侘助/理一

2009_サマーウォーズ,[!],[R18]

   01 二年後

 暑い夏の日、その子はやってきた。
 祖母に手を引かれて。

「お母さんって呼んでいいのよ」
「え……」
 少年は大きな目をさらに見開いて、目の前にひざを進めてきた大人を見上げた。
 大きな屋敷、奥の座敷に集められた家族。死んだ母とは似ても似つかぬ顔立ちの見知らぬ女性をいきなり母と呼べと言われても、すぐには声も出ないのだろう。
 それでもその優しげな表情にうながされ、少年は口を開いた。
「……やだ」
 部屋に小さな声が、しかしはっきりと響く。
 声の主はその少年ではなかった。姉の横に礼儀正しく正座していた、同い年くらいの男児が、うつむいたままで発した言葉だった。
 子どもらしいふくよかな顔をした彼は、母の前に座っている痩せぎすの子をちらりと見て、また目を伏せる。
「理一!」
「りぃちゃん!」
 母と姉の声が同時に飛ぶ。それでも前言を撤回する気はないらしい彼に、祖母が穏やかに話しかけた。
「理一、べつに侘助があんたのお母さんを取ろうってわけじゃないんだ。お母さんは、今までどおり理一のお母さんで、それから侘助のお母さんにもなるだけなんだよ」
 理一にはなにひとつ意味がわからなかった。親戚でも友だちでもない、見ず知らずの少年がいきなり家族になるという。それも理一と理香の、兄弟に。
 実際は腹違いの弟にあたるその少年を「うちの子」として受け入れる心がまえは、万理子にはできていた。ただ幼い子どもが混乱しないよう、姉ではなく母という立場を引き受けたというだけのこと。
 娘の理香も、もう一人弟が増えることにそれほど抵抗はなかった。親戚にも同世代の子は多い。従順な遊び相手が多くなるぶんにはとくに困ることもない。
 その異分子を拒絶したのは、女三代の愛を独占してきた末っ子の理一だけだった。
「今日から侘助はうちの子になるの。仲良くできるわね?」
「はい!」
 母の言葉に元気よく答えた姉がひじでつついてきて、弟は仕方なく重い口を開いた。
「……はい」
 蚊の鳴くような声が畳の上に落ちる。
 理一はおかっぱに切りそろえられた前髪の下からちらりと相手を見た。侘助も、蓬髪のあいだから鋭い目つきを向けた。
 少年たちは睨み合い、そしてどちらからともなく目をそらした。

  二〇一二年 夏

「おばさんが、呼んでる」
 仏間で手を合わせたままぼんやりしていると、声をかけられた。
「次はなんだって?」
 合わせた手を下ろして理一はゆっくりと立ち上がる。気だるげな足音が廊下から聞こえてきたから、ふり向かずともだれかはわかっていた。
「二階の電気がどうとか」
「ああ、おれの部屋だ」
 向き直れば予想どおり、鴨居に頭をぶつけそうな長身が、開いたままの襖から顔を覗かせていた。理一は替えたばかりの仏壇の花を見やってから、次の仕事に向かうべく部屋を出た。侘助がその後ろを歩いてくる。
「おまえは?」
 彼に与えられた仕事を尋ねると、肩をすくめて「もう終わった」とうそぶく。
「理一を呼んでくること」
「子どもか」
 少しばかり他の親戚連中より早く帰ってきているのだから、もう少し働くべきだと理一は思う。しかし侘助にそんな頭はないだろう。幼いころからいつも理一に押しつけては逃げ出していたのだから。
 台所から母と姉の声がしたので、迷わずそこへ向かう。
「ねえ、蛍光管って……」
 思わず言葉を切ってしまったのは、踏み台に腰かけた母がこめかみを押さえていたからだった。
「だいじょうぶ?」
「平気よ……」
 こちらを見て微笑む母の顔色は、老いを差し引いてもあまりよくない。傍らで覗き込んでいる理香の表情も曇っている。
「ここは私がやるから! ちょっと部屋で休んでたら?」
 万理子は子どもたちを見まわして笑顔を作った。
