士/ショウイチ

2009_仮面ライダーディケイド,[R18]

仮面ライダーディケイド:門矢士/芦河ショウイチ


夢の交点 #1

名を呼ばれて、士はゆっくり目を開けた。
眠っていた士を覗き込んでいるのは、一人の青年。亜麻色の髪も白い肌もどこか透けるような色で、長身のわりに幼さを残した顔立ちも愛らしい。確証はないが、この旅をはじめる前に一度出会ったような気がする。
士はことさら大儀そうに起き上がり、青年に向きなおった。
「ここは、次の世界か?」
彼は微笑んで首を振る。その後ろに広がる空間は、奥行きがあるのかないのか見当もつかない。
「いえ……これは、夢です」
「夢……」
「ぼくもあなたも含めた、すべてのライダーの夢が混ざり合う空間です。あなたが知っている人も、まだ知らない人も……ここでだけ、時を共有し、またそれぞれの世界へもどっていくんです」
青年の言うことはよくわからなかったが、どう聞き返せばいいのかを考えるのも億劫で、茫漠とした空間を見わたす。
「夢か……」
視界のあちこちにさまざまな色の影がちらついている。遠近感はなく、人なのか倒すべき敵なのかもわからない。
その中のひとつに目を止めると、カメラのピンぼけを合わせるように、影がはっきりとしたかたちをとりはじめた。どうやら人間でまちがいないようだ。
「おい、あれはだれだ」
言いながら振り返ったが、そこにはもう青年はいなかった。なるほど、いかにも夢らしい。
士はため息をつき、足元もおぼつかない夢の中へ踏み出した。

