銀時/全蔵

2007_銀魂,[R18]

銀魂:坂田銀時/服部全蔵


ムードなんて気の持ちよう

夕暮れ時の公園で、二人の男がそれぞれ一つずつベンチを占領していた。
一人は中央に悠然と座って雑誌を読みふけっているし、もう一人は端から端まで占拠するように寝そべっている。これからの時刻、ゆっくり座って愛だの恋だのを語らいたい恋人たちにとっては、甚だ迷惑な光景だった。
「なあ……」
「ん?」
横になったまま、視線の先でいちゃつく男女を眺めていた銀髪が声をかけた。それに応じて、雑誌……ていうかジャンプ……を読んでいたロングコートが頭を上げる。
「忍者ってさあ、アレだろ、なんかエッチな技とか使えるんだろ?」
「はあ?」
突然のネタ振りについていけず、全蔵はとりあえず銀時の視線の先を追った。影の濃くなってきた時分だからか、あたりのカップルの睦み合いがかなり遠慮のない展開になってきている。つまりそこからの連想のようだ。
「だからあ、そういう忍術とかあるんだろ~?」
房中術の類を指しているのだと気づき、「ああ」とだけ呟いて再び誌面に目を落とす。
「あるよ」
「マジでか!」
自分で聞いておいて、それは予想外の答えだったらしい。
「そりゃまあ、ムリヤリ口割らすとか、穏便に情報聞き出すとか……いろいろあるっちゃあるけど」
全蔵の抑揚のない言葉に、銀時は身を乗り出してきた。
「マジかよ! すっげー、忍者すっげー! 俺にも教えてくんね?」
「はあ? そういう流れ? どういう流れ?」
思わず顔を上げれば、死んだ魚のような目に少年のような無邪気さが垣間見える。正直、気味が悪い。童顔なのにおっさん、とか、犬なのに人面、とか、格闘マンガなのにラブコメ展開、とか、そういう種類の気味悪さだ。
「いやほら、後学のためにっつーの? 俺も若さだけじゃもうやってけない感じだしさあ。これからはテクで勝負してこうかと思ってんのよ」
互いの年は知らないが、同じ時代をくぐってきた目をしている。若さを誇れるのは精神年齢くらいだろうか。
全蔵は不純極まりない銀時の要求について暫し考えをめぐらし、読みかけのジャンプを閉じた。
「それっておまえ……俺がおまえにナニをアレしてもいいってこと?」
「おう、てめーのナニくらいアレしちゃってもアレだ、どーってことな……あれ? 俺のソレがアレされんのか? あれえ? ……まあ気持ちよくなれりゃどっちでもいいか」
「あ、そう……」
全蔵の口元に、薄い笑みが浮かぶ。それを見た銀時の顔にも、似たような笑いが広がった。

