映司/アンク

2010_仮面ライダーオーズ,[!],[R18]


【忠告と暴露とひっかき傷】

両腕をベッドに押さえつけられ、アンクは目を上げた。
見飽きた、つまらない顔がある。
「早くしろ」
凄んでみせると、彼は仕方なくという態度を隠そうともせずに、身をかがめ唇を重ねてくる。
アンクは舌を割り込ませようとしたが、映司の唇は吐息だけを残してさっさと離れていき、肩に優しく触れた。これから始まる退屈な前戯を思い、アンクは小さく舌打ちする。
近ごろ、映司は自分からアンクを抱くようになった。
彼がアンクを求めているわけではない。彼から誘ってきたりもしない。アンクから起こしたアクションへのレスポンスとして、おとなしく抱かれるよりも積極的に抱くことを自ら選ぶようになった、という程度の変化だが。
それが映司特有の「手段」だと、アンクは気づいていた。挿れたがらないのがその証拠だ。前戯を引き延ばしてそれだけで終わらせようとすることもあった。だが行為自体が嫌いなのではなくて、つながってしまえば健康な身体は敏感に反応する。
ぬるい接触に焦れったくなって映司を突き飛ばし、倒れた彼の上にまたがった。
「ちょっ、アンク……っ!」
真上を向いている欲望は、いつでもアンクに突き立てられる状態になっている。アンクは口元を笑みにゆがめ、自分の腰を浮かせた。
「やっ……やめっ、ぁあ……っ!!」
中空に伸ばした両手が虚しく宙をかき抱く。
「ん……はぁっ……」
唾液がこぼれ落ちそうになった唇を舐めながら、映司を見下ろす。アンクが映司自身を自分の中へ受け入れたせいで、映司はへたに動けなくなっていた。犯されているとき以上に息を乱し、潤んだ目でアンクを見上げている。
「我慢するなよ……イイんだろ?」
「……っ!!」
軽く腰を揺らしてやると、映司はとっさに自分の口を押さえた。アンクを押しのけることもできずに、ただ与えられる快楽に翻弄されていく。どれほど理性で拒絶しても、抑え込み耐えているからこそ、彼の身体は過剰なほどアンクの責めに応えた。
「ダメだって……早く抜い……んんっ!」
「それこそダメだ……ぁっ、途中で、やめられるか……」
アンクも、特別この行為が好きなわけではない。正直にいえば、メダルを数えながらアイスを食べているほうが楽しかった。だがこの瞬間は、確実に映司を困らせることができる。その愉悦を思えば、多少の苦痛などスパイスにしかならない。
彼の腰を抱えて、奥まで彼を受け入れた。鷹の爪が肌に食い込んだ気がしたが、今はどうでもいいことだ。
「はっ……」
「うぁあ……っ!!」
痛みか快感か、腹の中で映司の欲望が弾ける。
突き上げられた衝撃に身をのけ反らせたアンクは、それでもこみ上げる笑いを抑えられなかった。

奇妙な二人だな、と思う。
ケンカするほど仲がいい、殴り合って友情を深めるのが男、などわかりやすく捉えてみようとするが、そういうわけでもないらしい。他人事と割りきれたのも最初だけで、関わり合ううちに否が応でも彼らの心配をするはめになっていた。

