銀時/全蔵
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ジャンプ買うついでに夕飯の買い出し
今の自分たちは、余生を過ごしているようなものだ。
人生すべてを捧げるはずだった主君も、お庭番という仕事も、あっさりと失われた。
路頭に迷った哀れな仲間たちは、静かな暗闇に消えるように、新しい世へとまぎれていった。
現役を退いた俺たちに、第二の人生などあるはずもなく。
長い長い残り時間を、それでも俺たちは生きていかなきゃならない。
「ケツの具合どう? よかったらヤんない?」
「おまえ俺の顔見てケツ掘ることしか連想できねーの?」
「ジャンプ買った? 買ってたらヤんない?」
「なんも変わってねーよ、つーか意味わかんなくなってるよ」
その男も、俺と同じ、若くしての隠居組だった。
白夜叉という名を聞いたことがないわけじゃない。銀の髪に血を浴び、夜叉のごとく敵を蹴散らした、伝説の攘夷志士。俺たちの戦場が舞台の裏なら、あっちは表舞台で華々しく暴れまわった立役者だ。
だが今の世にそんな男はもうどこにもいない。揺るぎない伝統の上に立っていた、血気盛んなお庭番衆の若き筆頭が、すでに過去の存在となったように。
俺の前にいるのは、死んだ魚のような目をした、糖尿気味の白髪頭。ジャンプを読むついでに生きているような男だ。実は少し腹も出ている。
「おまえ、その歳でその腹はやばいだろ。メタボだろ」
「うっせーよ、いざってときのために養分蓄えてんだよ。あんまつまんねーコト言ってっと、ほっぺにぐるぐる書くぞコノヤロー」
「だから発想が単純なんだよてめーは。小学生並みなんだよ」
「あ、アレだろ、小学生んときのあだ名はハットリくんだろ。ニンニンとか言われてただろ」
「それあだ名じゃねーから。だいたい周りもみんなニンニンだったから」
締まりのない腹をぐにぐにと押して、その下に今も衰えぬ筋肉があるのを確かめる。死んではいない。隠居しているだけだ。
相手はくすぐったいと文句を言い、それから軽く取っ組み合いになった。こういうのは往生際の悪いほうが勝つのだが、厄介なことに俺たちはその点で互角だった。
往生際が悪いからこそ、死ぬこともできず、世を捨てることもできず、変わっていくこの国に、変わらないまましがみついて生きているのだろう。
「あ! てっめー、途中でゴムはずしやがったな! また便所通いじゃねーか! うちのガキどもにゲーリーとか不名誉なあだ名つけられちまうよ!!」
「いいんじゃね、ゲーリー。かっこいいじゃん、ゲーリー。いけてるよ、なあゲーリー」
「マジ殺すぞてめー。ケツの穴に鉛筆突っ込んでぐりぐり回すぞ? 削りカス的なもので腹ん中パンパンにすんぞ?」
「どーやったら俺のケツで鉛筆削るんだよボケ」
「ボケはてめーだ鉛筆削り!」
互いに無防備な裸をさらし、ガキよりも幼稚に罵り合い、明日の下痢の心配だけしながら、俺たちはまた布団に倒れこむ。
明日の予定などないし、あったとしても明後日に先送りすればいい。
今の俺たちにすべきことはなにもない。せいぜいが、ジャンプを買うくらいだ。
「あー、だるー……俺もう寝るわ。いいとも始まったら起こして」
「昼まで寝る気かよ! 朝起きろ、朝! ってか帰れ!!」
やつを蹴り出すことに失敗した俺は、月曜発売のジャンプを買いに家を出た。仕事によっては木曜あたりまで買えない週もあるから、今週はかなりついている。
こうしてみると、俺はまだジャンプを読むために生きているといえるかもしれない。どんな目的であれ、それに向かって生きていることにちがいはない。将軍を護るためであっても、ジャンプを読むためであっても。
だがあの夜叉は……
角を落としたかつての夜叉は、目的もなくぼんやりと生きる。
ジャンプを読むためにではなく、ジャンプを読むついでに生きる。
長すぎる残り時間を数えることも忘れて、ただ余生を送るのだ。
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