士/ユウスケ
交渉術
「ちょっとくすぐったいぞ……」
「え……」
士の囁きにユウスケが反応する前に、シャツをまくり上げる。
小柄な外見から、さぞかし華奢にちがいないという予想を裏切り、その体つきは引き締まっていて士よりもたくましく見えた。士はわずかな嫉妬を覚えながら、弾力のある筋肉に口づける。
「待っ、待てって、そんないきなり……」
頭上で騒ぎ立てる声を無視して、さっさとジーンズの前を開けユウスケ自身を握り込む。じたばたと落ちつかない足をひざとひじで押し広げてやっても、まだ士の服を引っぱってくるあたり往生際が悪い。
「わぁっ、マジで!? マジ!?」
「大マジだ」
腰のあたりに唇を押し当てながらちらりと見上げると、真っ赤になっているユウスケと目が合った。わざと口角を上げてみせ、それから手の中でかたちを成そうとしている中心に音を立てて口づける。
「…………!!」
ユウスケは日本語にもグロンギ語にも聞こえない意味不明な奇声を上げ、天井を仰いだ。降参ということだろうか。
舌でかたちをなぞり、指で硬さを確かめ、士はユウスケを口の中で愛撫する。
「っ……くぅう、ぅん……」
最初こそ、ひざで士の脇腹を蹴って抗議していたものの、思うように力が入らないことにあきらめたのか、背中を丸めて士の肩に爪を立ててくるようになった。服越しだから痛くはないが、頭の真上から喘ぎ声が降ってくるのは気が散って仕方がない。士はこのままつづけるべきか、ジーンズがきつくなってきた自分のほうをどうにかするべきか、本気で迷いはじめていた。
「ちょっ、ぁん……つか、つかさ、出る出る……っ」
士の背中を叩いて必死に訴えていたユウスケだったが、士が口を離してすっと頭を上げると愕然とした顔になる。
「……え、やめるの!?」
「飲めっていうのか?」
士は手の甲でぐいと唇を拭いながら、涙目になっているユウスケの顔を覗き込む。
「言わないけど……わーっ、顔近づけんな汚い!!」
露骨に顔を押しやられ、士はむっとしてその唇を尖らせた。
「汚いとは心外だな。せっかく気持ちよくしてやってるのに」
言いながら、ユウスケ自身に絡んだままの指に力を込める。ユウスケはまた呻いて、士に縋りついてきた。
「ごめ……頼むから、なんとかして……」
「その前に、俺のが放置プレイだ」
士の腰に目を落としかけたユウスケは、はっと顔を引きつらせた。
「……あ! まさかオレにも同じことしろとか言わないよな!? やらないぞ、おまえの……ソレをアレするとか、ゼッッタイしないからな!!」
「それもいいな」
だが、今はお互い楽しめるレベルまでいけないだろう。なにしろ二人とも、これが初めてだ。とりあえずやってみればそれなりにできる士とちがって、ユウスケが士を満足させられるとは思えない。
「次までに練習しておけ」
「次っていつだよ……ってできるか!」
ギリギリの状態でもツッコミを忘れないユウスケに感心しつつ、士はさっきから苦しかったジーンズの前を開ける。ユウスケがそれを見て動きを止めた。
「おまえも……勃つんだな」
「……人をなんだと思ってるんだ」
健康な男子としては侮辱されたに等しい。だがそこまで考えてはいないだろうなとため息をついて、士はユウスケの腰を抱き寄せた。二人の熱がぶつかって重なり合い、二人同時に熱い息を洩らす。
「士……っ、オレもう限界……」
「バカ、俺がまだだって言っ……!」
士が言い終わらないうちに、二人の腹のあいだでユウスケの熱が弾ける。気持ちよさそうに呻いたユウスケは、困り顔で笑うと、士の肩にひたいを押しつけてきた。
「おまえ……覚悟はできてるんだろうな」
冷淡な士の囁きに身を震わせたユウスケだったが、やがて意を決したのか、ぐっと顔を上げる。
「覚悟なら、最初からできてるよ」
「!」
さんざん騒ぎはしたけれど。士の求めに応じたときから、ユウスケの心は決まっていたのだ。あとは、士しだいだった。
士はユウスケの腰を抱きなおし、毅然と結ばれた唇に口づける。今度はユウスケも、近寄るなと士を押しのけたりはしなかった。
使用済みのゴムを屑籠に放り込み、その足で、反対側の壁にくっついている自分のベッドにもどる。ほんとうはユウスケのベッドから出たくはなかったが、それを口にできるほどの度胸はさすがにない。
人がいなかったベッドは、シーツも毛布も冷たい。思わず身を震わせながら、士は冷たいベッドにもぐり込んだ。
「なあ、士」
「ん?」
向こうのベッドからユウスケが遠慮がちに声をかけてくる。
「なんで……やり方知ってたんだ?」
「ええと……口でやるほう? 尻でやるほう?」
「っ、両方!」
一般的な知識として知ってるもんじゃないのか、と言いかけて、ふと考えなおした。なぜか知らないが士だけができることなどたくさんある。むしろ、今の士にはそれしかない。
「さあ。グロンギ語がしゃべれるようなもんだろ」
「なんだよそれ……べつに必要ないじゃないかよ……」
ユウスケはぶつぶつとそう言うが、士は自分の適当な答えが合っているような気がしていた。士の中に蓄えられているのは、その世界の相手と「交渉」するための技術だ。この知識もあるいは、他のだれかに対して行使するべきものなのかもしれない。だが、今の士に心当たりはない。
少し経って、またユウスケが話しかけてきた。
「……なあ、士ぁ」
「なんだ?」
ユウスケはわずかに言いよどみ、それでも意を決したような声が返ってくる。
「そっち、行っていい?」
士は思わずユウスケのベッドを見やった。
「……まだ足りないのか」
「ちがっ、ちがうって! なんか汗くさくて眠れないだけだって!」
たしかに……二人の戦士が格闘した直後だ、もっともな理由だった。だがそれが真実でもただの口実でも、士にはどうでもよかった。
ごろんと転がってユウスケに背を向ける。
「好きにしろ」
「はいはい、好きにします」
うれしそうな声で元気に起き上がったユウスケが、いそいそと士のベッドにもぐり込んでくる。準備のいいことに、枕まで持参してきたようだ。
「じゃ、おやすみ」
「……ああ」
背中にぬくもりを感じながら、士は微笑んで目を閉じた。
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