丈瑠/十臓

2009_シンケンジャー,[!],[R18]

野獣交(けもののまじわり)

二人の男が対峙している。
「どうした。俺と戦え」
刀を突き出して急かすのは、しかし快楽に取り憑かれた外道ではなかった。
焦れたように柄を握りなおす丈瑠を一瞥し、十臓は蓬髪を揺らす。
「……断る」
「どうして……おまえが俺のなにを知ってるっていうんだ!」
苛立ちのままに振るった刀が、音を立てて空気を切り裂く。だが十臓は動かない。
「知っているさ。貴様が馴れ合いの中で強さを失ったことくらいはな。そしてそれが俺にとって貴様の全てだ」
「……っ!」
その言葉はなによりも鋭く、丈瑠の心を貫く。
弱くなった。
馴れ合ってしまったから。他人に背中をあずける安心感を知ってしまったから。丈瑠には許されないはずのものを手に入れてしまったから。
「だから、戦わないというのか……」
丈瑠は刀を振り上げた。
「……!!」
切っ先を突きつけられても、十臓は微動だにしない。振り下ろせずに寸前で刀を止めてしまった丈瑠を、冷淡に見つめている。
「なぜ……」
「それが弱さだというのだ。殺気が感じられなければよける気も失せる」
刀を抜かせるどころか、戦う気にさせることすらできない。たった一人、丈瑠を丈瑠として見ている男が、相手になることを拒んだ。
覇気のない呻きとともに、刀を持つ手が力なく下ろされる。
「哀れだな、シンケンレッド」
その名で呼ばれるべきは、志葉家十八代目当主。だれよりも強く、侍たちの命をあずかる者でなくてはならない。だが今の自分は……
「戦う気がないなら、その名で呼ぶな」
苦悶に満ちた言葉を吐き出す青年のほうへ、男の手が伸ばされた。
その手は丈瑠の頬に触れる。
肌の冷たさにおののくと、十臓はおかしそうに口元を歪めた。
「ふ……相も変わらず、手弱女のようだ……」
「バカにしてるのか……」
冷たい手を押しのけ睨みつける丈瑠を見て、十臓の笑みはさらに大きくなる。
「ならば男を見せてみるか?」
殊更に下卑た表情を浮かべてみせる彼の意図がわからないわけではない。その露骨すぎる誘いを拒む理由を必死に探したが、なにも見つからなかった。
「……それなら、つき合うというのか」
十臓は答えず、そばに建っている古びた社に目を向ける。
「枯れ葉の上では人の身には寒かろう」
たしかに丈瑠は震えていた。だが、それは寒さではない。武者震いでもない。
胸を突き破りそうな焦燥を、必死に抑えつけていたがゆえだった。