メダル入りのタンクを床に投げ出して、伊達は引きずってきた患者をベッドに押しやる。
「おまえはほんっと自分を大事にしないんだから……ほら脱げ! ああ、比奈ちゃんはちょっと席外してくれる?」
年頃の少女を追い出してから、遠慮なく裸に剥いた。
若い身体は治りも早い。それでも、日々増やされる生傷が映司の身体に負担を与えていることは間違いない。問題は当の本人がそのことに頓着していない点だ。
背中の打ち身の手当てをしようとして、ふとその下に目がいった。
「なんだこれ」
脇腹の下、腰から尻にかけて、浅く長い裂傷が何本か伸びている。少なくとも今回の戦いでついた傷ではない。壁を向いている映司の表情は見えなかったが、気まずそうに肩をすくめたのはわかった。
「いや、ちょっと擦ったっていうか……」
4本……いや、5ヶ所。大きな手、鋭い爪のかたち。普通なら考えにくいが、あいにく心当たりがありすぎる。
「アンコだな」
「……はい、まあ」
その傷害犯は今、この部屋にはいない。下でアイスでも食べているのだろうと映司が言う。怒っている様子はないし、かといって甘やかしている風でもない。
アンクがどれほど不遜で傲慢な態度をとっても、大概は映司が軽くいなしていて、ケンカにもならないことがほとんどだった。だから、こうなるシチュエーションが想像できない。
「おまえら、なにしてんの?」
「はは……本気プロレスっていうか、ある意味ケンカっていうか……」
「セックスだ」
ノックもなしでドアが開いた。
アイスを手にずかずかと大股でベッドに歩み寄ってきた金髪は、伊達などいないかのように映司だけに声をかける。
「行くぞ映司、ヤミーが出た」
「だめだ、あとにしろ」
突っぱねる伊達に、アンクは残りのアイスを平らげながら凄んでみせる。
「そっちこそあとにしろ」
凶悪なのか幼稚なだけなのか、未だに判断がつかない。
「すいません、帰ってからまとめてお願いします」
「え?」
ふり返ると、患者はすでに服を着はじめている。
「こら!」
こっちは話せば通じるが、聞いてくれるとはかぎらないのが厄介だった。あっという間に服を着た映司は、アンクが床に投げ捨てたアイスの棒をくずかごに放り込んでから、部屋を飛び出していく。
「おいっ、ちょっと待てよおまえら……」
伊達もあわててパートナーに連絡し、彼らのあとを追いかけた。
造作だけはきれいな顔から、不釣り合いな単語が発せられたことに違和感を抱えながら。

今日もメダルをかき集めて、お仕事は終了。
少しだけ取りこぼしたふりをして、こっそりあの赤い腕にも取らせてやる。お情けというよりは、医者として彼の憑依している肉体を慮った結果、ということになるだろうか。アンクが弱れば宿主の命にも関わるのだと映司から聞いた。実際の因果関係はよくわからないが、彼の状態が人間としてもグリードとしても正常ではなく、どんなリスクを抱えていてもおかしくないことだけは傍目にも理解できる。
そしてもう一人、満身創痍の若者のほうは、あいにく伊達の専門だった。
「さて、今度こそ全部診せてもらうぞ」
聞き分けのない患者を睨みつけてから、その隣に立っている金髪のせいだと思い出す。そして彼がさっき言った不穏な言葉も。
「そういや、アンコも下ネタとか言うわけ?」
「ぁあ?」
本人は自分がなにを言ったのか覚えてもいないらしい。こっちが妙な目で見られる始末だ。心配損だな、と伊達はため息をついた。
「たしかにおまえらの関係は客観的に見て怪しいが、ギャグはさておいても火野の身体は大事にしてやれ」
それを聞いた映司も、医者の後ろ楯は心強いのか勢い込んで言う。
「そうだよ、困るのはおまえじゃないか」
だが冷淡なグリードは少しも動じなかった。
「動けりゃいいんだ。そいつはそんなにヤワじゃない」
ケンカするほど仲がいい、のなら心配はいらない。ときどきそう見えない瞬間があることが問題だった。
「映司」
アンクは映司の頭に手を伸ばした。むりやり引き寄せたかと思うと、顔を近づける。
「え……」
後藤が凍りついた。伊達も突然のことに目を疑った。
アンクは映司の頭を押さえつけて、強引に唇を重ねていた。貪る、といった表現が正しいだろう。ねじ込んだ舌が絡み合うのがいやでも見える。見せつけているのだ。
「んぅっ……ん……」
映司はアンクの両腕をつかんでもがいていたが、やがてむりやりに引き剥がす。
「……なにするんだよ!」
本気で嫌がっている様子だ。引き剥がしたほうも剥がされたほうも険悪な表情で、どちらが殴りかかってもおかしくない。
「なっ、なんだかよくわからないがやめろ! 火野が嫌がってるじゃないか!」
見ていられなかったのか、後藤があわてて割って入った。
袖で口を拭う映司と、濡れた唇を舌で舐めずっているアンク。後藤の肩越しに睨み合う目には、露骨な敵意がこもっている。
「あーわかったわかった、痴話喧嘩は二人だけのときにしろ。まずは手当てだ」
手を叩いて気まずい空気を払うと、若者三人はそれぞれの表情で伊達を見る。
「なんかすいません」
真っ先に我に返った映司はぺこりと頭を下げて、二台並んだライドベンダーのほうへ走っていった。苦笑こそしていたが、これといってダメージを受けているようには見えない。
行く先が同じアンクも、とがった靴先をそちらに向け、しかし頭だけこちらをふり返って赤い舌を見せた。
なにかの牽制なのか、単なる嫌がらせか。伊達はつき合って舌を出してやってから、あれは子供だと思って接したほうがいいかもしれないと思う。
「やれやれ……俺たちも行こっか、後藤ちゃん」
相棒の肩に手を置いて抱き寄せると、彼はぎょっとしたように身を硬くした。
直前に見た刺激的な光景が、ただのスキンシップに過剰な意味を与えてしまったのだろう。きまじめな後藤らしい。あえてつっこまずに笑いを噛み殺すだけにしておく。
まじめすぎる彼は、うつむいたまま口を開いた。
「あいつら、実際どういう関係なんでしょうね」
一言で返せるなら苦労はない。
「共存……いや、依存か。お互いを泣かすことにならなきゃいいけどな」
人間の助けなしでは生きられないグリードと、そのグリードの助けなしでは欲望すら持てない人間。
どう考えても、あまり健全な関係には思えなかった。