「ありがとう。でもこれからお客さんがたくさん来るのに、寝てなんかいられないわ」
 二年前に現当主となった万理子だが、なんでも自分でやりたがる、世話好きな性分は今さら変えられない。自室でどっしりとかまえていればいいと甥姪や嫁たちが言うのも聞き流し、未だに台所を自分の城としている。
「今夜は身内だけだから手伝ってくれるわよ! もうすぐ聖美や直美も来るし、母さんはじゃまにならないように寝てて!」
「あら、まあ……」
 ずいぶんな言いようだが、姉が母を気遣っているのはよくわかる。理一も加勢した。
「いいから、休んでなよ。あとはおれたちがやるって。な、侘助?」
「え?」
 それまで理一の背後で所在なく身体を揺らしながら顛末を眺めていた侘助が、いきなり会話に引きずり込まれて目を見開く。三人目の存在にようやく気づいた万理子も驚いた表情を隠さなかったが、ふっと笑って目を伏せた。
「じゃあお願いしようかしら。あ、鶏肉は明日唐揚げにするからまだ使わないでちょうだい、お酒はもうすぐ配達が来ると思うから、それと……」
「はいはい、わかってますって。母さんはゆっくりしてて!」
 母譲りの強引さで、その母を台所から追い出した理香は「用意はいい、野郎ども?」と眼鏡を押し上げる。理一も逃げようとした侘助の腕をつかみながら、「サー、イエス、サー」と姉に向かって米陸軍風の敬礼をした。
 めったに台所仕事などしない男二人は、実質理香の指示、というよりは命令に従って動くことになる。理一はジャガイモの皮を剥きながら、姉に話しかけた。
「お袋の具合、まだ悪いの?」
「まだって?」
 黙々とタマネギの皮を剥がしていた侘助が顔を上げる。
「春先にちょっと入院したのよ。そのときはそんなでもなかったから、あんたには連絡しなかったけど。最近あんな感じで立ちくらみとか、多くなってきてね。体重も落ちてるみたい」
 たしかに、少し痩せたような気がする。ただ、数ヶ月ごとにしか会わないから、「老けたなあ」という印象で済ませてしまうことが多い。変化に気づけるのは、ともに暮らしている姉くらいだろう。
「聞いてねえ……」
 もそもそと呟く侘助を見て、理香は首をかしげた。
「あんたが気にすると思わなかったから……」
「べつに。聞いてねえって言っただけだ」
 厚い前髪に目元を隠して、玉ねぎの皮を剥く彼の心情が、理一にはわかるような気がしていた。
 侘助にとって最も大切な存在だった陣内栄は、祖母であり母であり、ときに厳格な父の代わりさえも果たした。その栄の娘で、彼女の跡を継いで当主となった万理子のことが、気にならないはずがない。侘助は万理子を案じているのだ。
 そんな彼を憎からず思ったのか、姉がわずかに声を和らげる。
「今度なんかあったら、あんたにも連絡するわね」
「いらねえよ。東京からバイク飛ばして来れるやつといっしょにすんな。何時間かかると思ってんだ」
「そうよね、なのに盆と正月と花祭りはちゃんと帰ってくるなんてえらいわ」
「夏休みとクリスマスとイースターだよ! 時期ずれてんだろうが!」
 明らかに照れ隠しの憎まれ口だったから、理香もいつものように眉をつり上げたりはしない。そんな理香と侘助を、理一は他人事のようにぼんやり眺めていた。
 祖母が他界してから二年が経つ。侘助はあいかわらず日本には住まず、アメリカのウェブサービス会社で働いている。仕事内容を詳しく聞いたことはないが、今はOZ関連のシステム開発に携わっているらしい。
「おい、終わったぞ」
 ボウルを理香に押しつけて出ていこうとする侘助の前に、すかさず包丁とまな板が置かれた。
「じゃあ次は切って。やり方はわかるわよね。こことここ落としてから、こうやってざくざくっと。はいやって!」
「……………」
