな鼻をぐりぐりと首にこすりつけてくる。息をかけられるよりもダイレクトにくすぐったくて、コニーは身をよじらせて笑った。その反応をおもしろがったのだろう、デミアはコニーの腕を押さえつけて本格的に乗りかかってきた。
「帰ったらもう一回風呂に入る!」
「二度手間だな……」
言い終わらないうちに、コニーはまた笑い出す。脇腹をくすぐられて言葉が継げない。させるかとデミアの手に指を絡め、裸の肩に唇を押しつけた。楽しそうな抗議の声が上がり、二人は笑いながら相手を押さえ込もうと躍起になる。
「は、ぅ……っ」
太い腕できつく抱きしめられ、コニーの息が止まりかけた。せっかく汗もビールも流したのに、また身体が火照ってきている。せっかく居心地のいい我が城に招いてやったのに、この男ときたら……なんだか無性に苛立ってきて、たまたま口のすぐ近くにあった耳に噛みついた。
「くっ、このヤロ……ぁっ」
上ずる呻きに気をよくして、そのまま耳朶に舌を這わせ甘く噛んでやる。デミアは呻きながら、反撃とばかりに首筋に吸いついてきた。
「おまえ……っ」
あきらかに痕がついたとわかる鈍痛に、コニーの中のなにかが切れる。
それからは、完全に格闘だった。笑うのも忘れて二人は長い手足を絡め、肌をぶつけ合った。
「ぅん……っ」
デミアのバスタオルが床に落ちる。
そこで初めて目が合い、二人同時に動きを止めた。お互い険しい表情で相手を睨みつける。あまりに必死だったから、すぐに笑顔を作ることができない。
「……………」
見下ろすまでもなく、ジーンズ越しにぶつかる熱は硬く勃ち上がりかけていた。
「くそ、なんでこんな……」
忌々しげに呟くデミアの身体が離れようとする。二人の胸のあいだにふっと差し込んだ空気が冷たくて、コニーはその肩を抱き寄せていた。
「おまえのせいだ。責任とれ」
二人の荒い息が狭くもない部屋に響いている。後戻りはできないと悟ったデミアが、コニーの靴の上に落ちたバスタオルを見やった。
「ここじゃ……床に落ちるぞ」
そのソファは決して狭くはなかったが、男二人が取っ組み合いをするにはさすがに小さすぎる。
「ベッドに行けばいい」
いつもの調子でさらりと呟いてみせると、コニー自身も少し落ちついてきた。
デミアも開きなおったのか、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「運んでってやろうか、お嬢さん?」
見とれるほどにたくましい裸体は、細身の男一人を抱き上げて隣の寝室へ運ぶくらいなんともないだろう。だが部屋の主である「お嬢さん」は微笑みも赤面もせず、ジーンズの膝で広い背中を蹴っただけだった。
「ふざけるな、コンドームの場所も知らないでエスコートする気か」
「じゃあ早く出せよ」
不遜な相手の腰をもう一度蹴って、コニーはソファから立ち上がった。
湯当たりでもしたように身体がぐらついたが、なに食わぬ顔で丸裸の友人を寝室に追い立てる。同じ量のビールと軽いスキンシップで眩暈を起こすなど、この男の前ではあってはならないのだ。
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