映司/アンク

2010_仮面ライダーオーズ,[!],[R18]

【寒がりと毛布と八つ当たり】

本性が鳥である彼は、高いところが好きだ。
わざわざ家具を積んで映司を見下ろす位置に自分の寝床を作ったのもそのせいだった。一度そこへ上がると、比奈に引きずり下ろされるか空腹に負けるかでもしないかぎり、下りてこようとはしない。
その高慢なグリードが、映司のベッドにいるのはどういう風の吹き回しか。
いや、映司にはわかっていた。
まず普段よりも苛立っているのは見たとおりだ。
今日もヤミーは出なくて引きこもっていれば、比奈に叱り飛ばされ知世子に哀れみの視線を受け、おまけに稼いだばかりのメダルをごっそり鴻上に持っていかれ、やり場のない怒りをどこかにぶつけたがっている。
そして、今夜はひどく冷え込んでいるのも要因のひとつだった。
暑さにも寒さにも慣れている映司には窓際のオイルヒーターで充分だったし、居候だからと光熱利用はいつも控えめにしている。だがアンクのほうは寒さに弱いらしく(アイスが好物のくせに!)、おまけに脂肪の少ない肉体に間借りしているものだから、映司と体感温度が同じというわけではないようだ。
それでおとなしくベッドにもぐり込んでくるだけなら、映司もアンクとアンクが憑依している彼を暖めることはやぶさかではないのだが、そんなかわいらしい相手なら最初から苦労はない。
毛布を引き剥がし、身震いする映司を傲然と見下ろしながら、彼は乱暴に映司の下着を引き下げる。そしてわずかなためらいもなくそこへ顔を寄せようとした。
「わーっ、それはダメ!!」
あわてて頭を押しやれば、アンクは意地悪く目を細め、ちろりと舌を覗かせた。
「気持ちよくしてやろうってのに、なにが不満だ?」
映司がアンクの性質をよくわかっているのと同じく、アンクも映司の性格を掴みはじめていた。どこからが譲れないか、なにをすればいやがるか。だからといってお互いにうまくやれるわけでも、相手を自在に操れるわけでもなかったが。
「じゃあおまえがやれ」
まるで映司をブーイングするかのように、親指を下に向けてアンクは自分自身を指す。
「……………」
自分は、するのもされるのもかまわない。生理的に抵抗を覚えないわけではないが、断固拒否する理由はない。それをしても自分が揺らぐことはないと思えば、たいていのことはできる。
だが、目の前にある身体はちがう。するのもされるのも耐えがたいはずだ。断るのが正しいということはわかっている。問題は、アンクのほうもそれを完全に理解していて、わざと映司にやらせようとしていることだった。
「やらないなら俺がしゃぶってやるだけだ」
選びようのない二択。
「最初からそのつもりだったな……」
ストレスのたまったグリードを宥めるのは容易ではない。しかも賢い部類に入るから余計たちが悪い。
いちばん困るのは、映司が断ったせいで他のだれかにこの衝動をぶつけられることだ。それが比奈であれ後藤であれ、いずれもただならぬ結果になるのは見えていた。自分のところで食い止められるなら、被害は最小限で済む。
映司はため息を飲み込んで勝ち誇った顔から目を逸らし、その足のあいだで頭を下げた。

「ほんとうにヘタだな! 少しは学習しないのか!」
「じゃあやらせないでよ……」
むせながら、口の中のものをティッシュに吐き出す。文句は言うものの、アンクは熱っぽく潤んだ目をすがめて映司を見下ろしていた。
「満足した?」
「んなわけあるか」
予想通りの答えが返ってきて、ついあきらめの混じった苦笑が洩れる。
「ああちょっと待って……」
ベッドの横にある棚の引き出しから取り出したものを見て、アンクが眉をひそめた。
「またそれか」
今のアンクはコンドームがなぜ必要かを理解はしているが、だからこそ使いたくなさそうだった。アンクが望むのは映司を凌辱することで、まちがっても愛と優しさに満ちたセイフセックスではない。
それでも映司は彼にそれを突きつける。
「明日、俺が戦えなくなってもいい?」
「ちっ……」
映司の身体が使い物にならなくなって困るアンクと、アンクの暴挙によって泉信吾の身体が傷つけられることを恐れる映司とはその意味で対等だった。常に双方が譲歩を迫られるのだ。
アンクは映司の手からコンドームを奪い取り、それからシャツの胸ぐらをつかんで全体重をかけてくる。
木製の頑丈なベッドが、倒れ込んだ二人の身体を受け止めて、かすかに軋んだ。