 嫌そうな表情を隠そうともせずに理香を睨みつけた侘助だが、結局タマネギと包丁を手にとって作業をはじめる。と、また姉の声が飛んだ。
「ちょっとあんた、爪伸びてんじゃない! 汚いわねえ、切ってきなさいよ」
「あとでいいだろ」
 台所を出るのが面倒とばかりにもたもたとタマネギを切りはじめては、理香もそれ以上言えない。
「くっそ……」
 そのうち、侘助の口から迫力のない悪態が洩れるようになる。タマネギを切りながらぐすぐすとすすり上げる男を、理一は大根の皮を剥きながら窺っていた。幼いころの顔などもう覚えていないが、いじめられて帰ってきたときもこんな表情だった気がする、と思っておかしくなる。泣きべその顔で強がって、心配する理香にやつ当たっていたものだ。
「……なに、笑ってんだよ」
 涙目の侘助が理一を睨みつけた。
「いや……タマネギにいじめられてるな、と」
「わけわかんねえ……」
 袖口で目元を拭っては、また腕まくりをして、侘助は必死にタマネギと格闘していた。
 侘助が台所で手伝いをしている姿など、ほとんど記憶にない。だから、小さいころまで遡って思い出してしまうのだろうか。それでも思い起こされるのは、手伝いなどしない、ひねくれた少年の小憎らしい姿だけだったが。
「あああ……もう限界だ、コンタクトが……」
 タマネギの攻撃に陥落した侘助は、ついに目を押さえて台所から逃げ出した。
「ちょっと侘助……」
 姉の声も届かない。
「あいつコンタクトなの?」
「それこそ聞いてないな」
「ああもう、逃げられた! ほんっと変わらないのね!」
「いや……」
 遠ざかる足音を聞くと、二階の寝室ではなく広間へ向かったようだった。母も先ほどテレビを見に広間に行ったから、なにかを話そうというのかもしれない。
 母ではない「万理子おばさん」を避けつづけてきた侘助にしては、なかなかの成長だ。台所で泣いているより、よほどこの家のためになる。
「ま、できることをやればいいさ」
「じゃあ理一、タマネギもよろしく」
「え……」
 今度は理一が泣かされる番だった。

 夕方近く、いとこの篠原夫婦がそろってやってきた。
「夏希、やっぱりアメリカから帰れないって?」
「そうみたい」
 出迎えた理一に、夏希の母親の雪子は優しげな笑顔で当然のように荷物を押しつけようとする。
「なんだかねえ、課外活動とかで今月いっぱい、どこだかに行くんですって。ボランティアとか、ボーイスカウトみたいなものなのかしらね?」
 その荷物をあわてて確保した父親の義雄、理一から見ると義理の従兄に当たる初老の男性は、申しわけなさそうに頭を下げた。
「夏希が留学中でなければ、健二くんもいっしょに来てほしかったんですがね」
「でも、健二くんも予備校で忙しいでしょう」
 篠原夏希は、大学二年になったこの春、アメリカへ留学した。その「婚約者」である小磯健二といえば、数学オリンピックへのリベンジを果たしたまではよかったが、肝心の大学受験には失敗。現在は都内の予備校へ通っている。
 二年前の「あの夏」以来、陣内家の英雄となった二人の若者の来訪を、親戚中が待ちかまえていた。去年の夏などほぼ主賓あつかいだったほどだ。理一も例外ではなかったから少し残念な気分になる。
「遠距離恋愛かあ」
 甘ずっぱい響きだが、現実は甘くはない。
「そうね……でも忙しくてかまってもらえないって、電話で愚痴ってたわよ。そろそろ倦怠期なのかしら」
「二年で?」
「若いうちは時間の流れがちがうから……」
 会話をする気があるのかないのか、雪子は「疲れたぁ」と言いながら一人で奥へ行ってしまう。ちょうど外でタバコを吸っていた侘助がもどってきたから、理一はその問いをそのまま彼に放り投げた。
「二年目の倦怠期なのかなあ」
「健二に聞けば? アドレス知ってんだろ?」
 興味がなさそうに呟く侘助に、理一は満面の笑顔を向ける。
