ホームズ/ワトソン

2010_SherlockHolmes,[R18]

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衝動

「きみという男は……」
ワトソンが帽子を取りながら苛立った声を上げる。一方ホームズはコートを掛けて上着を脱ぎ、それを椅子の背に放り投げた。
「ご婦人の前であんな態度をとるなんて、英国紳士として恥ずかしいとは思わないのか?」
帰るなり説教をはじめた同居人を、名探偵は見返りざまに睨みつける。
「彼女たちは論理というものをまるで理解していない! すぐにくだらない愛情だの霊的感覚だのを持ち出して、話をまったくちがうものにしてしまう。ぼくにはそれが耐えられなかっただけだ!」
事件というものは推理して終わり、というわけにはいかない。必ず結末を要求する当事者がいて、そして探偵の仕事に満足するとは限らない。今回はどちらかといえばハッピーエンドとは言いがたい結末で、だから二人も帰りの馬車の中で黙りこくるくらいには気が滅入っていた。
ワトソンだけでなくホームズまでも声を荒げたのは、そんな気分のせいにちがいない。
タイを外し、ジャケットを脱ぎ、それから息苦しさと暑さから逃れるためにシャツのボタンを外す。背を向けているホームズが、少しも真面目に話を聞いていないように見え、ワトソンはカフスを外しながら彼に歩み寄った。
「だからといって、あれはないだろう。うら若い女性を泣かせるなんて男として最低だ!」
ホームズは眉をつり上げふり返る。
「ではその最低な男に尻を貸しているきみは男としてどうなんだ!?」
「ホームズ……!」
ワトソンは思わずホームズの胸ぐらを掴む。二人が拳を握りしめたのは同時だった。
「……………」
口論が途切れた静寂の中、荒い息だけが互いの耳に聞こえていた。
激情をたたえた黒と青の瞳が見つめ合う。
「……!!」
爆発しそうな感情を、二人は全く同じ方法で相手にぶつけた。
ワトソンがホームズの襟を引き寄せるのと、ホームズがワトソンの身体に手を回し羽交い締めにしたのは同時で、そして二人が口を開け相手の唇に噛みついたのも、どちらが先ということはなかった。
舌の絡まる濡れた音が乱れた呼吸に混じり、他に物音もしない部屋に響く。
ホームズはワトソンの身体をシャツの上からまさぐり、ワトソンはホームズのシャツを引っぱり脱がせようとする。みっともなく開いたシャツのあいだで汗ばんだ胸がこすれて、二人の劣情を煽った。
腰を押しつけ合って、互いの服に手を掛け、気持ちはすっかりそちらへ向かっていく。なにで苛立っていたのかすら忘れてしまいそうなほどに。いや、苛立ちは消えていない。もっと激しく求め求められたいという欲求は強くなるばかりだった。
やがて息を切らせながら、ワトソンは呟く。
「……まったく、最低だ」
「お互いにね」
そして二人は血の上った頭で、なおも接吻と眩暈を貪った。

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