竜魔/劉鵬

2007_風魔の小次郎,[R18]

3_080300fm06_r18
3_080300fm06_r18

餓えた獣

脇腹の後ろに残る、痛々しい打ち身の痕にそっと指先を這わせると、苦笑混じりの呻きが上がった。
「……ああ。そこだ」
本人に確かめるまでもなく肌が変色している部分へ、薬を塗り込み包帯を巻く。これで手当ては終わりだ。
「すまんな。助かった」
脱いだ服を引き寄せながら、腰から上は裸の男が肩越しに笑いかけてくる。その肩にも、手当てするほどではない擦り傷や痣がついていた。
日常茶飯事、と言ってしまえばそれまでだ。自らの身体を武器として戦う男は、他の者より傷が多くなるのは自明のこと。
それを今さらどうこう言う気はなかった。ただ……
腕を伸ばし、裸の背中を抱きしめる。
「竜魔?」
傷でざらついた肩に、唇を押しつけた。抱きしめた胸や腹に、指を食い込ませる。巻いたばかりの包帯がじゃまだと、頭の片隅に僅かな苛立ちを覚えながら。
「竜魔……」
名を呼ばれて、顔を上げた。至近距離で視線がぶつかり、彼は困ったように口元を曲げて笑みを見せる。
「そんな顔するなよ」
「?」
思わず、自分の頬に触れていた。
「俺が……どんな顔をしているというのだ?」
彼はすぐには答えず、首を反らして触れるだけの口づけをくれた。
「……腹すかした野獣ってとこかな」
そう言いながらも、こちらの腕をふりほどこうとはしない。
「そうかもな」
傷だらけの身体に欲情したのだと言われれば、そうなのだろう。きっかけはそれほど重要ではない。おとなしく認め、彼の身体を畳の上に引き倒した。仰向けに転がされた彼は、あいかわらず困惑気味の微笑でこちらを見上げてくる。
「おてやわらかに、頼むぜ」
「ああ」
硬い腕、硬い胸。なめらかとは言いがたい肌を、指先でなぞっていく。くすぐったそうによじられる筋肉のかたちを、掌で確かめていく。ゆっくり、その感触を味わうのだ。
その肌に再び唇で触れようとしたとき、両手でこめかみから髪をかき上げられた。はっとして彼の顔を覗き込むと、「髪が当たって痒い」と文句を言われる。と言われたところで、今すぐにどうにかなるものでもない。
不平を封じるために、唇を重ねた。舌を絡め、呼吸を奪っていく。
彼の手はこちらの長髪をまとめて押さえつけることをあきらめ、縋るようにこちらの服をつかんできた。
口をふさいだまま、下腹部へと手をすべらせていくと、それまでおとなしかった彼がもがいてそれを阻止しようとする。
「っ、竜魔……っ」
「……なんだ?」
なにを考える間もなく、手を取られた。
「なんだ?」
二人の顔のあいだにその手を持ってきて、彼は荒い息のまま呟く。
「指輪……外せよ……」
水を差されたかたちだが、そこで初めて微笑むことができた。

金属の装飾具は外したとはいえ、細くもない節くれだった男の指だ。その長い中指を根本まで飲み込み、彼の局部は切なげにひくついている。
「…………っ」
ひそやかに、彼は息だけで喘いでいた。
声を出さないのは忍びとして当然のこと。疑問も不満もない。立場が逆でも、二人ともほとんど声を上げることはない。
だがふと、この男でも啼くことがあるのかという素朴な興味がわいた。
指をむりやりもう一本ねじ込み、ある一点を探る。場所はすでにわかっているから、そう難しくはない。
「わっ、ばか……」
案の定、あわてた声が上がる。その反応に気をよくし、ひとり微笑んだ。
「おい……」
呆れた声とともに、上目遣いで睨まれる。
「遊んでるだろ、おまえ」
「なにがだ?」
素知らぬ顔をして、何度もそこを責める。そのたびに彼は小さな喘ぎ声を洩らし、身をよじった。勃ち上がった先端は濡れて光っていて、彼の状態を如実に表していた。
「もういいから……早くしてくれよ……」
哀願にも耳を貸さず、屈強な体躯が快楽にほどけていくさまを見つめつづける。それは最高の愉悦だった。この姿を晒してほしくて、この身体に触れていたくて、少しでも行為の時間を引き延ばしたくなる。
「頼む、から……ぁっ」
彼の手がこちらの腰へと伸ばされたかと思うと、ベルトを掴まれ、その下を撫で上げられた。
「!」
「ほら……おまえだって、こんなになってるんだろ……」
自分の欲望すら置き去りにするほど、彼を追いつめることに熱中していたらしい。気づけば彼はほとんど裸だが、こちらは上着を脱いでもいないのだ。
だが今さら脱ぐのももどかしくて、ベルトだけを外して前を開けた。彼の目を覗き込めば、眩しそうに細められ、「いいぜ」と囁かれる。誘われるままに、彼の中に自身をねじ込んだ。
「……ッ!!」
突き抜ける快感に、思わず身を反らしていた。肩の上で髪が跳ねる。
逃げる腰を押さえつけ、何度も奥を穿った。彼は唇を噛みしめて突き上げてくる衝撃に耐えているが、その姿がさらに劣情を煽るのだ。
「あ……ぁあっ!!」
彼の熱が弾けて、狭い内側の襞がまとわりついてくる。その強烈な刺激には、さすがに耐えられそうにない。
「劉鵬……!!」
その腰をつかんだまま、最奥へ熱を注ぎ込んだ。

汗ばんだ身体を拭き、もう一度包帯を巻きなおす。
手間とは思わなかった。彼の身体に触れるのはいやではないし、彼とともに時を過ごせるのも苦痛ではない。
今度こそ服を着た男は、ちらりとこちらを見ると、肩をすくめた。
「そんな顔するなって」
先ほども聞いた言葉だ。
「どんな顔だ」
まだ飢えているとでもいうのだろうか。なんとなく顔をさすってみるが、これといって表情を作った覚えもない。首をかしげるこちらを見て、彼は半笑いのままため息をつく。
「厳しいはずの長兄が、そんなしまりのない顔してちゃ、弟たちに示しがつかんだろ、ってことだよ」
そう言った顔に、最高にしまらない笑いが広がる。
つられて、微笑んでいた。
「そうかもな……」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!