トニー/ジャーヴィス
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執事の本分
シャツをまくり上げた手が、胸の突起をとらえる。
痛みにも似た感覚が広がっていき、触れられていないほうまで硬く立ち上がる。
トニーは熱い吐息を洩らしながら「もっと」とねだった。
従順な執事は主人の耳元に口を寄せ、低い声で囁く。
「トニーさま、お知らせが」
ジャーヴィスの長い指がトニー自身に絡みついて、焦れったいほど優しく愛撫をつづけていた。だからその声も睦言にしか聞こえない。
「……なんだ」
「ヴァージニア・ポッツが解錠を求めています」
あまりに色気のない内容だったが、現実に引き戻されるには彼の愛撫は完璧すぎた。
「そんな……まだ時間が……んっ」
「はい、30分早い到着です。いつもどおりに」
「待たせておけ……」
「しかし、彼女は私に対して腹を立てています。入れないのならせめて社長を出せと……でなければ、事件性があると判断してローズ中佐を呼ぶと言っています」
「……バカを言うな」
いくらすべてを任せてある秘書とはいえ、女を抱いているときならまだしも、男に抱かれているときの声を聞かせたくはない。ましてや、この屋敷の全ての部屋に立ち入る権限を持っている彼女を、今すぐ迎え入れるなどできるはずもない。
「まだ寝てるとでも言え……」
「はい、ですが……」
言いかけたジャーヴィスの動きが止まった。人間ではない彼は、静止するとほんとうに微動だにしなくなる。
「……ジャーヴィス?」
「申しわけありませんトニーさま、少しのあいだ失礼します」
「え……!?」
問い返す間さえない。
今の今までたしかにそこに実体として存在していた執事は、モニターの電源を落とすようにふっと消えてしまった。一人になったトニーはバランスを崩して倒れかけ、なんとか作業台につかまって踏みとどまる。
「ジャーヴィス!!」
怒りを込めて彼の名を呼ぶが、音声のみが秘書とのやりとりを逐一報告してくるだけだった。ポッツの相手という厄介なタスクを高速でおこなうために、負荷がかかりすぎるホログラムを終了させたのだろう。
「ぼくよりポッツをとるなんて……だれの執事だおまえは!」
トニーはずり落ちかけていたジーンズを押さえながら床に座り込む。それからあきらめの混じった息を吐き出して、自らの「後始末」に取りかかった。
本来なら、これで終わりではない。ジャーヴィスはもっと強い刺激を与えてくれるはずだった。トニーがジャーヴィスにしか許したことのない行為を。それを思うだけで、煽られた身体はさらに熱くなる。
だが今日はむりだろう。ジャーヴィスとポッツ、トニー・スタークを支える最も有能な二人を仲裁できるのは、トニー・スタークしかいない。この事態が全て自分のせいであることを棚上げにして、トニーはもう一度ため息をつく。
「ジャーヴィス……」
彼の名を呟いたとき、背後から機械音が聞こえた。
ふり返ると、不器用なアームロボットがオイルで汚れたタオルを差し出している。
「……おまえじゃない!」
トニーは腹立ちまぎれにアームを怒鳴りつけ、彼からタオルを奪い取った。
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