埃の積もった床の上に、丈瑠は十臓を組み伏せる。その息はすでに荒く熱い。
「その熱をどう始末していた? だれを使った?」
以前にも尋ねられた。あれは単純な問いかけだったようだが、今は確実に丈瑠を理解しての揶揄だ。丈瑠が仲間に手出しできないことをわかっていて、笑み混じりにそんなことを尋ねる。
それ以上聞かずに済むよう、口で口をふさいだ。丈瑠の望む言葉をひとつもよこさない舌は、今ばかりは丈瑠の求めに応じて絡みついてくる。
彼は丈瑠の口づけを受けながら自ら帯を解き、肌を晒した。そして、丈瑠自身を服の上から撫で上げる。
「!」
その催促を受け流せるはずもない。丈瑠は無我夢中で留め金を外し、同じように前を開けた十臓と自身を重ね合わせた。
「あ……ぅっ!」
直接触れ合う感触に、思わず呻いていた。他人に触れさせる、あるいは他人のものに触れるなど、丈瑠の常識の遠く外にある行為だったはずなのに、今はためらうことさえばかばかしく思える。
欲求に突き動かされるまま、重なった性器を乱暴にこすりつける。二人は同時に熱い息を洩らした。直接的な快感を追い求めながら、丈瑠は喘ぐ十臓を見下ろす。
「ん……っ」
反らされた首が妙に白く見え、衝動的に噛みついていた。歯を立てると喉がひくりと震える。まばらなひげに頬を寄せれば、男と肌を合わせている背徳感に息が詰まりそうになる。
丈瑠はそのまま、肩に胸にと口づけた。硬く引き締まった肌は中途半端な接触を拒んでいるようで、つい躍起になって挑んでしまう。
そうしているうち、胸の突起に唇が触れた。好奇心で舐め転がしてみると、胸の筋肉がうねり、彼が身をよじったのがわかった。ねだるような甘い吐息にうながされ、その部分を舌先で嬲った。
「ぁあ……」
あまりにも無防備に声を上げる姿は、人を斬りつづけた外道には見えない。丈瑠と同じくらいに硬く猛った中心も、人間そのものだ。先端からこぼれた雫が二人の陰茎を濡らしていくさまも、人と外道の差を感じさせてくれない。
「……のけ」
不意に、胸を押しやられる。虚をつかれて身を起こした丈瑠を、十臓は目を細めて眺めた。品定めしているようにも、どこか嘲っているようにも見える。
「なんだ?」
戸惑いながら尋ねれば、今度こそ呆れたような視線が返ってきた。
「貴様は『支度』ができるのか?」
「支度……」
丈瑠が理解するよりも先に、十臓は手を伸ばして己の屹立に指をすべらせる。そしてひざを広げ、自らの後ろへ先走りで濡らされた指を押し込んだ。
「ん……ぁん……」
丈瑠は全身が総毛立つのを覚えた。
目を伏せて喘ぐその顔も。甘くかすれたその声も。役目を成していない服がまとわりついているだけの肉体も。全てが若者の理性を剥ぎ取るように誘いをかけてくる。
指一本動かせずその痴態を見つめている丈瑠を見上げ、男は苦しげな息のあいだから笑みを含んだ問いを投げかけた。
「俺が欲しいか……」
声も出ない丈瑠は、ただうなずくしかできない。
「来い」
丈瑠は生まれて初めて、志葉家以外のものに隷属した。