ひざを抱えてぼんやりと中空を眺めている男を、士は正面に立って見下ろす。
身体に合っていない服はあちこち汚れていて、伸びた髪もひげも無精としか思えない。それほど年とっているようには見えないが、あまり若くもないだろう。つまり、わからないということだ。
「ずいぶん汚いライダーだな」
ぼさぼさの前髪のあいだから見上げる目が、大きく見開かれた。
「……人間か?」
「たぶんな」
即答したのは、考えるのが面倒だったから。今までその仮定をしたことはなかったが、自分が人間でない可能性もなくはない。だが考えてもわからないことを悩むのは、士の性分ではなかった。
「人間……」
男は震える手をこちらへ伸ばしてきたが、途中でその動きを止めた。まるで触れることで士を壊してしまうとでも思っているかのように。
「なんだ、はっきりしないやつだな」
士はしゃがみ込んで、男の手を取る。手は冷えていたが、たしかに人肌だった。
「……!」
ただ手をつかむだけのつもりが、相手の表情が予想以上に変わったことで好奇心が生まれる。傷だらけでざらついた手を、士は両手で包み込んだ。彼の顔に驚きと安堵が広がるのを観察しながら。
「あ……」
突然、黒目がちの大きな瞳から涙があふれ出した。
「おっ、おい!?」
さすがの士も、これには驚いて腰を浮かしかける。手を握っただけで泣かれるなど初めてだった。しかも相手は年上の男だ。
「どうした?」
「なんでも、ない……」
なんでもないとは思えないかすれ声で彼は呟き、士の手を振り払う。それからこちらに背を向けると、またひざを抱え込んでしまった。
「なあ、あんた……」
士がその背中に手を伸ばしかけたとき、男は自分のひざに顔を埋め、苦しげに呻いた。
「もう、疲れた……いつまで逃げつづければいいんだ……」
彼がなにに追われているのか、なぜ逃げているのか、士にはわからない。だがさっきの青年を信じるなら、ここは夢の中だ。この男を苦しめている世界とは別の場所にある。
「ここまでは、追ってこない」
士は根拠もなくきっぱりと言った。
「……………」
それでもこちらを向こうとしない彼に苛立って、肩をつかみ引き寄せる。
「わ……」
突然のことに自分を支えられず倒れこんできた背中を抱きとめれば、彼は黒く濡れた目に驚きを隠さず、士を見返る。
「離せ……」
大きめのコートに隠れた身体は、見た目よりもずっと細かった。身をよじって逃げようとするのを長い手足で押さえ込むと、彼の身体はすっぽりと士に包まれる格好になる。自分が優位に立ったことに満足した士は、彼を抱いたまま薄く笑った。
「そんなに不安なら、俺が守ってやる」
「!」
男の抵抗が止まる。
横から覗き込もうとする士の視線から顔をそむけ、彼は喉から絞り出すような声で呟いた。
「俺は……人間じゃないんだぞ?」
「そうなのか?」
だから、士にも尋ねたのか。
彼もライダーだというのなら、なにか複雑な、厄介な事情を抱えていてもふしぎではない。しかし説明させるのも面倒だ。士にわかっているのは、この男が自分とはちがう世界のライダーであること、そしてここが夢の中であること。
ならば、夢の中だけでも彼を解き放ってやればいい。世界を破壊するよりは楽で、気負いもない仕事に思えた。
「よし、身体検査だ。人間かどうかは俺が判断する」
「なに……」
戸惑う彼にかまわず、擦り切れたシャツの裾から手を差し入れると、細い身体がびくりと跳ねた。羽も鱗もないただの皮膚だ。
「……っ」
長い指に脇腹を探られる感触に、男は息を止めて耐えていた。ふと悪戯心がわき、胸の突起を指先で弾く。今まで堪えていたぶんの吐息が、かすれ声とともに男の口からこぼれる。士は思わず笑い出していた。
「ここが感じるのか。めずらしいやつだ」
「やめろ……」
片腕だけで細い胴をたやすく押さえ込めることに気分をよくした士は、そこをつまんだり爪を立てたりして楽しむ。相手もシャツの上からその手を押さえようとするが、焦りも手伝って息を荒くしていくばかりだった。
「おまえ……っ!」
肩越しに士を睨みつける顔は、怒りなのか羞じらいなのか、首筋まで赤く染まっている。士はそれを羞恥だと思うことにした。
「化け物なら、恥ずかしがったりはしないだろうな」
「……!」
なにか言いたげな口を封じるように、もう一度その先端をつねってから、その手を下腹へとすべらせた。
「おい……っ!!」
本気であわてたようすで士の手をつかむ男に、士はこのままつづけるべきかどうか迷う。そして結局、判断を相手に任せることにした。
「……ほんとうにイヤならやめてやる。さっさと言え」
「……………」
士の腕の中で身をすくめたまま、男はちらりとすぐ横にある士の顔を見やった。もう泣いてはいないが、その黒い目も赤くなった頬もまだ濡れていて、まるで怯えた小犬のようだった。
その目で見つめられて妙にくすぐったい気持ちになった士は、じゃまな長髪を鼻先でどけて細い首に口づける。痕がつくほどに強く吸うと、彼は首を反らせて熱い吐息を洩らした。痛みや不快を訴えているようには見えない。
「どうなんだ?」
念押しか最後通告のつもりで囁いた士に返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。
「……ありがとう」
「え?」
男は士の手を取り、ひたいに押し当てる。
「人の肌の感触も、忘れかけてた……こんなに、あたたかいものだったんだな……」
震えながら消えゆく声は、また嗚咽に変わっていた。
「……ああ、そうだ」
予想外の展開に少し驚きながらも、彼のひたいに当てられた手を返し、その頬に触れる。無精ひげが刺さって痛いが、どこか気持ちよくもあって、士は彼の頬を撫でながら、その長い指先を半開きの唇に這わせた。熱い息が指にかかるのさえ心地よい。
「……身体検査のつづきだ」
「えっ……」
士は彼の唇から指を離し、今度こそ薄汚れたカーゴパンツへとその手を伸ばした。男は長い髪に隠れた顔をそむけただけで、抵抗するようすはなかった。
下着の中にある性器は士のそれと同じかたちで、人間でない証拠はどこにもない。優しく愛撫してやればしだいにかたちを成してくるところも変わらない。
「んぅ……」
人間にしか見えない彼は、歯を食いしばって士の愛撫に耐えている。士の手の中にある熱は張りつめて、すでに濡れはじめていた。健全な人間の反応だ、と士は満足げにその横顔を覗き込む。
「見るな……」
「いいじゃないか。身体は喜んでるぞ」
「……っ!」
言葉で嬲られてなお、男は士の腕から逃れようとはしない。人の肌から離れがたいのだろうか。それだけの理由で名前も知らない若者にされるがままになっている姿は、士の冷淡な劣情を動かしつつあった。
「ちょっと、くすぐったいぞ」
「……はあ?」
喘ぐ彼が事情を飲み込めないでいるうちに、ボトムを引きずり下ろしてひざを広げさせる。
「おまえ、なにを……んぁっ!」
士の長い指は遠慮なく男の中に這い込み、うごめく。細い腰が戸惑い揺れるのを押さえつけ、性感帯を探り当てるのにもそれほど手間はかからなかった。
「ぃや……やめ、ろ……んん!」
背中をのけぞらせ、男は士の腕に爪を立てる。彼が人間でなければ、この腕は切り裂かれて血まみれになっているだろう。士は安堵も手伝って、彼の内側をさらに探る。
「ぅう……っ!」
限界まできていた熱が弾けて、みすぼらしい服をさらに汚す。男はびくびくと身体を震わせ、士の指を強く締めつけた。
「おい、一人で先にイくな」
「うるさ……っ」
ぐったりと士の胸にもたれる身体は、やはり細くて軽い。
彼は荒い息をついて肩を上下させていたが、やがて長い髪のあいだからちらりと士を見上げ、かすれ声を絞り出す。
「……そっちは、いいのか?」
「ん?」
男はだぶついたコートや足先に引っかかったズボンに動きを取られながら、もぞもぞとぎこちなく身を起こし、士の腕の中でこちらに向きなおる。正面から間近で見ると、黒目がちの瞳がさらに大きく見えて、士はつい視線をそらしていた。
そんな士に年上の男はからかうような笑みを浮かべ、足のあいだに目を落とす。
「当たってるんだよ、ずっと」
「……………」
たしかに、ジーンズの中では士自身が痛いほどにその存在を主張している。士はため息をついて、ベルトを外した。苦笑とも失笑ともつかない笑いを噛み殺しながら、男が細い指を伸ばしてくる。
その手を取って、士は彼の腰を再び……ただし今度は正面から、抱き寄せた。
「あんたのせいだ。責任は取ってくれ」
「おい……」
シャツの上から乳首を探り当てて指先で生地ごとこすり上げると、律儀に身をよじって縋りついてくる。下肢は士に着衣を剥ぎ取られたままだったから、どう見ても士の優位は揺らいでいなかった。
「さっきはなかなかいい締めつけだったぜ」
「…………!」
さっと顔を赤らめるようすさえも、律儀な反応に思える。士は有無を言わせない腕力で、彼を自分の昂ぶりの上に乗せた。
「ああ……ぁああっ!!」
かさついた声を上ずらせて、彼は士の首にしがみついてきた。さすがに士も一瞬息が止まりかけ、この男が自分と同じ戦士であることを今さら思い出す。
「……っ、どうだ? 気持ちよさそうだな?」
精いっぱい平静を装って語りかけるが、相手はまともな返事ができる状態ではないらしい。
「いいわけ、ない……ぅあっ!」
逃げようと腰を浮かせるがすぐに士に押さえつけられ、息苦しさと刺激に悶えて身をよじる。
「往生際が悪いな。素直に楽しめよ」
「おまえ……っ、どの口で……」
だが逃げられないとわかったのか、今度は士のセーターに自身をこすりつけて快感を得ようとしていた。彼が自ら腰を揺らすたび、つながった部分が濡れた音を立て、二人を追い上げていく。
「やっぱり……いいんじゃないか……ぁうっ!」
思考をさらわれそうになる快感に必死の思いで耐えながら、士は喉を反らして喘ぐ男を見上げる。その喉は、頬を伝って落ちた涙で濡れていた。
蓬髪から覗く細い首に、士がつけた唇の痕が残っている。ことさらに細く見えるのは、厚いコートのせいだろうか。
一度気になりはじめると、彼の身を守るようにまとわりついているその上着が急に煩わしくなった。引っぱって脱がせようとするが、彼の手はしっかりと士の首にまわされていて離れる気配はない。フードのついた襟が肩から落ちても、彼はその鎧を脱ごうとしないのだ。
苛立ちのまま、士は男の奥を深く穿った。
「ぅう、ぁ……っ!」
「ぁんっ、ああ……!!」
士が彼の中に精を放つと、彼も身を震わせて士のセーターに白濁を吐き出す。
「はぁ……っ、は……」
士のひたいに、男のひたいが置かれるようにぶつかった。お互いの熱く乱れた息が混じり合うほど近くに顔があるのが、士には妙にくすぐったかった。
そのひたいを押し上げるつもりで、ぐいっとあごを上げる。
「俺が保証してやるよ……あんたは人間だ。じゃなきゃ、そんなに泣き虫なはずがない」
「はは……そうだな……」
彼は笑いながらコートの袖でごしごしと頬を拭う。
だが止めどなくあふれ出てくる涙は、彼の頬を乾かすことはなかった。

