蒼太/鳥羽

2006_ボウケンジャー,[!],[R18]

轟轟戦隊ボウケンジャー:最上蒼太/鳥羽祐二

※拘束とか女装とかいろいろ注意


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甘い特等席


 いつもいっしょ、ってわけじゃない。
 二人必要なら二人で、一人でよければ単独で。
 仕事仲間と割りきるにはちょっとべったりな気もするが、そこはそれ。先輩後輩のよしみってやつだ。
 二人まとめて始末されるのがいちばん困るから、いっしょに暮らすこともない。そもそもお互いに決まった住処なんてないし、当然といえば当然か。
 今回も仕事が終わって、拠点にしていたホテルを引き上げて。
 同じ国内にいたら陣中見舞いに行ってやろうかと、連絡を入れる。
 運よく飛行機一本で行ける場所にいて、来週までならいつでもどうぞ、という言葉に甘え、そのままマンションに押しかけた。
「おう、あいかわらずきったない部屋だなあ」
「久しぶりに会って第一声がそれですか」
 髪はぼさぼさ、シャツはよれよれ。目の下にはクマさん。笑顔もどこか虚ろだ。まあ、精神的には見かけほどじゃない。たぶんいちばん楽しんでいる時期だろう。
 インスタント食品の空き箱とビタミン剤の瓶が積まれているテーブルを見下ろしながら、ジャケットを脱ぐ。
「来週まで?」
「山は越えましたけどね。事後処理とかいろいろ。金曜には成果が新聞に出てます」
「そりゃご苦労さん」
 たぶんベッド代わりのソファから、服だの毛布だのを払い落として腰を下ろした。
 柔らかいソファに寄りかかって天井を見上げれば、大きなファンが回っている。連想したのは、なぜか南アジアのリゾート。
 ずれた伊達眼鏡をなおし、キッチンに向かう彼を見やった。
「さーて……おれは休暇取って南の島にでも行くかあ」
「ちょっと待っててくれれば、いっしょに行きますよ」
「無関係のスパイ二人が同時に国外脱出ってのはヤバいだろ」
「ははは、たしかに」
 コーヒーの香りがする。おれの到着に合わせて用意していたらしい。こんな生活をしていても他人に対する気遣いだけは忘れないのが、染みついた詐欺師根性というか……まあ、数少ない長所だということにする。
「はい、コーヒー。と、お砂糖」
「サンキュ」
 真っ黒なコーヒーの入ったマグカップと、角砂糖ぎっしりのガラス容器を渡された。
 普通、台所に角砂糖なんて常備していない。とくにこういう自堕落な生活をしている男の部屋には。必要なモノは大概欠けているくせに、角砂糖だけはいつもあるのだ。来るかどうかもわからない、甘党の相棒のために。
「あと十八分待っててください、一段落させますから」
 そう言って、三台のパソコンといくつかの機器が並ぶデスクに向かう。
 今回はどんな仕事なのか……。もちろん、仕事の内容や依頼者を聞いたりはしない。ルール違反だし、興味もない。
 コーヒーに角砂糖を放り込み、溶け残りをかじりながら、その真剣な横顔を眺めた。
 こうして見ていると、ただの無邪気なパソコンオタクだ。
 しかしその実体は、男も女も口八丁手八丁でたらし込む詐欺師、コンピューターでさえも骨抜きにする悪名高いクラッカー。かわいい顔して、やることは相当えげつない。人のことは言えた義理じゃないが、一般的にいえば最低な人間だろう。
「おーわった!」
 うとうとしかけたころ、元気な声が聞こえた。時計を見ると、ジャスト十八分。
約束を守った彼はくるっと椅子ごとこっちに向きなおり、首をかしげてにっこり笑う。
「鳥羽さん、どれくらい寝てません?」
「……二十四時間くらいかな」
「ぼくは三十二時間です」
「あー、若いねえ」
 コーヒーはぬるくなっていて飲めなかったから、代わりに角砂糖を口に放り込んだ。
 彼のほうは、睡眠不足でハイになってるんだろう、靴音も軽やかにソファまでやってきて、それから当然のように腰かける。……おれのひざの上に。
「おつかれさまです」
 眼鏡を外されたかと思うと、ちゅ、と軽く唇が触れる。
「おつかれ」
 同じくらいの軽さで返した。彼は「甘い」と笑って、またついばむだけのキスを仕掛けてくる。そんなやりとりをくり返しているうちに、腕が絡んできて、自然と舌も絡む。眼鏡はソファの背の後ろに落とされたようだ。
「ふ……鳥羽さ……」
 きれいな顔をとろけさせて、低めの声を上ずらせて、細い身体でしがみついてきて……これに何人だまされたのか。そう育てたのはこの自分だが。
「蒼……」
 いい気分になりかけたところで、はっと気づく。この重みは……。
「……………」
 やられた。
 身体から力が抜けて、全体重がおれにのしかかってきている。
 かわいい相棒は、おれの首にすがりついたままで熟睡していた。
 こうなると、もう唇を押しつけようが耳に噛みつこうが起きない。スパイとして致命的な行為だと何度か言ってあるのに、おれ相手だとすぐにこうだ。
「この未熟者め……」
 睡眠不足はこっちも同じだが、先に落ちた者勝ち。残されたほうは目を開けて、二人ぶんの気を配らなきゃならない。
 子どものようにしがみついてくる身体を優しく引き剥がして、ソファに寝かせる。ついでに、床に落ちている毛布を拾って掛けてやった。やっぱり起きる気配はない。
 ソファの後ろから眼鏡を拾い上げてかけなおし、もう一度その寝顔を覗きこむ。
 いつも笑顔でいるせいか気づきにくいが、彼は真顔になると必ず眉根が寄る。寝ているときでも、眉間の皺は消えない。そういう顔なんだろう。
「なーに苦悩してんだよ」
 おかしくなって、その眉間をつついた。
 この屈託ない青年に悩みがあるなど、想像もつかなかったから。
 少なくとも、そのときは。

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