ホームズ/ワトソン

2010_SherlockHolmes,[R18]

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帰還

「……あごが外れるかと思った」
ホームズはワトソンの耳に口を寄せ、恨みがましく囁く。
「だってきみがいきなり……ぁあっ……」
弁解は最後まで言葉にならず、ワトソンは喉を反らせて喘いだ。そんな彼を見下ろしたホームズは、いっそう深く彼の中に楔を打ち込む。
「っ、あっ、ホームズ、ホームズ……」
絡みついてくる腕は、以前より少し細くなったようにホームズには感じられた。退役して何年経とうとも衰えを見せなかった軍用の筋肉は、今や町医者のそれになりつつある。事件を追ってイギリス中を飛びまわらなくてもよくなったからだろう。
だが、久々の再会の直後にホームズを殴った力は、筋力以上のなにかがこもっていた。
「きみが失神したところを初めて見た……」
「ああ……初めてだ……っ」
死んだと思っていた親友が忽然と現れた。驚きのあまりその場で気を失ってしまったジョン・ワトソンは、意識を取りもどすなり心配そうに覗き込んでいた旧友の顔を、手加減なしで殴りつけたのだった。
会話よりも前に感情をぶつけた二人に、論理的な展開など期待しようもない。三年の不在を埋めるべく、男たちは寝室へ転がり込んだ。
傷がないほうのひざを持ち上げ、ホームズは言葉にならない思いの代わりに腰を激しく叩きつける。
「ホームズ……ぁああっ!!」
中へと注ぎ込まれたワトソンは、ホームズの肩に爪を立てて達した。
惚けた顔を見合わせて、息が整う前に唇を重ねる。
それから、ワトソンはくせのある黒髪を撫でて指を絡ませた。
「帰ってきたんだな」
「ああ。滝壺の底からね」
説明を求められると思っていたが、聞きたがりの相棒はなぜともどうやってとも言わず、ただ一言だけ呟いた。
「……またロンドンで暮らせるんだろう?」
「もちろん。ぼくたちの……ぼくの部屋は、兄が管理してくれている。いつでも帰れるように」
「マイクロフトは知っていたのか……」
明らかに傷ついた声音だった。
「仕方がなかったんだ、身を隠すために援助は必要だし、金で雇った人間は信用ならないからな……」
「わかってる、わかってるからもう黙れ。また殴るぞ」
苛立ちのこもったワトソンの抱擁に、ホームズも黙り込んで抱き返す。
「それで提案なんだが、きみさえよかったら……」
どう切り出したものかと言葉を選んでいると、ワトソンが心得た様子で鼻を押し当ててきた。
「一つ条件がある」
聡いこの友人は、こちらの要望などわかっているらしい。
「ああ、クスリはもうやめる。深夜のヴァイオリンは……努力するよ、だから……」
そうじゃない、とワトソンはホームズを睨みつけ、裸の胸に指を突きつけた。
「二度と、ぼくを置き去りにして滝に飛び込んだりするな。次は殴るくらいじゃ済まさない」
あごが疼く。痛い目には何度も遭ったが、これほどの痛みはそうそう思い出せない。相手は巨漢のボクサーではない、ただの町医者だというのに。
ホームズはこの三年、ずっと触れたかった胸の上に手を置く。
「わかった。約束する……いや、誓うよ」
彼は微笑み、誓いの口づけを要求した。

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