銀時/全蔵
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デートの前にはシャンプー必須
気にしない気にしない、と自分をだましてはいたが、なにしろ自分の身体のことだからそういうわけにもいかない。
「ぃって……」
思わず洩らした呻き声に、おとなしく組み敷かれていた相手が顔を上げる。
「……深いのか、腕の傷」
気づかれていたか、と内心で舌打ちし、銀時は曖昧に笑った。
「ちょっと階段から落ちてよぉ……」
「階段から落ちて刀傷か」
「…………」
まったく勘の鋭いやつはこれだから、ともう一度舌打ちした。事情を知らない人間のところに来れば、気晴らしになると思ったのだが。
はだけた単衣の襟をつかんで、細く締まった身体を押しつぶすように身を寄せる。
「てめーこそ、ちゃんと風呂入ってんのか?」
「はあ?」
「髪から血の匂いがすんぞ」
顔が近いせいだろう、あからさまな舌打ちが聞こえた。
詮索を厭うのはお互い様。真剣と派手にやり合った後だろうが、頭から返り血を浴びた後だろうが、この行為にはなんの関係もない。
黙り込んだ全蔵の手が、銀時の服を脱がしにかかっている。みっともない包帯と痣だらけの肌が晒され、もう隠しようもない。銀時はほとんどやけくそになって全蔵の単衣を引き剥がした。
全蔵の鍛えられた身体にも、傷くらいはある。今のところ目だって新しいものはないが、小さいすり傷から相当の深手だったのだろうと思わせる古傷まで、あの時代をくぐり抜けた人間らしい身体をしている。
だが、銀時はその傷の所以を知りたいとは思わなかった。全蔵から新しい血の匂いがするのにも興味はなかった。
「……ぁ」
硬い肌に舌を這わせ、きつく吸い上げると、それに応じて声が上がる。
右の乳首が立ち上がりやすいとか、首筋に触れられるのが弱いとか、絶頂が近づくと殊更に声を殺したがるとか。そんなことさえ知っていれば、あとはなにも知る必要はない。お互いの名前さえ、実のところいらないのだ。
終わったときには二人とも着物が絡みついている程度で、満身創痍の身体を晒すことにも抵抗はなくなっていた。
しわだらけの単衣の上に、全蔵が仰向けに転がっている。前髪で目元を隠しているから、表情はわからない。見えたとしても、きっと巧みに感情を殺しているだろう。だが、その視線がこちらに向けられていることくらいは、銀時にもわかった。
「なに?」
ゆるんだ包帯が気持ち悪いと思いながら、全蔵を見下ろす。ぼんやりと銀時を見上げていた全蔵は、ぽつりと呟いた。
「気になるか? 血の匂い」
「や、べつに」
銀時は血そのものに嫌悪の情を持たなかった。銀時が嫌うのは、血を纏いたがる狂気のほうだ。全蔵からは、他人の血を求める狂気は感じられない。だから、銀時は全蔵にも嫌悪の情を持たなかった。
「あっそ、ならいいや」
全蔵は銀時から目をそらし、ごろりと横になった。かと思うと、のっそりと起き上がる。
「……腕、見せてみろよ」
「や、いーよ。べつにおもしろくねえって」
「いーから」
痛む腕にそれほど力が入るわけでもなく、銀時はあっさり腕を取られ包帯が解かれていくのをぼうっと眺めた。
目的を問わず、肌に触れる全蔵の手の動きには無駄がない。じたばたと無駄に足掻いて余計な傷を作るタイプではなさそうだ。にもかかわらず、全蔵からは血の匂いがする。戦も終わったこのご時世に。
慣れた指が、カサブタ状になった傷の上をすべる。
「なに、舐めて治してくれんの?」
全蔵はちらりとこちらを見上げ、それから腕を引いて銀時を抱き寄せた。本気かと銀時が眉を上げかけた刹那、青く痣になっている肩に噛みつかれる。
「いでででで!!」
「もう治りかけてるじゃねえか」
そう診断した全蔵の声は笑っていて。
なにが楽しいのかうれしいのか、銀時には図りかねたが、それでもつられて笑みを浮かべる。
「だから、べつにおもしろくねえって言ったろ?」
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