昼間でも薄暗い公衆トイレの中は、今や互いの顔もおぼろげなくらいには暗くなっている。大した役にも立っていないくせに、ばちばちと明滅する蛍光灯が煩わしい。
「うおお、すげ……あーそれすげえイイ……おおお、キくぅ……」
悶える、というには多少ならず色気に欠ける声を上げながら、銀時は全蔵の腕に指を食い込ませていた。
立ったまま片足を持ち上げられ、前も後ろも露わにしているというのに、怯むようすもない。ベンチに転がっていたときよりちょっとテンションが高い程度だ。
こちらの動きに合わせて腰を揺らすさまも妙に馴れた感じで、普段どおりのふてぶてしい態度と相まって、かわいくないことこの上ない。
「おまえさあ、もうちょっと静かに……や、静かにしなくてもいいんだけどさ、もうちょっとこう、ムード出していけないわけ?」
全蔵が半ばうんざりした口調で呟けば、銀時もバカにしたような口調で返してくる。
「なに……おまえ、ムードとか気にするタイプ? 回るピンクのベッドとかで盛り上がれるタイプ? ホテルとか行きゃよかった?」
「ちっげーよ! 萎えるんだよ、てめーの顔とか声とか……」
そこまで言いかけて、ふと我に返った。
これは単なる交渉術だ。本来、自身が快楽を得るための行為ではない。相手がどれほど醜悪であろうとも、冷静に責め立て悦ばせ苦しませる……それだけを考えていればよい。任務ではなくただの遊びとはいえ、相手の態度ごときで気をそがれることなどあるはずがなかった。
「……俺、すっごく盛り上がってんよ? すげえたまんないよ……あ、そこもっとやっちゃって……さすが忍者テクはちがうねえ……」
「黙れって!」
苛立ちのまま、己の口で相手の口をふさいだ。
二,三枚あってもおかしくないと思っていた舌は結局一枚で、だから押さえ込むのも楽だった。最初の何秒かは。だが言葉を発していなくても、その饒舌さは変わらなかった。
全蔵は銀時の舌を黙らせようと躍起になり、銀時が息を切らしはじめたころには、肺まで鍛え抜かれたはずの全蔵も眩暈を覚えていた。
「は……今の……」
かすれた声で、銀時が呻く。まだしゃべり足りないのかと全蔵は眉を吊り上げかけた。
「忍びのテクじゃねえだろ?」
「な……」
不覚を取った、と最中に思わなかったわけではない。
こちらが毒でも含んでいない限り、滅多なことで相手の唇に触れてはならない。舌を噛み切られないように、そして、妙な情を抱かないように。それは基本中の基本、のはずだった。
それを、この素人はすでに知っていたというのか。いや、そんなはずはない。「なんかエッチな技」が実在することすら知らなかったのだ。
全蔵の狼狽を知ってか知らずか、銀時はなおも畳みかけるように低い声で囁いてくる。
「だってなんか、すげえ気ィ入ってたし」
「…………!」
答える代わりに、ありえねえ、と呟いて、全蔵はつながったままの部分をさらに奥へとねじ込んだ。とりあえず一瞬息を止めさせることには成功したようだ。
それから、腹のあいだで揺れている銀時の昂ぶりに指を絡ませる。濡れた先端から筋を辿るように指を下ろし、銀時が身を震わせた刹那に根元をきつく押さえた。
「おい……っ」
あせる顔を覗き込み、にやりと笑ってみせる。
「そう簡単にイかせるかよ。忍びの実力を思い知りな」
「てめ……」
あわてた銀時の手が全蔵の手を引き剥がしにかかったが、全蔵の動きのほうがすばやかった。
「おっと」
巧みに袋まで握りこまれ、銀時は苦しげな呻きを上げる。
「このまま潰しちまうことだってできるんだぜ。極楽イくも地獄に逝くも俺の思うがままってわけ……パンピーが思ってるほど忍びの技ってのは生やさしいもんじゃねえんだ」
「くっそ、エロ忍者……」
濁った目に、剣呑な光が宿る。ここまできたら遊びでも本気だ。互いにようやく真剣勝負の気構えができた、というところか。
「エロ侍には言われたくねえよ。ヤりたいっつったのおまえだろ? ほれ、エロく泣いてみな?」
持ち上げているほうの膝頭に、濡れた唇を這わせて。洩れた罵声を嬌声に変えるべく、この短時間で知りつくした内側の弱点をあらゆる手で責め立てた。角度を変え、速度を変え、激しく、優しく。
「やっ、やべえって、ぁ、マジよすぎだから、ん……っ」
銀時も懸命に軽口を叩こうとしているが、成功しているとはいいがたい。
猥雑なラクガキだらけの壁に背中を押しつけ、奥歯まで噛みしめて声を殺している姿は、今までの哀れな犠牲者と同じ。余裕に見えた態度も、ただ意地を張っていただけなのだ。そうとわかれば攻め崩すのは難しくない。
もう耐えられない、とばかりに縋りついてきた銀時が、低く喘いだ。
「……あ、全蔵っ」
「!?」
壮絶な違和感に思わず動きが止まる。
この男が、まさか自分の名前を覚えているとは思わなかった。
二度も名乗って二度とも忘れられて、それからは一度も呼んだり呼ばれたりすることもなく、自分ばかりが坂田銀時というフルネームを記憶していることにひそやかな屈辱を覚えていただけ、だったのに。
それが、今このときになって……
「全蔵……!」
狼狽えたところにつけ込まれたか、単なる偶然か、銀時がきつく腕を絡めてきて、耳元に艶めいた吐息を投げかける。同時に、ぐっと腰を落としてきた。熱い襞がまとわりついて全蔵の雄を包み込み、根本から絞り出そうとするように締めつける。
「く……っ!」
こらえきれず、全蔵は銀時の中に放っていた。
その拍子に押さえつけていた指の力が弱まったようで、銀時の熱までもが勢いよく二人の胸に飛び散る。
「……すっげ……潮吹いちゃうかと思ったヨ……」
上ずった声でそれでも減らず口を忘れない男は、全蔵の肩にもたれかかってトイレットペーパーのホルダーに手を伸ばした。
「……て、めー……」
結果だけを言えば、術は破られたのだ。射精のタイミングを操作することも、相手を嬲って屈伏させることも失敗した。使用頻度の低い分野とはいえ、実力が落ちているのは認めるしかない。
ほんとうのところはなにに負けたのかわからないではなかったが、それを自覚するのは癪だった。まだ、忍びとしての腕が鈍ったのだと思うほうがマシだ。
「……忍者のエロテク、ごちそーさんでした」
肩で息をしながらも、にやついた顔でそう言う男が憎らしくて仕方がない。
全蔵はもう一度、銀時の口に噛みついた。
銀時は喉の奥で不満そうに呻いたが、すぐに心得たようすで舌を絡めてきた。

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2007_銀魂,[R18]

Posted by nickel