息苦しさに目が覚めた。
ベッドの中で涙を流している自分に驚いた士は、どんな夢を見たのか思い出そうとする。だが片鱗さえ頭には残っていなかった。これは自分の悲しみではなく、だれかの代わりに泣いているのではないか……そんな違和感だけがどこかにこびりついている。
「士くん! いつまで寝てるんですか!」
「いいよ夏海ちゃん、オレが起こしにいくから」
「朝ごはん冷めちゃいますよって言ってください」
「りょうかーい」
外ではいつもの二人がいつものやりとりをしている。あと少しで、ユウスケが部屋に飛び込んでくるのはわかっていた。ほら、勢いよくドアが開いて……
「起っきろーっ、士ぁーっ……」
元気な声とともに毛布を引き剥がしたユウスケは、真っ赤な目の士を見て一瞬固まる。
「つ、士? どうしたんだ?」
その間抜け面がひどく癇に障って、士はユウスケをベッドの中に引きずり込んだ。
「わっ、なに寝ぼけてんだ、起きろって士……むっ!」
うるさい口を自分の唇でふさぎ、黙らせる。じたばたと暴れていたユウスケが、今度こそ凍りついたように動きを止めた。
ユウスケが黙ったのを確認した士は、がばっと起き上がってベッドから降りる。ベッドに残されたユウスケは呆然と天井を見上げていた。
「えっ、あの……、えええ!?」
「……朝からうるさいぞ、ユウスケ」
士は濡れた目を乱暴にこすり、顔を洗うためにタオルを掴んで部屋を出た。
むりやり触れた唇は意外にやわらかく、そして泣きたくなるくらいにあたたかくて、今いる場所がまぎれもなく現実だと教えてくれる。
『……人間か?』
洗面台の鏡を覗き込んだ士に、だれかが尋ねた。
「ああ。俺は人間だ」
士は鏡に向かって答えた。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!