嵐のような時間が過ぎ去り、丈瑠は十臓の胸の上で荒い息をついていた。
相手は死んだように動かない。
気を失っているだけとはわかっていても不安になり、鬱陶しい髪をかき上げる。晒された端正な白皙は人斬りには見えなかった。その顔をただ眺めていると、彼はやがて長い睫毛をしばたたかせ、物憂げに目を開ける。
「十臓……」
安堵の息をつく丈瑠を一瞥し、彼はぽつりと呟いた。
「……足りぬ」
思わぬ言葉に返事もできず目を見開いていると、彼はのっそりと身を起こす。
「こんな暇つぶしでさえ、俺を満たせぬのか」
言われている意味がわからない。ただでさえまともに考えられる状態ではないのだ。呆然と見下ろす丈瑠を、十臓はぞんざいに抱き寄せた。
「わ……」
前のめりに倒れかけた刹那、視界が回る。
一瞬後、硬い床の上に押しつけられていたのは丈瑠だった。十臓の白い上衣が敷かれてはいるが、冷たさが背中から這い上がってくる。
なにかを言おうと開いた口に、骨ばった指が二本ばかり突っ込まれた。
「ぐ……」
「急くな。ゆっくりでいいぞ」
投げつけられる言葉はあいかわらず唐突で、意図が読めない。だが彼を押しのけるという頭はどこかへいっていた。うながされるままに、丈瑠は舌をすくい取ろうとする指をしゃぶる。
今度は十臓が、丈瑠の汗ばんだ肌をまさぐっていた。その手が性感を知り尽くしているのか、身体がどこもかしこも彼に反応しているだけなのか。まともな呼吸もままならない状態で、丈瑠は皮膚の下にたまっていく熱をただ感じていた。どうしたら解放されるのかもわからなかった。
「もういいか」
独り言のように呟いた十臓の指が、糸を引いて唇からすべり出ていった。飲み込みきれずにあふれた唾液が口の周りを汚しているが、拭う気にもなれない。
ぼんやりと彼を見上げていると、乱暴にひざを広げられた。ここまでくれば、丈瑠にもなにがはじまるかくらいはわかる。
目の前の男を蹴り落として逃げ出す代わりに、丈瑠は床の上で拳を握りしめた。同じ性と身体を重ねる以上、想像できなかった事態ではない。これは自ら望んだことだ。
濡れた指が後ろへと押し当てられ、硬く目を閉じる。
「ん……ぁっ!」
耐えるつもりが、情けなく上ずった声がこぼれて愕然とした。だが羞恥や絶望に浸る間もなく、指は容赦なく内側へ這い込んでくる。
「や……」
「力を抜け。逆らうほうが苦しいぞ」
表情のない声で助言が降ってくるが、すぐにそのとおりにできるものでもない。異物感に身をくねらせて逃げようとする丈瑠を、十臓は容赦なく全身で押さえつけた。二本の指が根本まで埋められ、中を押し広げていく。
「ひ……ぁあっ……」
指先がかすった箇所から全身に衝撃が走り、砂でざらつく床に爪を立てて腰を浮かせていた。触れられてもいない中心が反応する。
「ここが、悦いか」
「なんで……ぁは……っ」
執拗にその部分を責められ、丈瑠は床の上でのたうった。丈瑠も知らない快感の在り処を、十臓はあっさり見つけ出してしまったのだ。自分を暴かれた恐怖と恥辱に、理性が崩れかけつつあった。
「やめ……」
あと少しで射精させられてしまうのではないかと思ったとき、指が引いてさらに太いものが押し当てられる。
「うぁ……ああああっ!!」
甘い声など上がるはずもない。低音の悲鳴は咆吼に近かった。
縋るものを求めて宙をさまよった手は、相手の袖をつかんでいた。必死にたぐり寄せて細い肩にしがみつく。十臓はゆっくりと、だが奥まで丈瑠を突き上げた。
「うぁ……んんっ」
なにかを訴えたくても、口を開けば言葉にならない声しか出ない。
「初めてにしては……なかなかではないか」
腰を使いながら十臓は薄く笑う。張り出した部分が内側をえぐっていくたびに、丈瑠は耐えることも忘れて嬌声を上げた。
「ぁ、あぅっ、ん、あっ……」
律動に合わせて洩れる声が、狭い社に響いている。滲んだ涙が頬を伝っていくのを感じたが、拭う余裕もない。
痛くて、苦しくて、だが全身が壊れそうな感覚はそれだけではない。これが「骨の髄までばらばらになるほどの」快楽だろうか。
「くぅ、おお……!」
眉を寄せた十臓が呻いた。
「ぁは……っ!」
腹の中に人ならぬ精を注ぎ込まれ、息が止まる。
汚された、と感じたのはこのときが初めてだった。丈瑠が十臓に強いていたのは、こんなにも屈辱的な行為だったのだ。
感情と切り離された生理的な涙は、勝手にこぼれ落ちていく。
濡れた丈瑠の頬を、十臓は舌で舐め上げた。
「この涙は、三途の川には流れてゆくまい……」
どこかうれしそうな声は妙にいかがわしい色を帯びていて、丈瑠の身体を疼かせる。犯されたあとだというのに、身体は熱を持ったままだった。
丈瑠はなんとか理性をたぐり寄せようと、滲む視界の中で相手を見据えた。
「どうして、こんなことをする……」
十臓にとって、この行為はただの暇つぶしだ。戦いの代わりに、丈瑠につき合っているだけ。もの足りない、つまらないのならばやめればいい。
だが彼は律儀にも応える。自ら誘い込むことさえ厭わない。
丈瑠には理解できなかった。
「外道衆は現世のひずみ、隙間から現れる」
睦言のように優しい声音で、丈瑠の髪さえ撫でながら、十臓は囁く。
「俺はおまえ自身の歪みを大きくしてやりたい。歪んだおまえをさらにひずませて、俺と同じものにしてやりたい。でなければ、俺の生きている意味もない」
歪みが大きくなるということは、外道に近づくということ。考えるまでもなくそれは禁忌だ。しかし外道と同等の強さを手に入れるために、外道に近づくという手段もある。
歪むほどに強くなるのなら、いくら歪められてもいい。この自分がだれに頼らなくても済むほど強ければなんの問題もないのだ。仲間の命を犠牲にすることなく、己の使命を全うできる。
だがそれは……
「さあ……夜はまだ明けぬぞ。男にでも女にでもしてやる」
忌まわしい誘いの言葉に、丈瑠は喉を鳴らした。
覚悟を決め、相手の衣を引き寄せる。
「この程度で、俺が歪むと思ってるのか」
「ふ……挑発する元気があるとはな」
口角を上げる十臓に、丈瑠も昏い笑みを浮かべてみせた。
汚されたなどとは思い上がりだ。歪みを広げる必要などない。この身は元から清らかでも正直でもない。
目を閉じ、蠱惑的な外道の身体を抱きしめた。
「足りないのは、俺のほうだ」


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