謙信/信玄
上杉くんと武田くん
「っしゃああ!」!
ゴールが決まった歓声と同時に迫ってくる顔を寸前で止めて、小さくため息をつく。
いつのまにか我が物顔で居間のテレビを占領しているこの居候は、テンションが上がるとなぜかこうなる。最近は殴り倒す元気もなくなってきている自分に老いすら感じる、高校三年生の上杉謙信だった。
「うぜぇんだよバカ」
だがそれくらいでおとなしくなるようならまだバカではない。何度拒否されても同じことをくり返すからバカなのだ。
毎週見ているバラエティ番組が始まるころだとテレビの前にやってきたら、終わっているはずの試合は延長戦に突入していた。それほどかからないだろうと観戦中の信玄の隣に座ったおかげで、抱きつかれたりキスを迫られたりするはめになっている。
「ああーっ、止めろよそこは!」
相変わらずオーバーリアクションの信玄がどさっとソファの背に倒れ込むのを横目に見て、今まで気にもしなかったゲームの内容に目を向けた。
画面では白いユニフォームの選手が抱き合って喜んでいる。信玄が応援していたのは赤いユニフォームのほうらしい。延長戦でもなお同点で、ようやく一点リードしたというところか。
「いや! すぐに返せる!」
気を持ち直したのか、起き上がってきた信玄の顔がすぐ横にあった。謙信はやおら信玄の胸ぐらをつかむ。
「あ?」
一瞬で険悪な表情に変わった顔を引き寄せて、むりやり唇を重ねた。ビールの匂いがした。
「……んだよ」
あっという間に毒気の抜けた様子でこちらを見返す男を突き放し、謙信は手の甲で自分の口を拭う。
「バカの真似」
「あぁ!?」
そして、暇つぶしに読んでいた雑誌を放り投げた。
「俺、今からこっち応援するわ」
謙信が指さしたのは、画面の中の白いユニフォーム。ようやく謙信の行動の意味を理解したらしい信玄が、愉快そうに眉を上げる。
「今から敵ってことか」
「敵じゃなかったことがあんのかよ」
謙信の言葉に、顔を見合わせた二人はにやっと笑っていた。
「そういやそうだ」
それから、狭いソファはにわかサポーターの戦場となり、テレビの中の紅白がPK戦で引き分けるまで、「第一次・テレビ前の戦い」がくり広げられたのだった。
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