竜魔/劉鵬

2007_風魔の小次郎,[R18]

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月夜

なにをすることもない、静かな夜。
障子戸を開けて明るい月を見ていると、すぐ隣に人が座り込んだ。
左後ろの死角に他人が入れば、通常は全神経がそちらへ向かう。だがそこにいるのがだれかはわかっていたから、視線どころか意識すらもそちらへ向ける必要はなかった。
「寒くないか」
「いいや」
寒くはない、と明瞭に答えたはずなのに、苦笑とともに伸びてきた腕に、肩を抱き寄せられた。思わず息をつきたくなるその腕のあたたかさで、己の身体が冷えていたことを知る。
「……………」
少し頭を動かすだけで、息がかかるほど近くに相手の顔がある。死角にあるその顔を見るため、下から覗き込むようにして目を合わせた。
「ん?」
ふっと目を細めた顔が近づいてきて、唇が重なる。自分もそうしたかったのだと気づき、相手の唇を舐めた。
それにしても不可解だ。なぜ彼は、己でもわからない心がわかるのか。よもや、この自分よりも強い力を隠しているのではないか。
真剣に問うたつもりだったが、返ってきたのは苦しそうなほどに押し殺した笑い声だった。
「おまえ……それ本気で言ってるのか……?」
「ああ」
こちらの肩口にひたいを押し当てて、彼はひそやかに笑いつづけている。ほんとうにおかしいらしい。理由がわからず、わずかだが気分を害したことは、なぜか読んでくれないようだ。
「劉鵬」
なおも笑うのをやめようとしない顔をむりやりに仰向かせ、正面から口づけた。互いに低くもない鼻がぶつかって、それを避けては角度を変えて何度も接吻をくり返す。その単純な悦楽に没頭していると、なだめるような手が優しく髪をなで、そっと肩を押された。
身を離した彼は、その手で障子を閉める。月明かりに照らされた障子は白く浮かび上がり、それほど暗くはならない。
「まったく、いきなり……でもないか、今日は」
閉ざされた部屋の中で、彼がそのあたたかい腕を伸ばしてくるのを、畳に倒れこみながら招き入れた。頬に軽く唇が押し付けられるのを、くすぐったく感じながら。
「そうだ。仕掛けてきたのはおまえだ」
「はいはい、そうでした」
一見頼りなげに笑う表情は、しかしこちらの頬をゆるませるにも充分だった。同時に、冷え切っていたはずの身体の芯が熱く疼きはじめる。
引き寄せて、倒れかかってくる身体を受け止めた。そのまま頭を抱え込み、自らの要求を耳に囁く。それから、承認を求めて顔を覗き込んだ。
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような、という表現がこれほどふさわしい表情もないと思う。そんな無防備な様子までもが愛おしい。
「不満か?」
思わずこちらの口角が上がるのを見た彼は、はっと我に返ったように目を瞬かせる。
「いやあ……べつに、いいけど」
心底困惑して、しかしどこかうれしそうに、彼はもそもそと呟いた。

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