ホームズ/ワトソン
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特等席
さっきまで足下でがさがさやっていたのが、いつのまにか静かになっている。
散らかった手紙や書類やその他諸々を片っ端から放り投げてはなにかを探す、それ自体はよくあることだったが、なにも人の足下でやらなくてもと思うのだ。たまに飛んでくる封筒などを広げた新聞でブロックして、なんとか無視を決め込んでいた。
結局、紙面の内容などほとんど頭に入っていない。
「ふう……」
安堵のため息とともに、彼が足にもたれかかってくる。目的の書類を見つけたのだろう。
名探偵は「興味深い」「そういうことか」などと呟きながら、資料をこねくりまわして検証していたが、やがて動きもしゃべりもしなくなった。
ひざに寄りかかる身体が重くなっている気がする。
新聞の端からこっそり覗き見ると、彼は目を閉じていた。呼吸が規則正しい。
体温を感じられるほど接触している人間が起きているか寝ているかわからないほど、かの軍医は無能ではなかった。ため息をついて、新聞をたたむ。
「ホームズ……」
腕を伸ばし、寝顔をそっと撫でた。整えられた口ひげではなく単なる無精ひげが指に刺さる。その指が首筋を撫で下ろすと、ホームズはひくりと身を震わせた。
「ん……」
まぶたを押し上げた彼は、呆れ顔の友人を眠そうに見上げる。
「なんだい……」
「ホームズ。私のひざを無断で肘掛けにするのはやめてくれないか」
「……もっともな意見だ」
手にしていた書類をガウンのポケットに突っ込み、もそもそと起き上がる友人を、ワトソンは半眼で見下ろしていた。
こちらを向いて床にひざ立ちになったホームズは、ワトソンの両ひざに手を置いて大きな目で見上げてくる。そして、物乞いのように哀れな表情をつくってみせた。
「おひざに座ってもよろしいですかな、ワトソン先生?」
「……………」
この状況で仏頂面を保つのは難しい。
結局笑ってしまったワトソンは、気まぐれな恋人をひざの上に抱き上げるはめになった。
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