士/ユウスケ

2009_仮面ライダーディケイド,[PG]

ユウスケがらしくもなく憤慨している。その理由が自分にあることを知りながら、士は愉快な気分で彼を眺めた。
「やめろよああいうこと! 夏海ちゃんもびっくりしてただろ!」
「気づかなかったな」
それは嘘だった。夏海が息をのんだところに目が合い、彼女が気まずそうに目を泳がせたところまで士はしっかり見ている。
「あいさつみたいなもんじゃないか」
「どこのガイジンだよ! あいさつで、キッ、キスするなんて!」
言いながらユウスケは真っ赤になって自分のひたいを押さえた。
引き寄せて唇を寄せるにはちょうどいい場所にあったから、というのが士の主張だったが、当然正当性はない。
もともと悪役には慣れている。悪の大首領も顔負けの笑みを浮かべ、尊大に相手を見下ろした。
「おまえからじゃ届かないだろ? だから代わりに俺がしてやってるんだ」
もちろん、ユウスケが謙虚な身長を気にしていると知った上で。
予想どおり彼は別の意味で顔を赤くした。
「なんだよそれ! 俺だって届くよ、届きますよ!」
「へえ?」
士は挑発のつもりで、自分の唇を指してみせた。
ユウスケから仕掛けてくることはめったにない。彼がこの誘いに乗るなら、お互いレアな経験ができるというものだ。そしてユウスケは罠にかかった。
「くっそ……」
ヤケクソ気味に勢いよく背伸びをしてきたのを、ふと見下ろしたのが悪かった。
あごの骨に鈍い衝撃が走る。
「いっ……」
「てぇ……」
ほとんど衝突事故のような口づけに、二人とも口を押さえて呻いていた。
「おまえ、バカか……」
色気もなにもない。小学生だってもっと情緒あるキスになるはずだ。届いたことは届いたが、キスとしては無効だろう。
思いきり冷淡に嘲ってやろうと彼を正面から見据えたが、口は痛いし相手も同じ格好で苦しんでいるし、今ひとつ決まらない。
「ふっ……」
無性におかしくなって口元がゆるむ。一度にやけてしまったら、もう澄ましてはいられない。
こらえきれずに肩を震わせはじめた士を見て、ユウスケも噴き出した。
「ほんっと……」
「バッカみてえ……」
なにもうまくいかなかったというのに、どういうわけか楽しくて仕方がない。
いつのまにかキスのことなど忘れてしまって、二人はしばらく口を押さえながら笑いつづけていた。

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