アンクは映司を引き寄せて乱暴な口づけをする。映司はアンクの後ろの壁を見つめたまま、それに応えた。
「今度は嫌がらないんだな」
「あのときは……ていうか、なんであんなことするんだよ」
「信じないからだ」
そうは言ったが、べつに伊達がなにをどう思おうとかまわない。やたら絡んでくるのが鬱陶しかったのと、メダルを根こそぎ持っていくやり方が気に入らなかっただけだ。
「比奈ちゃんがいなかったからまだよかったけどさ……」
「今度はあいつの前でやってやろうか?」
鼻で笑うアンクを睨みつけた映司は、アンクの腕をつかんでベッドに押しつける。
うつぶせにさせられて見返ろうとしたとき、背中に映司が乗ってきた。
「おい……っ」
肩の後ろに唇が触れる。それから映司はアンクの両手をしっかりと押さえ込み、小さく呟いた。
「爪、立てられないようにね」
「考えたな……」
思わず呻くが、この体勢では抵抗しづらい。後ろから抱き込まれ、一方的に脱がされ愛撫を受ける。映司の「作戦」なのはあきらかだった。
「映司……」
「……なに?」
真剣な声が身体を通して響いてくる。そのあいだにも大きな手はアンクの中心を握り込み、薄い胸を撫でさすっていた。
「ちゃんと最後までやれ……手抜きしたら承知しねえぞ……」
「……………」
大きく息をのむ音が聞こえる。返事はなかったが、後ろに遠慮がちな指が這わされて、アンクは枕に顔を押しつけくすくすと笑っていた。
厭きるほど念入りに準備をした映司は、アンクの腰を抱いてゆっくり楔を打ち込んできた。
「ぁ、ん……っ」
思わずこぼれた嬌声に怯んだのか、動きが止まる。
同時に、彼の欲望が質量を増した。
「やめるなバカ……余計苦しい……」
肩越しに睨みつけてやると、彼は戸惑ったようにうなずき腰を進める。そのたびにアンクは甘い声を上げ、おののく映司を嗤った。
「ねえ……どこも、痛くない? だいじょうぶ?」
「うるせ……っ」
震える声で問いかけてくるくせに、背中に感じる呼吸も鼓動もひどく速い。このリズムで一気に絶頂へ押しやってくれればいいのに、映司はアンクの様子を窺わずにアンクを抱くことができない。
「映司、もっと……もっとだ!!」
欲望を求めつづけるグリードは、苛立ちのままシーツに猛禽の爪を立てて引き裂いた。
映司の腰に残したのと、おなじかたちに。


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