「……おれは経験ないんだけど、親戚のおじさんから自分の恋愛事情について根掘り葉掘り聞かれるのってどういう気分だと思う?」
 侘助は考えもせず答えた。
「最悪だろうな。しかもまだ親戚じゃねえし」
「いやあ、それはどうだろう」
 陣内家にとって彼はもう身内だ。理一にとっても侘助にとっても、それは同じだった。数年に一度会うか会わないかの遠縁に比べたら、健二のほうがよほど身近な気がする。きっと今日の宴では皆が残念がるだろう。
 リビングへ行くと、古びたソファに座った男子中学生がノートパソコンに向かって一人でしゃべっていた。もしやと思ってソファの後ろに回ってみる。
『佳主馬くん、後ろ後ろ!』
 モニタの中の通信相手が、一昔前のコントのように理一を指さした。
「え……」
 言われるままに真後ろを向いた池沢佳主馬は、背もたれに寄りかかっている理一に怪訝そうな目を向ける。
「……なに?」
 佳主馬の問いを笑顔で聞き流し、つまり無視して、理一はウェブカメラを覗き込んだ。ウインドウに映っているのは、ドット絵のサル……と同じ色の眼鏡をかけた青年。
「佐久間くん、お久しぶり~」
『ご無沙汰してます、自衛隊の理一さん!』
 ノートパソコンの貧弱なスピーカーから、なつかしい声が聞こえてくる。健二の同級生で「あの夏」に少なからず活躍した、理一にとっては戦友のような存在だ。ただし未だに佐久間という名字しか知らないけれど。
「大学生活はどう?」
『どうって、今夏休みですけど……あ、でも楽しいですよ。高校んときよりぜんぜん時間あるし。夏休みも、こんな休んでいいの?って感じですよねぇ』
 気の弱い友人よりは要領も手際もいいらしい青年は、当然要領よく身の丈に合った大学へ進学した。一方の健二は、本命の受験を凡ミスで落とし、すべり止めでもインフルエンザにかかってしまってボロボロだったらしい。あまりに彼らしすぎて、陣内家全員でため息をついてしまったものだ。
「……おじさん、暇なの?」
 佳主馬が苛立ちを含んだ声で見上げてくる。
「人が増えてきたからね。晩ごはんまでは暇人」
 嘘ではない。台所に女があふれるようになると、使えない男など病人よりもじゃまになる。リビングの片隅でチャット中の佳主馬にちょっかいを出していても咎められることはない。佳主馬からは案の定、呆れた顔をされた。哀れみもこもっていたかもしれない。
「健二くんは元気? 今年も来るかと思ってたんだけど、やっぱり予備校は忙しいのかな?」
 友人の名前が出たとたん、佐久間の笑顔が曖昧に崩れた。
『あー、それがですねえ……最近先輩とうまくいってないらしくて……』
 大学進学、海外留学。どんどん前へ進んでいく夏希に、失敗つづきで足踏み状態の健二は戸惑うばかりらしい。時差もあって電話やチャットの回数は激減し、会話もかみ合わなくなる。近ごろでは夏希が自分への興味を失いつつあるのでは、とさえ思うようになってきたのだと、佐久間は説明する。
「へえ。佳主馬知ってた?」
 理一は隣で片ひざを抱えている佳主馬に尋ねたが、「ゴシップには興味ない」と冷淡な言葉しか返ってこなかった。くだらない用件でチャットを中断されたおかげで不機嫌になっているらしい。横のブラウザにはコードらしきものが開かれているから、二人でなにかのプログラムをいじっている最中だったのだろう。
 理一は二人にチャット割り込みの詫びを入れ、キング・カズマが本気で機嫌を損ねて納戸に閉じこもる前にその場から退散した。
「……というのが健二くん側の事情みたいだよ」
「遠距離恋愛によるすれ違いってわけね」
 理香が腕組みをする。
 親族ばかりとはいえ大所帯の食卓は、当主の万里子が自室で寝ているせいもあってか理香が仕切っていた。
「暇人ばっかりか、このうちは」