欲がないことと執着がないことは全くちがう。
食べられなければあきらめるが、どうせなら美味しいものが食べたい。着るものだって余裕があれば自分の好みで選びもする。事情があってだれかと不本意に肌を重ねることがあっても、楽しんではいけないとは思わない。
「ぅあ……っ!」
背中をのけ反らせる映司の腰をつかんで、アンクは思いきり突き上げてくる。楽しいかと聞かれたら、どちらかといえば今のところ楽しくはない。
「おい、こっち見ろ」
自分も苦しげな息のあいだから、彼はそれでも声を弾ませて語りかけてきた。
「自分とヤってる男の顔は見たくないか、ええ?」
そう言う声はとても楽しそうだ。悪趣味だとは思うが、言ってやるとさらに喜ぶだけなので黙って目を上げた。
整った顔が上気している。
こんな関係にならなければきっと気づかなかった。半眼に見下ろす切れ長の目も、薄く開いてわずかに笑みをかたちづくる赤い唇も。見てくれの美醜で人間は決まらないとは思うけれど、彼はたしかに美しい顔立ちをしている。
そして、その美しさに凄みを与えているのはたぶん、その身体に入り込んだ怪物の性だ。人間の身体を通じて得ている快感に身をゆだね、細い身体をくねらせて、楽しげに甘い喘ぎを洩らして。
なにも考えずぼんやり彼に見とれていると、その顔が不機嫌そうにしかめられる。眉を寄せたままの顔が近づいてきたかと思うと、声を出す間もなく口をふさがれていた。
「んぅ……」
眩暈がするほど長く舌を絡めたアンクは、お互いの腹に潰されている映司の屹立にも指を絡めてきた。
「……!!」
アンクが映司に触れるときは決まって、仰々しい鷹の右手を使う。
爪が腹や急所をかすめるたび映司は息をのむが、いつでも肌を裂けるはずの彼はとくに痛みを与えることはしない。硬い掌で器用に映司自身を包み込み、明らかに射精を促す愛撫をよこすのが常だった。
「ん、ふっ、ぅんん……」
内側の性感を刺激されながら、昂ぶっている性器を直接責められ、声すら出せないまま、追い上げられていく。あちこちの痛みを忘れるほどに。
どうしてアンクが自分だけで楽しまず、映司に快感を与えるようなことをするのか、最初はわからなかった。今はなんとなく察している。
受け入れるだけでとくにアクションを起こさない映司は、行為の最中もすぐに気を逸らす……少なくともアンクからはそう見える。それが気に入らないらしい。こちらが全力で嬲っているのだからおまえも全力で嬲られろ、という理屈だ。
「……あああっ!!」
呼吸に限界が近づき、彼の頭をむりやり引き剥がした、と同時に奥を深く穿たれ、下半身のほうも限界を迎える。
「く、ぁは……っ!」
強く締めつけられたアンクも、汗を散らして映司の中で達した。
映司を貫いていた欲望と、映司の欲望を握りしめていた鷹の手が、それぞれ余韻もなくあっさり離れていく。
「は……」
霞む視界の中で、不敵な笑みを浮かべた口が、赤い右手に浴びた白濁を舐めているのが見えた。
やめてよ、その身体で……と言うだけ言って目を閉じる。彼が自分の後始末をしているのを傍らに感じながら、自分も拭かないと寝られないな、などと考えていた。
不意に、夜の静寂に似つかわしくないシャッター音が聞こえた。
「?」
目を開けた映司に突きつけられていたのは、高性能の携帯端末。
「よく撮れてるぜ……ネットに流してやろうか?」
「どうぞご自由に……」
そう返してやると、端末の向こうでにやにやと笑っていた顔が一変して険悪になる。落胆の表情だと映司は知っていたが、残念ながら彼の機嫌をよくすることはできなさそうだ。
「あ、でも俺が変な有名人になっちゃったら知世子さんや比奈ちゃんに迷惑かかるから、ここ出ていかないとな……」
映司の呟きに露骨な舌打ちをして、アンクは端末の画面に指をすべらせた。
本気でやるつもりかな、さすがにちょっと恥ずかしいな、などと考えていると、彼がシーツの上に端末を放り投げる。
「おまえのみっともない写真なんか保存しておくだけ容量の無駄だ」
わざわざデータを削除したことを知らせるのは、恩を売るためだとわかってはいる。それでも無用な危機が回避できたことに満足して、つい頬がゆるむ。
「アンク」
「なんだ」
低く呻る彼を手招きして、薄い肩を引き寄せた。
「もう寝るよ」
「待て、こんな狭苦しいところで貴様と仲良く同衾だ!?」
いつもはもっと窮屈な場所で寝てるじゃないかとか、今まで仲良く絡み合ってたじゃないかとか、そもそもこれが目的だったじゃないかとか、のどまで出かけた反論をぐっと飲み込む。
「その身体で風邪ひかれたら困るし。比奈ちゃんに看病されたい?」
「く……」
歯ぎしりしかけたアンクは、しかしなにも言わずに毛布をかぶって映司の横に倒れ込んできた。こちらへ背中を向けていて表情はわからない。少なくとも笑顔ではないだろう。
狭さを軽減しようと、映司もアンクのように身体を横にする。背を向けなかったのは、単純に警戒心だった。命を狙われるとは思っていないが、どんな行為であっても不意打ちは心臓に悪い。
二人とも布団からはみ出さないように毛布を掛けなおし、ようやく目を閉じた。
眠くなってきたころ、胸に軽い衝撃と重みを感じる。
「え……」
映司の懐に、華奢な背中が入り込んでいた。彼らしからぬ無防備さに驚いて金髪を見下ろす。
やはり、というより映司が思っていた以上に、寒かったらしい。
いっしょに寝ようと提案してよかった、と改めて思う。映司が寝ているあいだに一人で震えられては、それこそこちらの寝覚めが悪い。
これだけなら毎晩でも喜んでつき合うのに、と思いながら、再び毛布を掛けなおして彼をくるんでやる。
この怪人が嫌いなわけではない。……まあさほど好きでもないにしても、いっしょにいる以上は助けてやりたい。助けなければ後悔するはずだ。それがこんな些細なことであっても。
「おやすみ……」
そっと囁くが、狸寝入りか熟睡か返事はない。
今だけはおとなしい鷹を抱いたまま、映司もまた深い眠りに落ちていった。


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