謙信/信玄
上杉くんと武田くん
上杉って男は、どヘンタイだ。
済ました顔で自分のテリトリーの平和を守ってる風なことを言ってるが、目的のためなら裏ではえげつないことも平気でする。俺だって言えた義理じゃないがこいつとはちがう。
「ぁ……上杉……っ」
「うるさい……」
こいつを慕ってるやつらも、今のこいつを見たらドン引きして離れていくことまちがいなしだ。もっとも、今の姿を死んでも見られたくないのは俺のほうだった。
「手、痛ぇよ……」
むだなあがきとわかっていて、俺は両腕を動かそうとする。でも手首に革のベルトが食い込んでくるだけで、なんにもいいことなんかない。
俺の両腕は頭の上でまとめてベッドに縛りつけられていた。しかも素っ裸で、M字開脚させられて。
「我慢しろ」
怒ったような声で呟いて、上杉は俺の腰を掴んだまま突き上げてくる。全身に何度目かの衝撃が走った。
「ん、はぁ……っ!」
みっともない上に気色の悪い喘ぎ声が自分の口から洩れる。
「黙れ、ってんだよ……」
「るせ……っ」
黙れるんならとっくにやってる。
歯を食いしばってみたり唇を噛んでみたり腹に力を入れてみたり、できることは一通りやったがむだだった。ケツの穴にナニ突っ込まれて平気でいられるほうがどうかしてるってことだ。
どうかしてるっていえば、この男も相当どうかしてる。
萎えるとかキモいとかぶつぶつ言うわりに、俺ん中の上杉はどんどん大きくなる。なにでコーフンしてんだか見当もつかないのが本物のヘンタイっぽくて薄気味悪い。
「や……バカ、そこっ、そこは……ぁあっ」
俺のムスコは上杉の腹を突いていた。でかくなった上杉のやつが奥を突き上げると勝手に勃ちやがる。
「はっ、はぁっ、は……」
上杉の息が荒くなる。動きも速くなって、がくがくと揺すられるたびに手首が擦れて、だがそれ以上に、腰から駆け上がってくる快感に責め立てられる。
「んぁ……!!」
キレイな顔を色っぽく歪めて、俺の上で上杉がイった。それがトドメで、俺もイった。
その数秒後は、いつも泣きたくなる。男に突っ込まれてよがってあんあん言って、おまけに最後までイケる俺もヘンタイじゃねえのか。
俺はもう一度腕を揺らした。
「……外せよ」
「待て……」
上杉はゴムを捨ててからティッシュで自分と俺の後始末をした。妙に律儀で丁寧で、それならさっさとベルト外せよ、と思う。
だいたいゴムが必要な理由がわからねえ。と言ったら、上杉は「汚いから」と最悪な答えをよこした。じゃあそもそも突っ込むな。ていうか突っ込ませろ。
「はい、おつかれ」
場違いなセリフといっしょに、ようやくベルトが外された。解放された手首にはSMプレイの痕がしっかり残ってやがる。治りかけるとまた縛られるから、ずっと消えない。
「いってぇ……」
上杉がヘンタイの本性を現したのは、最初にヤられそうになったとき、俺がやつを殴ったせいだ。そのあとまあイロイロあってこうなってるわけだが、もう殴らねえって何度言ってもやつは俺を縛る。縛りたいだけなんだと最近やっと気がついた。
ケンカ三昧のころに比べたら怪我のうちにも入らないが、不名誉すぎてリストバンド必須だ。
ヘンタイはベッドに腰かけてタバコに火をつけたところだった。
「俺にもよこせ……」
「メンソールは嫌なんだろ」
「くそ……っ」
メンソなんか吸えたもんじゃない。だがあいにくこっちのタバコは切らしてる。むやみに高いところにあるこの部屋から買いにいくのは億劫で仕方がない。
勢いをつけて起き上がった。
「おい」
やつの顔をつかんで、むりやりこっちを向かせる。
「武田……」
口からタバコを奪ってキスしてやった。
上杉はちょっとのあいだ、驚いた顔で俺を見つめていたが、眉間に皺を寄せて俺からタバコを奪い返すと、ぼそりと呟く。
「だからガキかっての……」
「ぁあん!?」
やつの手が伸びてきたかと思うと、逆に首を抱き寄せられていた。
重ねられた唇から有無を言わさず舌をすべり込ませてきて、俺の中をかき回す。これがいつもクセモノで、くちゃくちゃ濡れた音しか聞こえなくなるとなにも考えられなくなる。
「ん……ぁふ……」
器用な舌が離れていったあと、ばったりと後ろに倒れたらもう指一本動かす気も起きなかった。キスの前になにか言われた気がするが、いつものことだからもういい。
タバコの煙が流れていく天井を見上げながら、ぼんやりと頭に浮かんだことを口にする。
「なあ……上杉、好きなやつとかいんの?」
「はぁ!?」
ぎょっとしてこっちをふり返った上杉はすぐに呆れ顔になって、タバコをくわえながらくすくすと笑い出した。
「そーゆー話は中学で済ませてこいっての」
バカなことを口走ったと気づいたのは、その直後だ。思わず「あー」と髪をかきまわす俺を横目に、上杉はにやにや笑っている。
「気になるか?」
「なっ、なるかよ!」
まったく、どうでもいいことリスト第一位だ。なんでそんなバカバカしいことを訊いたのか、自分でもわからない。
好きなやつにも、あんなキスすんのかとか。好きなやつの腕は縛らねえだろうなとか。
なんでそんなこと考えちまったんだ俺は。
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