 そう呟いて手酌でビールを飲んでいる侘助に、翔太が間髪を入れず噛みつく。
「ばっかやろう、健二は夏希の婚約者なんだぞ! ここで別れるなんて、またいとこのオレが許さねえ!」
「またいとこになんの権限があんの」
 叔母・直美の冷淡なツッコミに翔太がぐっとつまったところへ、妹をひざの上に乗せていた佳主馬が、いかにもうんざりといった調子のため息をついた。
「ほっときなよ、二人でなんとかするよ」
 あまりにも正論だったが、それを聞き入れられる翔太ではない。
「てめえもだよ! 健二がてめえのまたいとこにならなかったらどうすんだよ!」
「どうもしないよ」
 佳主馬の言葉はまたも正しすぎるほど正しかったから、大人たちはどっと笑った。
「だからまたいとこって……」
 なおもだれかが呟く横で、理香は雪子へと矛先を向けている。
「またいとこはともかく、雪ちゃんには将来の息子よ? なんか言ってやってもいいんじゃないの?」
「でも、健二くんもまだ若いんだし、今すぐ夏希に決めなくてもいいんじゃないかな。それにそういうこと、親が口出しするのもねえ」
 あいかわらずおっとりと言う彼女に、理香が翔太の勢いで反論した。
「母親がそんなことでどうするの! もう向こうのご家族にあいさつもしたんでしょ?」
「お母さんにだけよ。健二くんは母親似なのねーって思ったわ」
 マイペースで通っている雪子は少しも動じず、自分の夫をふり返る。
「お父さんは、夏希がお嫁に行かないほうがいいわよねえ?」
「いや、まあ……でも、健二くんはいい子だし……」
 穏やかに苦笑する彼は、まちがいなく陣内家の婿の顔をしている。と、皆が思った。
 両親はまるであてにならないと知った理香は、弟たちをきっと睨みつける。
「理一侘助!」
 突然名前を呼ばれて、二人は思わず背筋を伸ばしていた。
 理香が二人の名前をつなげて呼ぶのは家族らしい横着だったが、十年のブランクのあとでは妙に楽しそうに聞こえるからふしぎなものだ。きっと彼女も空白の期間中ずっと、二人をまとめて呼びたかったのだろう。
「理一は健二くん、侘助は夏希をマークすること! 未来の婿を守るのよ!」
 おそらくは東京とアメリカ、居場所による指名だとは思うが、あまりに唐突かつ曖昧な指令で、二人は顔を見合わせてしまう。
「なんでおれが……」
「まあ、がんばってみるよ」
 二人はそれぞれに答え、申し合わせたわけでもないのに同時に肩をすくめていた。
「そういやあんた、いつ向こうに帰るの?」
 理香の問いに、侘助は煮物へ伸ばした箸を止めて眉を寄せる。
「言わなかったか? 今、東京支社に出向中」
「え、転勤?」
 ちがう、と首を振り、侘助は煮物を口に放り込みながらもぐもぐと説明をはじめた。
「世界中の全社同時に新システム導入するから、本社の開発担当から何人か要所に派遣されて、指導とメンテすんだよ。それに半月くらいかかるから、しばらく東京にいる」
 その説明を大まかにでも理解できたのは半分もいなかったが、とりあえず皆がほうほうとうなずく。
「じゃあ、ずっとホテル住まい?」
「豪勢だなあ」
 ため息をつく親戚たちを「まさか」と鼻で笑い、侘助はコップのビールを飲み干した。
「ウィークリーマンション。休み終わったら入る」
 そこまで言って、ふっと理一の顔を見る。そしてどこか得意げな笑みを浮かべた。
「遊びに来てもいいぞ」
 その場のメンツで近場に住んでいるのが理一だけだったからというのはわかるのだが、明らかに二人にしか通じない意味も込めている。妙に自慢げなのは、冷静な理一を驚かせることができたからだろう。
「……暇があったらね」
 気のない返事は親戚連中の質問攻勢にまぎれて、注意を払う者はなかった。

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