七海/伊地知
花冷え
『そんなナリをして、つまらない男』
幾度か似たようなことを言われ、自分に求められる人物像を知った。
粗暴、強壮、絶倫、嗜虐。
どう振る舞えば相手を満たせるのかも理解はしたが、無理をしてまで他人の欲望に従っても、さほど意味があるとは思えない。誤って伝わる印象を毎度訂正するのも面倒で、いつからか「つまらない男」を通すことにしている。
伊地知は、並大抵の痛みには声を上げない。苦痛の呻きを全て飲み込んで、ひたすらに耐える。それなりに修羅場をくぐってきた挙げ句の適応だろう。
「ぁ、七海さ…っ」
突き出た肩甲骨を見下ろしながら、七海はゆっくり腰を揺らした。深く突いてはいけない。彼が苦しくないように。七海を丸ごと咥え込むのは無理でも、浅い場所にある弱点を突かれると途端に嬌声がこぼれ出すのだった。
「ひっ、ダメです…もっと……」
口から洩れる矛盾にも気づかず、枕にしがみついて身をよじっている。本人がどう思っているかはさておき、この体勢が最も理性の箍が外れやすいらしい。顔が見えなくなって羞恥が薄れるのか。
「ぁん、んっ……」
赤くなっている首筋に口づけを落とした。来た時は冷え切っていた肌が、あたためておいた部屋のおかげかこの行為のせいか、今は熱く湿っている。細い肩まで舌を這わせると、伊地知の中が強く締めつけてきた。七海のほうも余裕ぶってはいられない。
「く、ぅう……!」
七海が達したその衝撃で、伊地知が喘ぎながら背中を反らせる。そして、最後の悲鳴を枕に吸わせた。
「大丈夫ですか」
「……大丈夫では、ないです……」
掠れた声でなんとか答える彼の、体はまだ震えている。まだ絶頂の余韻から戻れていない。
七海はすぐには動けない彼の分まで後始末をして、ベッド脇に飲みかけのまま置いていたペットボトルを渡した。
彼は俯せで息を整えようとしていたが、毛布を引き寄せながら起き上がる。
「どうして、そんなに優しく……」
独り言のように呟きかけ、ぬるくなった水を喉へ流し込んだ。
「不満ですか」
彼も七海に嗜虐を求めるのなら、相性の不一致という他ないが。伊地知は俯いて片手で顔を覆い、か細い声で呻く。
「酷くしてくれれば、我慢できるのに」
負け惜しみに過ぎないといえばそうだが、さすがに七海を買いかぶりすぎだ。暴力しか持たない自分が、他人を愛するのに暴走することなどできるはずがない。
丸くなった肩にシャツを掛け、耳元に囁く。
「こんなナリをして、つまらない男でしょう」
「はい……?」
情けなく眉尻を下げる彼の顔が面白くて、つい抱きしめていた。
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